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暴騰する商品市況の行方「銅は新時代の石油」?!

2月以降、金、銀、銅に加え、アルミ、ニッケルといった非鉄金属相場が大きく上昇している。その背景と今後の商品相場の行方を追った。


1.端緒は金相場上昇

4/1のイスラエルによるシリアのイラン大使館領事部空爆事件により地政学リスクが高まり、安全資産としての金選好の動きが広がり、図表1の通り、いっきに1トロイオンス2,400ドル台まで急騰した。しかし、イスラエルとイランの対立が米国を巻き込んだ中東戦争に拡大する事態は回避されたことで、金買いの勢いは一時鎮静化することとなった。

(図表1 金価格推移チャート 右軸:単位 ドル/トロイオンス Trading View提供のチャート)

2.金相場を追い越した銀、銅相場高騰の背景

金以上に騰勢を強めたのは、銀(図表2)や銅(図表3)、アルミ、ニッケルなどの非鉄金属で5月に入ると軒並み大幅高となっている。中国経済の底打ち観測と、気候変動対策の一環として太陽光パネル向けの銀需要が拡大していることに加え、銅についてはEVの心臓部であるモーターやワイヤハーネスにおいて銅素材が使われることや太陽光発電や風力発電において大量の送電ケーブルに使用される事が背景にある。また、生成AI開発のためのデータセンター設立ラッシュにおいてデータセンターへの電力供給のために大量の特別高圧の送電ケーブルが必要となり、こうした新たな産業向けの銅需要の高まりを受けて、銅を「新時代の石油」と評する向きも出てきている。

(図表2 銀価格推移チャート 右軸:単位 ドル/トロイオンス Trading View提供のチャート)
(図表3 銅価格推移チャート 右軸:単位 ドル/トロイオンス Trading View提供のチャート)

3.商品相場高騰の構造要因

商品市況高騰の最大の要因は需給バランスの崩れにある。即ち、需要に供給が追い付かない状況が発生している。金に代表されるように、これまでの採掘拡大により、地中奥深くまで採掘する事が求められた結果、採掘コストが上がり採算の取れなくなった採掘業者が生産停止に追い込まれる悪循環が発生している。そこに脱炭素対応での新たな非鉄金属需要が発生したことで、投機のコモディティー買いを誘発したことが挙げられる。また、インドネシアなどの資源国は、未加工の銅やニッケルの輸出を禁止して、国内での精錬を義務付けることで産業の高度化を図っていることも商品需給を逼迫させている。更にニューカレドニアの暴動も、ニッケルの輸出を巡るフランスと原住民との利権争いの歴史が関係しており、先進国は発展途上国から非鉄金属を容易に輸入できなくなっていることも需給逼迫の要因となっている。

4.今後の商品市況の行方

地政学リスクの高まりから通貨代替としての金選好が世界的広がりを見せている。加えて、世界の中央銀行がウクライナ侵攻後のロシア制裁により外貨準備高が凍結された事態を受け、外貨準備における米国債の保有割合を減らし、金準備を拡大する動きが強まっている。また、中国の個人投資家は、不動産市場の低迷を受け、資産逃避の受け皿として金選好を強めている。
銀やその他非鉄金属については、脱炭素時代の新たな非鉄金属需要の高まりを見越した投機的な買いが出回っているが、中長期的な需要増加観測が商品相場の下値を支えており、今後も行き過ぎた高騰とその後の調整局面を経て、中期的に商品相場上昇が続くことを予想する。

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2024年5月22日執筆 チーフストラテジスト 林 哲久





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