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米国学生ローン免除違憲判決の衝撃!

昨年、中間選挙直前に、バイデン大統領が、突如発表した学生ローン免除措置が、当時より、違憲訴訟が地方裁判所で提訴されていたが、今般、連邦最高裁判所で、違憲判決が出たことで、混乱が生じている。当初より、法律の裏付けのない措置として、民主党内からも異論が出されていたが、改めて違憲とされたことの米国経済への影響を考察する。

1.学生ローン免除対象者数と経済的コスト

本措置により恩恵を受けるのは、全米で4,300万人に上り、その財政的コストは、4,000億ドルを超えると試算されている。米国の個人消費支出が年間18兆ドルと比較しても相応の規模であることが見てとれる。それが、突然、返済を余儀なくされると、インフレ鎮静化に働く一方、消費急減速に繋がる可能性がある。
連邦最高裁判所が、共和党による選任された判事が多数派となったことで、保守的判断となったとの意見がある一方、既にローンを払い終えた学生、ローンを利用せず支払った学生との不平等が当初から指摘されており、違憲判断は当然との見方がある。
また、もともとこのような大規模な学生ローンを免除する権限は、大統領にはなく、連邦議会と協力して、正式な立法手続を経るべきとの意見があったにもかかわらず、強引に大統領令で施行したことが仇となったと言える。

2.経済的影響と今後の展開

昨年、突然の債務免除により、個人消費が過度に喚起され、インフレ高進に繋がった一方、不必要に米国の金融引き締めを長期化させている可能性がある。しかし、今回の違憲判決により、早ければ、8月から返済が開始されるとの見方もあり、逆に年後半、金融引き締めと相まって、過度に個人消費が抑制される可能性が出てきた。バイデン大統領は、対応策を考えると発表しているが、そもそも大統領権限に逸脱しているとの見解もあり、具体的な対応は容易ではない。特に、来年の大統領選挙を控え、この問題は、一層政治色を帯びていく蓋然性が高く、議会内での妥協が成立する余地が少ない事案とも言える。

3.米国GDP成長率への影響

図表1の通り、既に米国5月個人消費支出の伸びが前月比+0.1%の伸びに留まり、4月個人消費支出も+0.6%に下方修正されており、徐々に金融引き締めの効果が、個人消費に悪影響を与える構図が顕著になってきている。今回の違憲判決を踏まえ、米国のGDPの6割以上を占め、米国の経済成長を牽引してきた個人消費が、今後減速していくとすると、米国の景気後退の時期を早める可能性もあり、注意が必要だ。

(図表1 米国個人消費支出動向推移チャート Trading Economicsからの引用)

4.違憲判決が金融市場へ与える影響

米国では、年内あと2回の利上げ観測が残る中、金融緩和を続ける日本との金融政策の方向性の違いから、ドル円相場の堅調地合いが続いている。
一方で、米国の債券市場では、図表2の通り、2年/10年債イールドスプレッドを見ると、足元1%を超える逆イールドとなっており、債券市場の歪みが一層拡大している。これは、今後の米国経済の急減速を暗示しているのかもしれない。結果的に、この違憲判決が今後の米国の利下げ開始時期を早め、ドル円相場の反転時期にも影響を与えることになるのか、注目しておきたい。

(図表2 米国2年/10年債イールドスプレッド推移チャート Bloombergからの引用)

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20230705執筆 チーフストラテジスト 林 哲久







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