日常に潜む絶体絶命のピンチ
ピンチや絶体絶命の場面
マンガやアニメでは、ヒーローや主人公が絶対に助けてくれる。
とんねるずの歌では、がじゃいもであり、今は日本ハムファイターズの杉谷拳士だろうか(杉谷はヒーローキャラではなく、完全に応援歌だけだが)
つまり、現実世界では、どんな絶体絶命でもヒーローは現れずに、自力でどうにかしなければならない。
1979年日本シリーズ広島VS近鉄の第7戦。9回裏広島4-3リードで、ノーアウト満塁、絶体絶命のピンチから一人で抑え切った江夏豊のように。
とある平日の木曜日。「今日も疲れたなー」と仕事を終え、21時半頃帰宅。ドアの前で、カバンから鍵を出そうとする。
僕はキーケースを持っておらず、カバンの中にカギをそのまま入れていた。「いつか無くしそうだな」と自分でも思いつつ、一度もカギを無くしたことはない。
手でカバンの中を探るがカギが見つからない。次は、カバンを置いて中を見ながら探そうとした瞬間、頭の中で記憶が急速に巻き戻しされた。
「キュルキュルキュル!」と、まさにドラマでよくあるあのシーンだ。
記憶が14時間分巻き戻された場面。ドアを開け家から出る時、カギを持って出なかった。でも、目の前のドアはカギがかかっている。
ドアを間違えているわけではない。住んでいた小さなマンションの1階に、ドアは2つしかないのだから。
また、酔っぱらっているわけではない、きっちり素面だ。
では、なぜカギがかかっているのか。
前日、当時付き合っていた彼女が泊まりに来ており、僕が先に家を出た。2個あるカギの1個を僕が持ち、もう1個で彼女にカギをかけてもらうつもりだった。
「カギはドアの郵便受けに入れといて」と言って家を出たのだが、僕はカギを持たずに出てしまっていたのだ。
つまり、鍵の1個はドアの郵便受けの中。もう1個は部屋のどこかにある。
それが分かった瞬間「うあぁぁ!!!」と叫んでしまいそうになったが、近所迷惑になるので、グッとこらえた。
「うわ、終わった、、、」と一気に落胆し、さてどうするかと考えた。
とりあえず、この状況を共有したいと思い、彼女に状況をLINEした。すぐに返信が来て、心配してくれたが、彼女はヒーローではない。いや、ヒロインではない。絶体絶命のピンチは自力でどうにかするしかないのだ。
「大丈夫ありがとう。とりあえず、何とかしてみる」と返信。このような場面返信があるだけで、ありがたいものだ。
「さて、どうするか」と考えた。
①マンションの管理人に連絡をする
電話番号は調べればわかるだろう。でもこの時間に連絡するのは大迷惑だし、そもそもこの時間から対応してくれるか分からない。よって、保留。
②実家に帰る
木曜日なので、翌日の金曜日を乗り越えれば、土日で対応が出来る。しかし、実家に帰るには2時間弱かかる。この時間から帰るのは、しんどいのでとりあえず保留。
③郵便受けからカギを取り出す
カギが郵便受けにあると分かった瞬間、なんとか出来ないかと考えていたのだ。そしてなんとなくイメージは浮かんでいた。よって、取り出す作戦を実行することにした。ダメだったら、実家に帰るしかない。
なんとなく浮かんでいたイメージというのは、郵便受けの差入口から、紐を垂らし、先端に付けた磁石でくっつけてカギを出す、カギ釣り作戦だ。早速この作戦に取り掛かることにした。
まず、そもそも手で取れないかと考えた。僕の体型はやせ型で、お腹まわりはゆるくなっていたが、手足は細い。特に左の手首はかなり細く、左手が入らないかと考えた。
実際試してみると、左手は入るが、ドアの形状的に腕までは入らない。郵便受けから直角に下ろすわけだからそれは無理だ。
次に、中を確認しようと思った。そもそもカギはあるのか。まだカギ自体を見ていないので、一応確かめた方が良い。あるはずなのだが、どのような状況になっているのか把握する必要がある。
しかし、郵便受けの差入口からどうやって確認するか。手は入るが、もちろん顔は入らない。そこでスマホだ。スマホというのは、カギを郵便受けから取るのを助ける機能も付いているのだ。
カメラを起動しライトを点ける。スマホまで、郵便受けに入れてしまったら完全に終わりなので、絶対に落とさないよう、差入口からスマホを入れると、カギはそこにしっかりとあった。
そして、更に予想していなかった、良いことがあった。
ドアの郵便受けは、差入口があるだけで、そのままストンと玄関に落ちるタイプだと思っていた。なのでカギ釣り作戦をイメージしていた
しかし、ドアの内側にはボックスがあり、そのボックス内にカギがあったのだ。
こんな感じで、差入口から30センチ下くらいにカギがあるのだ。彼女が勢いよくカギを入れて、ボックスからも飛び出ていたら終わっていた。
「これはいける!取れるぞ!」一気に希望の光が見えた。早速カギ釣り作戦を実行する為、近くのスーパー、サミットへ向かう。
サミットで日用品売り場に行き、使えそうなものを購入した。紐、布テープ、強粘着のコロコロ。この時初めてカーペット用の強粘着コロコロがあることを知った。世の中知らないことばかりである。残念ながら磁石は売っていなかった。
自宅に戻り、早速作戦開始。時刻は22時10分。スーツを着たサラリーマンがドアの前で、しゃがみ込みんで何かしている。完全に怪しいのだが、人通りが少ないマンションで良かった。
当初は紐で釣る作戦を考えていたが、カギの状況と購入物により、作戦を変更することにした。
強粘着コロコロでくっつける作戦だ。
まず、筆箱から、折り畳み式の30㎝定規を出す。この定規は誰かからもらった気がする。定規というのは、線を引く、長さを測る以外に、カギを郵便受けから取る為にも使うことが出来るのだ。
定規の先端に強粘着コロコロをぐるぐる巻く。それが取れないように、布テープでしっかり巻く。これで完成。
定規を郵便受けから差込み、カギにくっつけて取り出したいのだが、取り出す途中にカギが剥がれてしまい、ボックス内から落ちてしまうのが、一番怖かった。
なので、やみくもに定規を差し込んだりはしない。右手に定規、左手にスマホを持ち、ボックス内の状況を確認しながら、慎重に作戦を実行。まるで、内視鏡手術をする外科医になった気分だ。
定規の先端をカギにくっ付け、そっーと持ち上げる。「これはいける!取り出せるぞ!」と思った矢先、カギは剥がれて落ちた。
「うわ!ヤバい!」と思ったが、持ち上げた高さが低かったので、無事にボックス内に残ってくれた。
「あぶねー、、、 よりしっかりくっ付けて、慎重に持ち上げるべきだな」「なるべくドアに沿って持ち上げよう」と反省。
そして、先端の強粘着コロコロを貼り変える。少しでも粘着力が落ちたら失敗のリスクが高まるのだ。
2回目のチャレンジ。手汗をしっかり拭き、右手に定規、左手にスマホを持ち、イメージを高める。
宇宙船がISSにドッキングするみたく、慎重に丁寧に手を動かした。カギまで定規を下ろし、カギにしっかりくっ付ける。
持ち上げるイメージを高めてから、そっーとカギを持ち上げる。ドアに沿いつつもドアにはぶつけない。「俺は出来る、カギを取り出せる」と強い気持ちで、持ち上げる。
順調に持ち上げることができ、最後は差入口から出す作業だ。今まで上に持ち上げていたのを、手前に移動させなければならない。
「やべ、持ち上げるイメージしてたけど、取り出すイメージしていなかった」と一瞬焦ったが、すぐに取り出すイメージを作る。右手で持ち上げ、左手で取ることにした。
左手のスマホをポケットに入れ、ここからは感覚で手を動かすことになる。
「俺は卓球をしているんだ。直径40㎜、2.7gのボールを扱うことが出来るんだ。繊細な手の感覚を持っているから大丈夫だ!」と自分を高める。
右手でカギを慎重に持ち上げる。左手は差入口を押さえている。
カギを差入口まで持ち上げることが出来た。左手で差入口を押さえつつ、カギを受け取ることが出来れば作戦成功だ。
右手は引っ張るのではなく、指と手首の動きで、定規の向きを変え差入口に近づける。差入口からカギが見える。
そっ―と、定規を動かし、カギが差入口に出かけたところで、左手でしっかりと掴む。無事に作戦成功だ。
作戦成功直後、「よっしゃー」と声をあげるわけではなく、「あー良かった」と思わずドアの前に座り込んでしまった。と言っても、人目が恥ずかしいので、すぐに救出したカギで、自宅に入る。
早速、定規とカギの写真を撮り、彼女に報告。今であれば、速攻でnoteに書き込むのだろう。
「絶体絶命のピンチでも諦めちゃいけない」と言うのは、誰でもわかっている。安西先生が「諦めたらそこで試合終了ですよ・・・?」と言っているのだから、絶対にそうなのだ。
実際に結果を残した人、スポーツでもそういう場面は、何度も見ているし、知っている。
でも冷静に考えると、皆さん自分自身で体験したことはありますか?
卓球の試合で、負けていて諦めずに戦っても、逆転できることは、ほとんどない。逆転出来るときは、諦めるとかそういう話ではなく、「そもそも俺の方が強いんだから、負けない」と思ってるから逆転出来るのである。
そう考えると、このカギ救出作戦は「絶体絶命のピンチでも諦めちゃいけない」が、初めて成功した実体験かもしれない。
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