見出し画像

国際収支統計から垣間見える為替需給とドル円相場の行方!

先週発表となった7月経常収支は2.7兆円の黒字と、7月としては過去最高の黒字を記録。その一方で、金融収支の中で、為替需給に大きな影響を及ぼす直接投資収支を見ると、3.6兆円の流出超を記録し、経常黒字との差し引きでは、0.9兆円の資本流出超となっている。最近の国際収支統計から、今後のドル円相場の行方を追った。


1.日本の経常収支動向

図表1の経常収支の推移を見ると、黄色の第一次所得収支黒字が高水準に推移する一方、青色の貿易収支赤字が昨年拡大したことで、黒線の月次経常収支が、一時赤字化するなど、大幅に経常黒字が縮小し、昨年は、年間で9.2兆円の黒字に留まった。

(図表1 日本の経常収支月次動向チャート 財務省ホームページからの引用)

2.日本の対外直接投資動向

図表2の通り、日本企業の対外直接投資は、この数年急激に増加し、年間の新規投資額が20兆円を超える規模になっている。国内市場の伸び悩みとグローバル化の進展により、海外進出を強める企業が増加したことが背景に挙げられる。企業の内部留保の高止まりと、低金利下での良好な資金調達環境により、今後も高水準での対外直接投資が続くことが予想される事に加え、来年からの新NISA導入により、個人の対外証券投資も活発化する可能性があることを考慮すると、日本からの資本流出は当面高水準を維持する公算が高い。

(図表2 日本の新規対外直接投資額推移チャート 左軸単位:億円 株式マーケットデータから
引用)

3.日本の国際収支動向

経常収支と直接投資収支を合算した国際収支を見てみると、昨年の経常収支黒字が、9.2兆円に対し、直接投資収支が、18.3兆円の流出超となったため、差し引き9.1兆円の資本流出超となったことが、昨年の大幅円安を需給面からサポートする要因となった。
今年に入り、エネルギー高が鎮静化したことで、経常黒字は、上半期で8.1兆円まで回復したが、同期間の直接投資の流出超は、10.2兆円と高水準を維持した結果、ネットの国際収支は、2.1兆円の資本流出超となっている。

4.今後のドル円相場の行方

対外直接投資の増加は、第一次所得収支黒字(海外からの配当金受け取り等)増となり、経常黒字の拡大要因となる。しかしながら、足元の原油価格の上昇に見られる通り、世界的な地政学リスクが鎮静化しない状況下では、貿易収支赤字により、経常黒字の縮小に繋がることもあり得、直接投資を含む金融収支との差し引きで、資本流入超を達成することが徐々に難しくなっている構造に変化したと判断できる。
従って、今後の米国経済の落ち込みや日本の金融政策の正常化に伴う日米金利差縮小による思惑的なドル売り円買いの動きが活性化したとしても、昨年初めの様に、110円台に戻ることは想定しがたく、当面現水準を中心にドル円相場が底堅く推移することも想定される。今後は、国際収支動向を中心とした為替需給について、今まで以上に注意深く見守っていきたい。

前回の記事はこちら

20230913執筆 チーフストラテジスト 林 哲久


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?