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米国債格下げの衝撃、今後の金融市場への影響は!

フィッチ・レーティングスが、米国債の格付けを最高位のトリプルAからダブルA+に1ノッチ格下げした。米国債の格下げは、12年前のS&Pに次ぐ2回目で、これにより、米国の対外的な格付けは、ダブルA+となり、投資信託の銘柄選定等において、トリプルAでなくなった米国債が投資対象から外されるなどの影響も出てこよう。今後の金融市場への影響を探った。


1.米国債の格下げ発表後の市場の反応

6月の上下両院による米国債務上限引き上げ交渉の妥結により、米国債格下げが回避されたと思われていたタイミングでの格下げとなったため、金融市場への影響はそれなりに大きくなった。前回S&Pによる格下げの際は、米国株式、ドル相場が売られる一方、米国債は、質への逃避から買われ、米国長期金利は急低下した。今回は、米国株式が売られるとともに、米国10年物国債も売られたことで、長期金利上昇、ドル高となり、市場の反応は、異なる結果となった。やはり、12年前と比べても、図表1の通り、米国政府債務残高の対GDP比率が前回の95%から現在130%近い水準まで、大きく上昇しており、米国の財政赤字拡大が顕著で、今後の財政赤字削減への道筋が不十分と市場に判断された可能性がある。

(図表1 米国の政府債務対GDP比率推移チャート Trading Economicsからの引用)

2.今後の金融市場への影響

足元では、米四半期定例入札の規模が前回の960億ドルから1,030億ドルに拡大し、更に今後数四半期に渡り、国債の発行が増加する可能性が指摘されるなど、国債発行増への懸念から長期金利が上昇する結果となった。しかし、中期的には、今回の格下げを受け、財政健全化への取り組みが強化される可能性もあり、一本調子で、米国債が売り込まれる事態は避けられると思われる。
今までの放漫財政に一定の歯止めがかけられることで、今後は、景気支援のために、財政支出に代わり、金融緩和圧力が高まる可能性がある。その結果、今までの行き過ぎた逆イールドが是正され、現在のドル高相場にも歯止めがかかる可能性がある。(一時1%を超えていた米国2年債/10年債逆イールドスプレッドが格下げ発表後、米国10年債利回りが上昇する形で、0.7%程度まで急速に縮小している。)

3.日米の金融政策とドル円相場への影響

米国のCPIは着実に低下しており、FRBによる利上げも最終局面に入ったとの認識が広まる一方、日銀は、YCC柔軟化に踏み切り、円安進行に歯止めをかけると思いきや、10年物国債利回りが0.6%を超えたところで、臨時オペを複数回通告するなど、本気で、円安是正に取り組もうとしているのか疑問が生じているため、今後の円相場の行方は読みにくい展開となっている。円金利上昇抑制を重視すれば、円安進行が続くため、ドル円相場の反転は、米国の利下げ局面入りまで、先延ばしになる可能性もあり、また足元の米国10年債利回りの上昇がどこまで続くかも見極めながら、今後の行方を注視していきたい。

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20230804執筆 チーフストラテジスト 林 哲久




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