ドイツ@Sars-CoV-2 コロナウィルスアップデート(10) 2020/3/10(和訳)


話 ベルリンシャリテ  ウィルス学教授、クリスティアン・ドロステン
聞き手 アンニャ・マルティーニ

2020/3/10

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イアリアでは全土に移動制限措置が拡大しました。ドイツでもシュパーン保健相が大きな集会の中止の検討を呼びかけています。そして、ドイツでもはじめての死亡者がでました。
聞き手はアンニャ・マルティーニです。

昨日は、連邦報道会見でシュパーン保健相の隣に座ってインタビューをうけていらっしゃいましたが、大きな集会の制限を促す保健相の発言について、ドイツ国内で波紋が広がっています。どうして、1000人なのか、800人ではない理由など、、、この件についてはどうお考えですか。

この件に関しては、大きさ、というのは、規模だけのことではなくて、重要度、でもあります。
今、ドイツでは、全ての社会的営みを、英語でいう、ロックダウン、完全自粛しようとするのではなく、どこを我慢できるのか、どこを制限できるのか、ということを検討する時だと思います。
何が制限できるのか、というのは簡単なことではありません。
スイスで決定された、上限1000人、というのは、1000人以下の集会は、社会的な決定権をもつ重要なものが多いが、それ以上の、そうですね、ロックコンサートやサッカー、大きな会議、見本市など、、、という大規模な集会は、一時期、我慢しても大きな支障はないだろう、という基準での単位です。
もちろん、大きな学校はどうするんだ、といった話にもなりますが、スイス以外でも、この1000人、という人数は一つの目安にはなっています。
(昨日の会見では)全く何も提示しないよりは、1つ具体的な数字をあげたほうがいいだろう、ということでの発言でした。
本当は、大きな集会は禁止します、と断言したほうがよいとは思うのです。
そのように決めた国もあることですし。 ヨーロッパ諸国でもそうしている国はたくさんあります。 フランスもそうですし、イタリアも禁止しています。・
ドイツは連邦制で、地方自治体に権限が託されていますから、州ごとの保健省とも連結して決めていかなければいけないのですが、今、州の保健機関が大変混乱しています。 イベントを中止する際に発生する経済的損害、賠償問題などですね、そういう圧力がかかりすぎています。
そういうときに、やはり国が、援助すべてきだと思うのです。
この件に関しての決定権は(政治形態的に)国にはないかもしれませんが、地方自治体をサポートする体制をつくることはできます。 私はそこまで詳しくは知りませんが、そのようなファンドの設立の可決が近々されるようです。

もう一度、お聞きしますが、、、、ウィルス学者として、(政治的なことは除いたとして)大きな集会はすぐに禁止されるべきたとお考えですか。

もちろんです。 私は学者として、一般の方よりも、世界各国のウィルス事情をみています。そして、ドイツの状況を把握しています。 そして、どうして(ドイツの状況が)今の状態か、ドイツはの感染者に対して、死亡者数が少ない理由などもすべて説明できます。
残念ながら、これから死者数は増加するでしょう。まだ何人もの人が死にます。このまま少ない、ということはありえないです。それと同時に、陽性患者数も増えていくでしょう。
ドイツでは、すぐに検査薬を全国に配布し検査をはじめたので、このような、感染者数と死亡者数の対比になっています。
そのようには対応できていない国も数多くあるなか、ドイツはかなり早い時点で検査環境が整いました。
ドイツのような(大きな)国で、新しいウィルス用の検査環境を迅速に用意することは決して簡単なことではありませんが、理想的に解決できたと思います。

編集部に届くメールのなかには、医療機関や行政機関からのメールも数多くあるのですが、、、、まだ、(地方自治体ごとに)対処法にばらつきがあり、統一性がない、という苦情もはいってきています。 学校の生徒が感染者との接触の疑いが会った時に、検査をするのか、しないのか、、、、など、まだまだ改善点は多いように思われますが。

地方の保健機関が常に正しい判断をする、とは限りません。ミスも多いでしょう。私もいろいろなケースを耳にしますが、ほとんどが判断基準の混合と誤判断が原因です。
感染接触対策の際に、AとBの2種類のグループがあること。ロベルト・コッホ感染研が提案する2つのカテゴリー分けですが、職種などで、高い感染リスクがあるグループA、このグループは、自宅隔離、そして、その後でも検査をされなければいけません。そのほかの大多数が属するグループBは、自宅隔離はしません。 コロナウィルス感染についてのしおりを渡し、そのなかに明記してある症状がでてきたら連絡してください、とお願いするだけです。
決断は、保健所の職員がしますから、間違った処理をしてしまうこともありえます。 本当は、グループBに属する人たちを全て自宅隔離にしてしまったり、ということが、おこったりします。
誤判断されたケースは数的には多くはありませんが、保健所の人手が足りなく、負担がかかっていることはたしかです。あまりにも数が多く、処理しきれていないのです。
でも、それは、今の状況では仕方がないことでしょう。これが、パンデミックの代償です。
10年も20年も前から、いつかおこるかもしれない、予期せぬシチュエーションのために、職員を増やしておくことが不可能ですから。
保健所の職員の数がもともと少ない、というのは事実ですが、いま、増員したとしても、シチュエーション的にはほとんど変わりません。

もう一度、ドイツの病院環境について、なのですが、、、世界医師会のモンゴメリー氏も、ここ数年での経費削減をはじめとする縮小化のつけがでている、と指摘していましたが、これを補っていき、医療関係者のモチベーションをあげていくにはどうすればよいのでしょうか。

ドイツ全国の病院、病院関係者、マネージメントは、他の公共機関と同様、、、今のところ、この先何がおこるのか、、、わかりません。
専門家に意見をあおいでも、専門家も、私は預言者ではないですから、、、、と言うしかないでしょう。
早く来るか、来ないか、の2択で、その両方の対策を練っておかなければいけません。計画を考えておかなければいけません。
もし、今、急激な速度で激しいパンデミックが来たら、、、、対応しきれないでしょう。 しかし、その限られたなかで、実用的な方法を即席でつくっていかなければいけなくなります。
例えば、病院の要員の確保です。
今の段階では、病院に提案して実行してもらう、という形でやっていますが、例えば、救急外来で、患者が来たとして、そこに20人の病院関係者が関わったとしましょう。 その場合には、アンケート用紙に記入してもらいます。 どのくらい感染の疑いがある患者との接触があったのか。濃厚接触は、検査のために患者からサンプルをとった時点でおきています。
ここで、濃厚接触があった医療関係者を全員観察のために、2週間の隔離にしたら、病院は機能しなくなってしまいます。
そこで、これは、大学病院で実践されていることですが、毎朝、医療関係者全員を検査する。 サンプルは各自自分でとってもらいます。使う検査薬は、ウィルスがまだ増幅を始める前にも陽性が検査できる感度のものです。
その結果が夕方にでます。そこで、陽性がでたら、自宅謹慎です。 サンプルをとって結果がでるまで、この医師は1日普通に勤務をしていたわけですが、感染の直後でまだウィルスが増幅していない状態なので、まわりを感染することはありません。
これで、感染を広げることなく、職員の安全も守り維持していけます。

必要な医療スタッフを維持する対策ですね。

はい。これは、大学病院という、院内にラボがある環境だから可能なことで、ラボを持たない病院などはこの方法は難しいでしょう。

またリスナーからの質問をさせていただきますが、今、肺炎レンサ球菌のワクチンをすることの重要性についてどうお考えでしょうか。

今回のコロナウィルスでは、65歳以上がリスクグループとなり、70、80と高齢になるにつれ、死亡率もあがっていくことがわかっています。リスクを下げるためには何をすればいいのか、を考えることは大切です。
インフルエンザウィルスの感染は、はやく病症化しはやく収まりますが、肺細胞にダメージを残します。このダメージを受けた肺が細菌感染してしまうリスクが大きいのです。 細菌は、特に特別な細菌ではなくて、喉の常在菌でも感染するには十分です。 その代表が、肺炎レンサ球菌なのですが、この菌が、喉から弱った肺に入ってしまうと、肺炎がおこってしまいます。この肺炎がインフルエンザ感染の際の死因で一番多いのですが、この細菌のワクチンがありますので、予防接種をすることができます。
今回のコロナウィルスは、インフルエンザではありませんが、同じように、肺にダメージを残しますから、第二次感染、重症化を予防する意味での、肺炎レンサ球菌予防接種をする、というのは、懸命な予防策といえるでしょう。
ウィルス学者としては、、、、実は、今回のコロナウィルスでの、肺炎レンサ球菌による肺炎のケースは大変稀である、というデータがあるのですが、、、、、それでも、やはり、防止、という意味では、インフルエンザに比べると少ないとはいえ、予防接種をしたほうが良いでしょう。 このワクチンは体に負担をかけるものではありません。
特に、ハイリスクな高齢者はするべきです。

インフルエンザの予防接種はどうでしょうか

今期のインフルエンザのシーズンは、もうすぐ終わります。 公式なインフルエンザの予防接種期間があと2週間ですから。 しかし、インフルエンザの流行はまた来冬にも訪れますし、コロナのパンデミックも並行して続きます。 ですので、今、予防接種をして、秋にもう一度すれば、対インフルエンザの理想的な予防になりますので、推薦します。

もし、インフルエンザとコロナウィルスに同時に感染してしまった場合はどうなるのでしょうか
かなり重症化するのでしょうか。そもそも、それは可能ですか?

可能なことは可能です。 しかし、それが、特別に重症化するかどうか、は正直なところわかりません。
そのようなケースはあることはありますが、まだ数が少なすぎます。 比較するためには、もっと多くの感染例を年齢、性別が同じ状態で比較する、などしなければいけませんので、、、、そのようなデータはまだありません。

コロナウィルスと、髄膜炎の関係性はありますか?
ベルリンの感染者が、めまいを訴えていたようですが。

めまいは、多くの病気に起こりうる症状ですので、このコロナウィルスが(特別)髄膜炎をひきおこす、ということは考えにくいです。

昨日、ハイリスクグループ、高齢者ですが、その感染率が25%、という数字をあげられていましたが、この数字はどのような根拠があるのでしょうか。

インターナショナルな死亡率の統計、というものがあるのですが、そこで80歳以上の高齢者の死亡率が20〜25%、70歳〜80歳が、7〜8%、60歳が約3%、50歳〜60歳が、1〜1、5%くらい、50歳以下は0、3%くらいです。

これは、どのグループがハイリスクなのか、ということをわかりやすくする数字ですね。

この数値は、全体像を把握して、判断する基準になると思います。
90歳の誕生会を開催するかしないか?
80歳以上の死亡率が20〜25%という数字がでていれば、家族もそのような場合の判断基準にできるのではないでしょうか。

昨日、研究論文を発表されましたね。ラボでの仕事、緊急会見、そして、この毎日のインタビューもあるのにも関わらず、研究するお時間があることに脱帽しますが、、、内容は、ウィルスの検出、でした。詳しくは、喉と糞尿からの検出ですが、どのような内容なのでしょうか。

研究論文というものは、昨日の今日で出来上がるものではなくて、、、ジャーナル(学術雑誌)に発表されるまでにもかなり時間がかかります。論文は、正式に発表される前に原稿を、査読の前にプレプリントとして公開することができるのですが、それを行なったのが10〜14日前で、それが、サーバーになかなかのらず、、、、やっと昨日公開できました。 
出版社には、もっと前にだしていましたが、内容的には、ミュンヘンのケース(*注)での感染者たちの病棟での経過と検査結果です。例えば、初期症状の際の喉からサンプルをとるPCR検査の際に、一度も間違った結果がでなかった、ということ。 それまでは、初期の段階で、喉だけからサンプルを取った際に誤った結果がでる可能性があるのではないか、と言われていましたが、それがないことがわかりました。 
初期のPCR検査で見過ごすことはない、という事実は、どの検査をどの時点で使うか、ということを判断する上で、大変重要なことです。
分子診断技術を使った実験でわかったことは、ウィルスが肺だけではなく喉で急激に増幅する、ということです。これまでにも、そのような予測はされていましたし、私がいろいろなところでその説をお話していましたから、ドイツ国内では別に特別なことではないように捉えられているかもしれませんが、世界的にはそうではありませんでした。 しかし、このことが証明されたことによって、行政や公的機関もエビデンスとしてつかうことができます。
そのほかには、糞尿から検出される大量のウィルスについてです。中国では議論はされていたことは、糞尿のなかのウィルスが、不衛生な場所やトイレから拡散して接触感染の原因になっているのではないか、ということでしたが、たしかに、糞尿からPCR検査でウィルス、ウィルスのゲノムは検出されたのですが、喉から検出されるような生きた(感染力のある)ウィルスではなかったのです。
糞尿のサンプルからは、ウィルスのゲノム情報が多く検出されましたが、これはウィルスの一部の部位で、生きたウィルスではありませんでした。 これは、たぶん、体内の消化液がウィルスを分解したものだと思われます。
これも、これから公共機関が対策をつくる際に学術的裏付けがある事実としてとても重要な意味をもちます。
他にわかったことは、、、完治した患者の肺のなかには、しばらくウィルスが検出されましたが、これも生きたウィルスではありませんでした。肺内分泌物のなかのウィルスは培養できなかったのです。 これも、肺の中にでき始めた抗体がウィルスを撲滅しはじめたからだと思われます。
これも、今後の対策にとても重要なことです。

それはどうしてですか?

これから、パンデミックが悪化するにつれて、病院のベットが足りなくなるでしょう。その際に、完治に近づいている患者の肺からまだウィルスが検出されている。 退院させてもいいのか、だめなのか。ミュンヘンのケースは(ドイツでの)一番初めのエピデミックでしたが、検査でウィルスが検出されている間、完治してからも2週間は病院で治療を続けました。 これは、今後、ベットが足りなくなると予想さえれるシチュエーションでは致命的です。 なぜなら、できるだけはやく次の症状が重い患者のためにベットを空けなければいけないからです。
1週間後に検出されるウィルスに感染力がない、という研究結果は今後の行政の判断にも大きな助けとなるでしょう。1週間後に退院、もし、慎重にするならば、その後に1週間の自宅観察をつけるのも良いかもしれません。しかし、入院期間の短縮は、ベットを空けることができる、というところで大変意味があることです。

毎日お時間をさいていただきありがとうございます。 また明日よろしくお願いいたします。


*注 ミュンヘンケースとは、ミュンヘン近郊の会社内セミナーで上海からの中国人女性講師から社員の男性が感染。トータルで14人が感染しミュンヘンの病院に隔離入院されたドイツ国内初の感染ケース。この際、感染経路、接触者の可能性を調べ、241人を在宅隔離した。(編集者注)

ベルリンシャリテ
ウィルス研究所 教授 クリスチアン・ドロステン

https://virologie-ccm.charite.de/en/metas/person_detail/person/address_detail/drosten/

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