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バンドはヘッド博士(的アルバム)を作ったら解散しなければならないのか?

ある作品を形容する時によくあるのが、ロックの名盤を引き合いに出すというもの。「○○版サージェントペパーズ」とか「○○版ペットサウンズ」みたいな言い方。

すでにクラシックとなったロックの名盤が、例えに使われることが多いですが、30年前の1991年に出たフリッパーズ・ギターのラストアルバム「ヘッド博士の世界塔」もその仲間入りしていいかなと思います。

そもそも「ヘッド博士」も「フリッパーズ版サージェントペパーズ」とか言われることもありました。

今年は、ヘッド博士が発売されて、その後フリッパーズが解散してちょうど30年が経ったタイミングということもあり、ヘッド博士のことを考える機会が多かったです。

そこで、「このバンドにとって、これはヘッド博士だったんだな」と感じたアルバムを紹介します。

「住所不定無職」というバンドが2013年にリリースした「GOLD FUTURE BASIC,」です。

このアルバムにたどり着いた元々のきっかけは、レコスケくんでもおなじみの、ジョージ・ハリスン好きで音楽に造詣が深い漫画家/イラストレーターの本秀康さんが、「℃-want you!(シー・ウォンチュ)」というアーティストの作品を自身のレーベルからリリースしているのを見かけたところからでした。
趣味的に信頼できる方ということで℃-want you!の曲を聴いたらとても良くて、調べてみたら「マジック、ドラムス&ラヴ」というバンドのメンバーでした。

さらに、「マジック、ドラムス&ラヴ」(以下マジドラ)を聴いてみたら、なんとまあメロウなソウルテイストの曲が素晴らしく、ドハマりしてしまいました。

それでマジドラのことを調べると、どうも「住所不定無職」というバンドのメンバーを中心に作られたことが分かりました。ですが、このグループ名からは音が想像がつかず、思い浮かぶのは細野晴臣の「住所不定無職低収入」(HOSONO HOUSE収録)という曲のことだけ。

YouTubeで「住所不定無職(以下、住所)」を検索すると、60年代風のポップな服を着た3人組の女性グループのライブ映像がありました。ドラムの女性がなにかを叫びながら曲が始まりました。ドラムを叩きながら歌う声は甲高く不安定に聴こえたけど、とにかくポップで楽しそうな演奏風景に惹きつけられました。

ベースの女性はギターとベースのダブルネック(重そう…)を抱えていて、舌足らずな声のコーラスが魅力的でした。

ギターは少しゴツめのギャルみたいな女性。シューゲイザーのギタリストのようにあまり顔を上げずにギターを弾いています。

でも、プロフィールを見ても、メンバーのパートは、全員が「ギターとか」という曖昧な設定のため、この後も名前と顔が一致しないまま数ヶ月を過ごします。


とりあえずリリース年の古い順からサブスクで聴き始めたものの、ジャケットがどれもポップで手元に持っておきたいデザインだったのですぐにCDも買い集めることに。


「ベイビー!キミのビートルズはボク!!」(2010年3月)

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ギターウルフのセイジが褒めたという「ラナラナラナ」で幕を開ける彼らのファーストアルバム。

印象は、録音も演奏のクオリティも含めて全体的に、90年代半ばあたりの下北にいたような、RAMONESが好きで、決して上手いとは言えないガレージ / アノラック系の女の子バンドという感じ。

しかし、よく聴いてみると違いました。

RAMONESやRubinoosの名曲「I wanna be your boyfriends」を思わせるタイトルの「I Wanna be your Beatles」はもちろんビートリッシュな曲調だったけど、音作りにも強いこだわりを持っているのはすぐに感じました。

「ひまらや」という曲は往年のSUB POPのグランジの音だし、「高円寺の渚ちゃん」からはLA'Sの「There She Goes」が聞こえた。直接の元ネタではないけど「おやつ××××」という曲は、トッド・ラングレンがいたTHE NAZZの「Open my eyes」を想起させる60年代っぽいリフが格好よかった。

「世界で一番ステキなGIRL」は、(60年代はTHE WHOが、70年代はTHE JAMが、80年代はザ・コレクターズが、10年代はラーナーズがカヴァーしている不滅のダンスナンバー)MARTHA REEVES & THE VANDELASの「恋はヒートウェーブ」のパンク版とも言えそう。ガレージバンドと呼ぶには音楽的な懐が深い。

ちなみに、最初に動画で見たギターのギャルの方は、活動初期ということもあってか、このアルバムのジャケット写真ではまだ少しふっくらしていて、ギャル度はまだ低め。



「JAKAJAAAAAN!!!!!」(2011年1月)

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Monkeesのロゴマークをなぞったバンドロゴも格好いい第二作目は、前作に比べると音も曲も格段にレベルアップしています。

特に良かったのは、Weezerのようにメロディアスなパワーポップ「マジカルナイトロックンロールショー」と、Buddy HollyやElvis Costello、Bo Diddley、John Lennonなどの、眼鏡姿が印象的なロックスターの名前が次々出てくる「メガネスターの悲劇」。ロリータ18号が1999年にカバーした「ラジオスターの悲劇」を思い出します。


このアルバムのジャケットのギャルメンバーは、ちょうど動画で見た時期のようで、アイメイクが濃くなって本格的にギャルになっています。にも関わらず、「アタシアタシ」と一番前には出ずに後ろでやや引いて写っていることから、本当は奥ゆかしい、育ちが良いギャルなのかもしれないと思わされます。


トーキョー・ポップンポール・スタンダードNo.1フロム・トーキョー!!!(2011年11月)

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前作から1年も経ってないのにガレージバンドから力強いポップな音楽性に「転向」していることに驚かされます。初期からのファンは発表当時、相当困惑したのでは?

Byrds調のキラキラしたギターポップから始まったのに、次はガレージ、さらにハウス、と次々に音楽性を変化させていったPRIMAL SCREAMの「ロックの転向」と同じ格好良さを感じました。

音楽的には、大雑把に言うとナイアガラやサーフィン/ホットロッドなど、オールディーズポップスを拠り所に現代の音にアップデートしたような印象ですが、ヴォーカル2人の表現力が格段にアップしているので、ある意味ヴォーカルアルバムに聴こえました。

ジャケットもポップでラブリーなデザインなので、例のギャルのメンバーもこれまでより爽やかで清楚なギャルに仕上がっています。

ここでやっと、ウェブ上のインタビュー記事を検索した流れでギャルのメンバーの名前が「ゾンビーズ子」さんであることが判明しました。

ゾンビーズ子さん、、、ほとんどの作曲をしている住所の音楽的なブレイン。すごい才能を持ったギャルですね。。。

たしかに、Zombiesの「Odyssey & Oracles」は50年も前に作られた音楽とは思えないくらい洗練されていて芸名に使いたくなる気持ちも分かります。



GOLD FUTURE BASIC,(2013年10月)

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前作から2年も空いて、またも「転向」。結果的に住所のラスト作になるこのアルバムは、イントロやインタールードが配置された、いわゆるコンセプトアルバム的な構成。ポップなインナースリーブもフリッパーズ・ギターが1991年に作り上げた「ヘッド博士の世界塔」のよう。

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イントロを経て冒頭を飾る「IN DA GOLD,」はKURTIS BLOWの「Throughout Your Years」のようなパーティーディスコ・ヒップホップで、回転するターンテーブルをタイムマシーンに見立てて過去にWarpするストーリー。

作詞はゾンビーズ子さん。リリックに散りばめられた固有名詞がゾンビーズ子さんの音楽への情熱を感じさせる。

中学生の頃に手に入れたというDamnedやCLASHの名前が出てきたり、自分の神として「ブライアン、コリン、ポール」(おそらく、Brian Willson、Colin Blunstone、Paul McCartneyのこと)の名前を挙げたりしている。

まだ魔法が続いているという「illmatic」(nasが1994年に発表したHIPHOPの名盤)、スライ(Sly &the Family?)、ウーマック(Bobby Womack?)などのブラックミュージック関連の名詞も。

「ピチカートするよこの心臓」(ヴァイオリンなどの弦を指で弾くことと、ピチカート・ファイブとのダブルミーニング)、「HIGH→LOWしてくボクの身長」(もちろんハイロウズ)、「ナイアガラの先のA&Mから流れるヒットチューン」(それぞれ、大滝詠一のレーベルと60~70年代アメリカのMOR/Rock系の名門レーベルのこと)のようなマニアックな遊び心のあるフレーズ。

これらの過去の素晴らしい音楽をゴールドに例えつつも、「自分たちの作っている音楽も今は評価されなくても未来にはベーシックなものになって、ゴールドになるんだ」という希望が込められているように聴こえるのは考えすぎか。

「CRIMINAL B.P.M」はあの印象的なベースラインを使ってないにも関わらずArchie Bell & the Drellsの「Tighten Up」あるいは「I can’t stop dancing」のよう。「ローラは不機嫌」はBEATLESのサージェントペパーやSMALL FACESのオグデンズ・ナット・ゴーン・フレークのような67年~68年頃の英国ロック調の格好良さ。

「Happy Rain 雨のハイウェイ大脱走」はスカパラ曲と並べても遜色ない出来の、歌ものスカナンバー。アルバム未収録の「シャ!シャ!シャ!シャイン・ア・ライト!!!」ではEdison Lighthouse「恋のほのお」のギターリフを拝借。

とにかく情報量の多い作品という意味でも、「これ以上先には進めない」ところまで突き詰めたという情熱が溢れ出て、そのまま解散せざるを得なかった感じも、まさに住所不定無職の「ヘッド博士」と呼べるアルバム。

当時の特典だったアルバム全曲のインスト版CDも聴き応えがあります↓

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このアルバムの時のゾンビーズ子さんは、ギャル卒業とまではいきませんが、だいぶ落ち着いた雰囲気になり、お姉さんギャルとして元々の育ちの良い女性に戻りつつあるように見えます。

↓ ヘッド博士の初回盤の穴からこちらを見る住所のメンバー

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住所はこの体制でこの音楽性を継続し、ライブで再現するのを難しいと思ったのか、新しいグループとして、ブラックミュージックに寄った「マジック、ドラムス&ラヴ」に発展。

ギャルのゾンビーズ子さんは、マジドラになってからは「Jinta=Jinta」さんという男性メンバーに転向して、住所の時よりもさらに名曲を連発しています。

ドラムを叩きながら甲高い声で歌っていた、あのユリナさんは、ヴォーカリストとして別人かと思うほどの表現力を身に着けて僕をクラクラさせてくれています。また、クールでもユーモアを忘れないワードセンスで韻を踏む素晴らしい作詞家としても活躍しています。

特にセカンド・アルバム「HURRICANE UPSETTER」収録の「メテオ・フライト」でのユリナさんの歌唱は鳥肌ものです。


そんなヘッド博士をリアルタイムで聴いていた音楽ファンの記憶を記録したZINEが1,500部以上売れています。僕も編集と執筆で参加させていただいてます。(購入はオンラインかディスクユニオンのいくつかの店舗などでどうぞ)

ZINEの詳細と購入はこちら
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