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「法律事務所」から「犯人が逮捕されて被害金が返金される」と連絡を受けたら???

CHARMSでは被害に遭ったばかりの方々だけではなく、以前にご相談をいただき、被害後しばらく時間が経った方から再びご相談をいただくことがあります。ご相談の種類はいくつかありますが、今回ご紹介するのは、実在する法律事務所の弁護士を名乗る人物から「被害金が返還される」という連絡を受けたという話です。果たしてそれは本当なのでしょうか?

相談者の方からのご質問:
シンガポールの弁護士事務所「XXXXX(外資系ローファーム)」のYYY(日本語名)という人から電話がかかってきて、海外でロマンス詐欺や投資詐欺を行っていた犯人が捕まり、その後の処理で被害者の中に私の名前があり、被害金額が返還されるという話を聞きました。これは本当でしょうか?

相談者の方の言葉を当方で一部改編

答えは、もちろん詐欺です。幸いなことに、このご相談者の方の場合既に怪しいと感じておられ、新たな詐欺に巻き込まれることはありませんでした。しかし一度でも被害に遭われた方であれば、「お金が戻ってくる」という話を信じたいという気持ちが働くこともあるかもしれません。

この「法律事務所の弁護士を名乗る人物から犯人が逮捕されて被害金が戻る」という連絡を受ける件が詐欺であると言える理由、どのようにしてそれを調べることが出来るかについて解説してゆきましょう。

「お金が戻る」はリカバリー詐欺

メールや電話、メッセンジャーアプリなどを使って「被害金が戻る」という話を持ち掛けてくるのは、「お金を取り戻したい」と願う詐欺被害を受けている被害者の方を狙ったリカバリー詐欺手口の一つです。

リカバリー詐欺とは、詐欺被害で失ったお金を取り戻す(リカバーする)と嘘をついてお金をだまし取る詐欺のことです。

しかしなぜ、連絡を受けた方が詐欺被害者であるということを、相手は知っているのでしょうか。被害中に詐欺被害者は個人情報を詐欺師に提供しています。たとえば投資サイトへの登録や、贈り物を贈るからと言って教えた連絡先などとして。それらの情報は、「カモリスト」として闇で売買されます。そうすると、最初に騙した詐欺師以外にも、個人情報は拡散されている可能性があるのです。また騙せる相手として、ターゲットにされたということです。

本物の法律事務所が注意喚起をしている

今回の記事を書くきっかけになった相談者様に連絡があったという偽法律事務所は、実在の大手の外資系法律事務所を装っていました。実はこのようなケースはよくあるらしく、幾つかのグローバルな法律事務所には注意喚起が掲載されています。

例:レイザム&ワトキンス法律事務所

例:アンダーソン毛利&友常法律事務所

相談者様のお話と、これらの法律事務所の注意喚起の内容を合わせてまとめるとこのような手口であることがわかります。

  • 実在の法律事務所や、そこの実在する弁護士の名前を名乗る。

  • 犯行グループがシンガポールなどで逮捕されたので、被害金が全額戻るといい、メッセンジャーアプリなどで個人情報を収集し、暗号資産などで裁判所の供託金として支払いを要求する。

  • 副業などの仕事募集があると言い、オンラインチャットやテキストメッセージ上で面接をするとして個人情報を不正に取得する。

  • このほかにも困りごとの解決をオファーする、未払いの税金の請求、虚偽の請求書の送付など

実在の法律事務所や弁護士の名前を使っているということは、詐欺ではなく本物から同様の連絡が来ることもあり得るのではないかと思われる方もおられるでしょう。

そこで、名前を悪用されてしまった法律事務所は、自分たちの法律事務所がそのような詐欺とは関わっていないことの裏付けもとっています。偽の電子メールや電話による一部の詐欺行為は、たとえば英国弁護士規制局に報告されています。すべての詐欺情報が登録されているわけではありませんが、こちらでその詳細を観ることが出来ます。

Solicitors Regulation Authority - Scam Alertsページ(英文)

一つ例を挙げましょう。Latham & Watkins のJessica Walkerの名前を使った詐欺について英国の弁護士規制当が調査の結果を報告しています。

  • Latham & WatkinsのJessica Walkerを名乗る人物が米国の一般市民に電話をかけてきた。

  • その人物がかけてきた電話番号はLatham &Watkinsで使われている電話番号ではない。

  • Jessica Walkerという人物がLatham Watkinsに在籍するが、所属先の電話番号が異なり、当該弁護士は米国での業務はおこなっていない。

  • Latham & Watkins法律事務所とJessica Walkerはこの電話には関与していないことが確認された。

しかし懐疑的な方であれば、本物の法律事務所が「我々は詐欺事件とは無関係です、英国の弁護士規制局が調べたから間違いない」と言っただけでは納得できないかもしれません。

もし、本物の法律事務所が「それは偽物です」といってCHARMSの相談員が「それは詐欺です」といってもなかなか納得できないならば、ここでお勧めしたいのが自分で調べてみることです。

自分で調べる(1)本物の法律事務所のサイト

  • メアドはその法律事務所の公式ドメインを使っていますか? たとえばLatham &Watkinsなら @lw.com です。法律事務所がフリーメールを使うということはありません。

  • その法律事務所の正式なWebサイトを探して、そこに載せられている電話番号やメールアドレスなどを探してみましょう。コンタクトとってきた電話やメアドと同じですか?

  • 本当にそこの職員かどうかを確認するために、本物の法律事務所のセキュリティ担当者に連絡することも可能です。Latham & WatkinsやAnderson Mori & Tomotsuneの注意喚起記事には、疑わしいコンタクトを受けたら連絡をと書いてありますので、その連絡先にメールをしてみましょう。

自分で調べる(2)サイトや電話番号を調べるツールを使う

ScamAdviserというサイトを使うと、相手から教えられた法律事務所のサイトが本物かどうかを調査できます。たとえばできて1年以内のサイトだったり、マルウェアやフィッシングが仕組まれているという結果が出たなら、それは詐欺サイトであると断定できます。

相手が使っていた電話番号を調べてみましょう。Recerse Phone Number Lookupを使うと、電話番号がどのキャリアを使っているのか、モバイルか有線かなどを調べられます。たとえばBandwidthの電話番号であれば、電話番号の国外でも買えるGoogleやSkypeのIP電話番号です。実際ある相談者様にかかってきた電話は日本のIP電話でした。

メールやメッセージを受け取っている場合、ScamRangerというサイトで調べることもできます。このScamRangerという団体は膨大な量の詐欺メッセージのデータから受け取ったメッセージが詐欺かどうかを判別してくれます。日本語に対応していませんが、もしメッセージを日本語で受け取っているならば、Google翻訳で英語に逆翻訳したものをScamRangerにかけてみるという方法もあります。言葉のパターンや、書いてある内容などからそのメッセージが詐欺である可能性がどれくらいあるかをScamRangerは教えてくれます。


そもそも本物のサイトの判別の仕方がわからない、ツールを教えてもらっても使いこなせない、という場合、まずは被害金が戻るという話は絶対に嘘です! 自分で調べられない、誰かにやってほしいという場合、CHARMSの無料相談は相談内容の調査をすることがメインではありませんが、必要と判断された場合には調査担当スタッフがお調べすることもあります。
 

まとめ

CHARMSでは、詐欺被害者の方から「法律事務所の弁護士を名乗る人物から、被害金が返還されるという連絡を受けた」との相談をお受けすることがあります。これは「リカバリー詐欺」と呼ばれる手口で、被害者の心理につけ込んで再度詐欺を働くものです。実在の法律事務所や弁護士の名前を騙ることも多く、本物と見分けることが困難です。

詐欺かどうかを確認する方法として、以下をお勧めします:

  1. 公式な法律事務所のサイトで連絡先を確認し、不審なメールや電話番号と照合する。

  2. ScamAdviserやReverse Phone Number Lookupなどのツールを使用して相手の情報を調査する。

  3. CHARMSに相談し、必要に応じて調査を依頼する。

詐欺被害を防ぐためには、「被害金が戻る」という話には特に警戒し、冷静に対応することが重要です。

(文章:武部理花)

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