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『カムカム』を『おかえりモネ』と比較しながら観ていられる理由

『おかえりモネ』が大好きになった。そんな私が『カムカム』に、自然に入っていけるのは、『カムカム』の脚本が、NHK朝ドラ『ちりとてちん』を書いた藤本有紀さんだったからだと感じている。

『ちりとてちん』とは、どんな朝ドラだったか

これまでの朝ドラヒロインにありがちな「持ち前の明るさで、困難を乗り越えていく前向きな主人公」とは180度異なる、心配性でマイナス思考のヒロインが大阪で落語家を目指す姿を描く。舞台となるのは福井県小浜市大阪府貫地谷しほりが演じる主人公・和田喜代美(わだきよみ)/後の徒然亭若狭(つれづれていわかさ)、和久井映見が演じる母・糸子(いとこ)、青木崇高が演じる喜代美の兄弟子で後に夫となる徒然亭草々(―そうそう)を中心に、個性豊かな登場人物によって繰り広げられる喜劇仕立ての成長物語である。
                        (Wikipediaより)

ヒロイン〝喜代美〟と〝モネ〟の共通点

物語の序盤で、住み慣れた場所から離れたいと願う。何がやりたいか、ということが明確でないまま、出かけた先で偶然出会った〝人物A〟に惹かれて、その人が持っている〝技〟を学びたくなる

その〝技〟を学ぶなかで、親身に面倒を見てくれる年上の男性〝人物B〟と、最初は同志のような関係にあるが、やがて相思相愛になる

その〝技〟を自分のものにして、そこそこ成功するのだが、その成功の場からあっさり退場する。そして最後は、自分を大切に育ててくれた〝人物C〟みたいになりたい、という強い思いを持ったところで物語が終わる。

人物A〟に「気象予報士の朝岡さん」を、〝人物B〟に「菅波先生」を、そして〝人物C〟に「サヤカさん」を入れれば、『おかえりモネ』になるのは言うまでもない。

ところが、〝人物A〟に「徒然亭草若師匠」、〝人物B〟に「兄弟子・草々〝人物C〟に「お母さん(糸子)」を入れれば、そのまんま『ちりとてちん』になってしまう。

『ちりとてちん』で描かれる〝男のモチベーション〟

男のモチベーションについて、『ちりとてちん』で、印象的なセリフがある。草若師匠が、亡くなる直前、ヒロインの実家(福井県の小浜)に来た時、ヒロインの母・糸子と二人で話す場面。話題は、糸子の夫、つまりヒロインの父が〝伝統工芸士〟になるまで頑張ったことについてだった。

草若師匠は糸子に、「あなたのご主人が、ここまで頑張っているのは、どうしてだと思うか?」と尋ねる。はっきり分からない様子の糸子に、草若師匠は、「アンタに喜んで欲しいからや!」という言葉をかける。妻の存在が男にとって、どれほど大きいものかを、糸子に伝えたのだ。

〝妻に喜んで欲しい男性〟と言えばもう、『おかえりモネ』の主要な既婚の登場人物は、全部そうじゃないか!とさえ思えるほど。耕治さんは言うに及ばず、龍己さんも「ハニー」だし、新次さんは、草若師匠そのものだ。

妻と死別した夫は、仕事が続けられなくなる、と言えば、新次さんを思い出すだろうが、『ちりとてちん』の草若師匠も、全く同じ状況から物語がスタートしている。

『ちりとて』の良さが『モネ』で生きている

もちろん、テーマが違うし、表現の方法も全く違うけれど、一見すると全てが新しいように見えた『おかえりモネ』の骨格には、間違いなく『ちりとてちん』を深く分析し、参考になるところを、貪欲に取り入れているように思える。先に書いたのは、そのほんの一部に過ぎない。

もちろん、藤本有紀さんお得意の〝巧みな伏線と、その回収〟もだ。だから、私のような、コアに『ちりとてちん』を愛してやまない者も『おかえりモネ』に〝沼落ち〟してしまったんだと思っている。

ならば、逆もアリだ!

『おかえりモネ』が『ちりとてちん』に似ているのなら、『カムカム』の中にも『おかえりモネ』にも通じるものがあるはず。

今、Twitterで、ふたつの作品を並べて、その違いを楽しむような書き込みが、静かな流れとして存在している。Twitterに敢えて書かなくても観ていられる、みたいな書き込みもあった。それが可能なのは、やはり〝似ている何か〟があるからだと思う。

『モネ』の成功を『ちりとて』ファンは喜んでいる

『ちりとてちん』の放送中の評判は、芳しいものでは無かった。だからこそ、同じように複雑な骨格と長いスパンの伏線の回収を仕込んでも高評価を得た『おかえりモネ』の成功は、本当に嬉しかった。

第150回で伏線回収の『ちりとてちん』

最終盤の神回だ。序盤から張られた伏線が見事に回収されて、おそらく多くのファンが泣いた回だ。全話を見直す時間がない方は、ここから観始めると、『おかえりモネ』との似た空気感を味わえると思う。

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