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上昇を続ける銀相場の現状と行方!

銀相場は、2020年のコロナショック以降、世界経済の回復に合わせ一本調子に上昇を続け、直近では、先月1オンス当たり対円で3,600円を超える水準まで上昇している。銀相場の現状と今後を占った。


1.銀の需給分析

図表1の通り、銀の供給は2014年をピークに頭打ちになっている一方、需要は、工業用、宝飾品、投資など多くの用途で、増加傾向にある。その結果、銀の国際調査団体、シルバー・インスティチュートによると、2022年は2年連続の供給不足となり、不足額は過去最大となった。特に需要の半分近くを占める工業用途においては、最近、太陽光パネルの需要増が顕著となっており、今後の脱炭素やEV化の流れが銀需要を押し上げていくことが予想される。EV車は、ガソリン車の2倍の銀を使用すると言われている。

(図表1 銀の年次需給量推移チャート Bloombergからの引用) 銀価格動向)

2.銀価格動向

図表2の通り、銀1オンス当たりの対円価格は、2020年のコロナショックで急落した後は、世界経済の回復に合わせ、ほぼ一本調子に上昇を続けている。昨年のロシアによるウクライナ侵攻以降は、質への逃避として、金や銀の貴金属が選好されることとなった。その後、米国の金融引き締め開始によるドル高局面で下落に転じる局面もあったが、昨年末、米国のインフレ率がピークアウトすると、将来的な米ドル金利の先安観が台頭し、銀価格をサポートする状況になっている。

(図表2 銀1オンス当たりの対円価格推移 Trading Viewからの引用)

3.今後の銀相場の行方

一般論として、ドル相場と貴金属相場は逆相関の関係にある。理由としては、貴金属は金利がつかないため、ドル金利が上昇し、ドルが強含む局面では下落しやすい傾向がある。米国の金融引き締めが最終局面に入っている一方で、インフレ率の低下が、米国の賃金上昇圧力の高止まりや原油価格の高騰などにより停滞することで、利下げ局面への移行が来年以降に先延ばしされる状況にある。そのため、市場は、利下げが視野に入った段階で、ドル売りに動くが、当面ドルが下落しにくい状況と言える。これは、銀相場が対ドルで上がりにくいことを意味する。
更に、日本での銀取引は、対円での取引が主流のため、ドル円相場の行方にも大きく左右される。現在の日本のインフレ率の上昇により、今後、大規模金融緩和政策が修正されていくことで、昨年来の円安相場が終焉を迎え、円高に向かうと銀の対円価格も頭打ちになる。
しかし、世界経済の潮流として、気候変動対策が重視される中、米国政府がインフレ抑制法(過度なインフレを抑制すると同時に、エネルギー安全保障と気候変動対策を迅速に進めることを目的とした法律)に基づく、国産車のEV化に多額の補助金を付与する施策が実行されており、銀の工業用途は、一層増加していく傾向にある。
また、銀の埋蔵量の制約から、銀の供給が2040年以降、枯渇に向かうとの分析もあり、長期的な需給が需要過多に傾くことで、銀価格が大きく上昇する可能性も取り沙汰されている。
従って、短期的には、ドル高の継続如何では、1オンス3,000円程度まで調整するリスクはあるものの、中期的には、2011年以来の4,000円超えを試す局面も出てくるものと予測する。

前回の貴金属記事はこちら

20230915執筆 チーフストラテジスト 林 哲久


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