古都へ集うクリエイターたち:地方で働く選択と、街づくりの成功と失敗

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ゴールデンウィーク、信州長野市へ帰省ついでに、長野市内のコワーキングスペースやらシェアオフィスやらをみて回っておりました。

昨今の善光寺近辺、古い蔵とか民家、工場とかを格安で借り、自力でリフォームしてオサレな空間に変えて利用する「リノベーション」というのが非常にアツい。
フリーランスのデザイナーさんが仕事しながら店番をするインディーズCDショップとか、1階がカフェで2階がコワーキングスペースとか、東京でもなかなか見られない洗練された場所がたくさん。

いくつか紹介しつつ、いろいろ考えさせられたことなどを残そうと思います。

■善光寺界隈:古都の街並みを賑わすクリエイティブな物件たち。

長野市権堂町のパブリックスペース「OPEN」
元々は呉服屋の建物。取り壊しになる予定だったが、これだけ大きくてしっかりとした古い建物を無くすのは勿体ない、と、地元の不動産業者が声をあげ、借りる人がいないのなら共同で使おう、と提案。地元に住むフリーランスのデザイナーや革職人、店舗経営者らが集まってLLPを組み、共同で建物を運営している。

白壁と黒壁が並ぶ古い建物に広い庭が、先進的な雰囲気に溢れて非常に魅力的な場所になっている。

上の写真はコワーキングスペースで、1階はカフェ。フリーランスのWebデザイナーをしている後輩とここで話をしていたら、OPENを利用する他の方や旅行中にたまたま訪れた方などとも話が盛り上がったり、人が繋がるのには非常にいい空間。市内の主要な施設にも徒歩で行ける距離だし。

OPENの中の1スペース、Webデザイナー・山崎智子さんの事務所兼ショップ「ANTENNA」
山崎さんは元々、「ANTENNA」という長野の音楽情報フリーペーパーを仲間と作っており、今回OPENに参加するにあたって、事務所として借りる自分のスペースが「たまたま広かったので」ショップを置くことに。
普段山崎さんともう一人が奥の事務所で仕事しながら店番をしている。
CDは山崎さんが東京のレーベルなどから直接買い付けているらしい。ロック系、クラブ系さまざま、自分の耳でしっかり聴いてセレクトしたものを置いている。東京のアンダーグラウンドシーンから世界で評価される先鋭的なレーベルのものなど、ラインナップは相当本格的。直接CDを置いてくれるよう訪れる地元のバンドもたくさんいるとか。
1階は小さなライブスペースになっており、壁にホフ・ディランなど有名アーティストのサインも残っていた。

こちらはOPENから善光寺に向かって少し歩いたところにある、廃工場を改装して最近オープンした新小路カフェ
1階はオサレなカフェで、2階がシェアオフィス。値段を聞いたら結構安い。
ノマドな人なら1階のカフェに入り浸るのも良いかも。
イベントホールも併設してるみたいで、いろんな活動の拠点になりそう。

同じく古い蔵を改装し、規模の大きなシェアスペース「KANEMATSU」として再生、運営している異業種ユニットボンクラさん。
上の写真はその中の一店舗、遊歴書房という古本屋さん。やはりというか、ラインナップを見ると現代文明、資本主義への問題提起が根底にあるのかな、と思う。
この建物は建築事務所、ベーカリーカフェなども一緒になった面白い場所で、物件再利用の事例として全国各地から視察が訪れるほど。写真が撮れなかったので、詳細はリンク先を参照してね。ここは言わば、善光寺界隈で盛り上がるこうした動きの最右翼・中心地でもあるので、必読です。

・COLOCAL:山崎亮 ローカルデザイン・スタディ「そして、ボンクラが生まれた。」

僕の昔からの友人である画家、香山洋一氏も最近、リノベーションによって古い民家を改装し、市内にアトリエ兼ギャラリーを開いている。ここは元々、八百屋の倉庫だったらしい。
ついでとばかりにいきなり押しかけてしまったけど、色々興味深い話が聞けてしまった。
幼馴染の大工や飲み仲間の内装業者などからアドバイスを受けつつ、自力で壁を張ったり床を張ったり天井を張ったり階段や柱を調整したりってのも、地方ならではかも。本人いわく、「かなりひどい建物だった」とのことで、今も仕事帰りにちまちまと改装を続けているらしい。写真を見ればわかるけど、外観からは想像もつかないオサレで居心地のいい空間。


■アソビズムの長野ブランチプロジェクトと、地方で働くという選択肢。

ヒットアプリ「ドラゴンポーカー」を作ってるゲーム会社・アソビズムも、善光寺西町の古い宿坊をオフィスに改装して長野に拠点を作っている。

ファミ通App・アソビズムの長野支社が魅力的すぎるので紹介したい:http://app.famitsu.com/20140218_318251/

最終的には、山ひとつを丸ごとクリエイタービレッジにしたいっていう構想があるらしい。いいなーいいなー

実は、僕も最近友人とこの構想は話していたことがある。
ゲーム作りとかそんな仕事なら、ネットさえ繋がっていれば東京に住まなくても成立はするわけで。いや、ゲーム作りでなくても成立する仕事はたくさんある。長野あたりなら、東京まで行くのはすぐだしね。

若者がいなくなり、人口が減っている山間の集落とかにネット回線をひいて、山ひとつ丸ごと会社にしたり、クリエイタービレッジを作ったりすれば、そこに他の産業も付随する。ある程度の規模になれば、アマゾンの倉庫が近くに出来るかもしれない。そうすれば何も問題はなくなる。

山間部のクリエイタービレッジとは言わないまでも、ガンホーとかあれくらいの規模の会社が丸ごと地方都市に出来れば、地方における様々な問題が一気に解決するんじゃないか…って話をしていたのだけど、当然もうやってる人がいるわけなのだった。

東京に会社を置いたり、社員全員が同じ時間に同じところにいないといけない、というのは、もちろんその方がいいこともたくさんあるんだけど、半分くらいは思い込みの産物じゃないか。少なくとも、現代においてはそうしないことでのデメリットは確実に減ってきていると思う。

こうした動きは全国的にも広がっている。

●福岡
・ITエンジニアは、福岡で3倍幸せになる☆
・福岡はフリーランスやノマドワーカー、小規模事業者にとって楽園なのではないか説(とその7つの根拠)
・「福岡移住はベストチョイスだった」|カズワタベの働き方と選択

●徳島・神山町
・反常識、イケてる人が目指す過疎の町奇跡のNPO、グリーンバレーの創造的軌跡(1)
・山間の村に最先端の芸術家やIT起業家が続々移住?“創造的過疎”を掲げて地域再生を図る神山町の先見性

OPENで話を聞いたところ、長野でも子育てとかをきっかけに田舎で仕事をしようと移住してくるクリエイターさんは最近多いらしい。今の時代、どこでも仕事できるもんね。

■街おこしと街づくり、長野市の失敗

ここで挙げた以外にも、善光寺の周りにはには、古い建物や街並みを活かして活動するカフェや店舗、企業などがたくさん、たくさん。

一方で、長野には最近、TOIGOという六本木ヒルズを真似た複合型ショッピングモールが出来ている。地元の放送局も入っており、まさに小ヒルズ。
ここは、先ほどのリノベーション物件などで盛り上がる善光寺と駅の中間あたりに位置するのだが、見事に過疎っている。

ここは駅から善光寺の参道に至る一番の目抜き通りなのだが、20年ほど前から続く街づくりの失敗事例として興味深い。

20年前まで、そもそもここはバブル期を象徴するスポットだった。
駅から善光寺に向かう「中央通り」と、国道が交差する大きな十字路の対角に富士銀行(現:みずほ銀行)と八十二銀行。その対角に「そごう」と「ダイエー」の大きなデパートが並ぶ。

ところが、平成に入ってそごうとダイエーが相次いで撤退。
これには行政も困った。だって、一番の目抜き通りが一気にゴーストタウン化しちゃったわけだから…

これについては、そもそもそんな一番の目抜き通りの対角に銀行を置いたことへのツッコミもある。そんなん人が歩くわけねーだろと。

それでも、僕が子供のころは、やはりこの交差点は一番盛り上がっている場所だった。
ダイエー撤退後、その大きなビルは借り手もつかず、今は「もんぜんぷら座」という施設になっている。1階が食料品中心のスーパー、2階が親子連れ向けの児童館みたいな施設。あとは行政の施設、貸し会議室、そしてハローワーク。

いけばわかるが、はっきりいってひどい。

あと、長野オリンピックの表彰式会場になった、権堂町近くのセントラルスクエア。

ここはオリンピック後、駐車場になり、観光拠点となる善光寺門前町界隈へのハブとして期待されていた。イベントステージも設置されており、東京から有名芸能人を呼んでイベントをやったりとしていたのだが、今はそのステージも撤去され、完全な駐車場となってしまった。


時代の流れによるものもあり、仕方のない面もある。

だが、東京的な都会化を志向したこれらの失敗事例と、善光寺界隈の古い建物や静かな街並みにクリエイティブな人材が集まり、盛り上がりを見せる事例はあまりにも対照的だ。

東京型都市モデルと車社会の相性の悪さという問題もあるように思う。そういう意味では、善光寺界隈は昔から「歩く街」でもあり、人間の行動に限って言えば却って都会的でさえある。


ソースかつ丼を名物にしてみたりとか、一時期行政が主導したその手の街おこしも、観光資源をいくら増やしたところで増えるのは観光客などのお客さんだけだ。

街づくりを進めるためには、若者が住みつき、その場所で未来を作らなくてはならない。


東京などの都会へ流出する若者を喰いとめるための、都会志向の街づくり。

それに対して、東京などの都会から長野へ移住してくる人たちの求める、自然に囲まれた古都ならではの環境。

このミスマッチは不幸だ。


思うに、今の時代、長野に住む人が長野出身である必要はないのだ。
東京だって、地方出身者によって作られた街なんだから。
その都市に住みたい人間が、各地から自由にやってくればいい。田舎も都会も、選択肢でしかない。

重要なのは、その選択肢を選ぼうという人間のデメリットを極小化することだ。


別に、反成長経済、反資本主義を謳うつもりはないし、自然派志向でもなければ贅沢は敵だというつもりもない。

むしろ、地方で働くという選択肢を増やすことが、資本主義的に正しいと、そう感じる。

こうした動きが50年後、文明をどう進化させているのか、個人的には楽しみでならない。

――了――

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