ドイツ@Sars-CoV-2 コロナウィルスアップデート(45) 2020/6/2(和訳)


話 ベルリンシャリテ ウィルス学教授、クリスティアン・ドロステン
聞き手 コリーナ・ヘニッヒ

2020/6/2

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聖霊降臨祭の祭日に、北海やバルト海のリゾート地に行った方は皆こう感じた事でしょう。全く普通の状態だ、と。店内ではマスクが着用されますが、1、5m〜2mの距離については、多くの地域ではもうあまり気にされていないようです。前回、ドロステン氏が、この夏が普通の夏になる可能性がないわけではない、と言っていましたが、 その為には、効果的な検査と感染クラスターでの接触者の迅速な隔離が不可欠です。 全体の感染者数でみた感染状況には、光と陰があります。ロベルト・コッホ研究所の報告によると、6月1日の段階で、93の地区でのここ1週間新しい感染者がゼロでしたが、ゲッティンゲンで家族の集まりの際に70人陽性確認されました。  今回は、ロベルト・コッホ研究所から毎日発表される統計報告数値を読み解いていきたく思います。 そして、日常の生活の上での疑問点と、他の国の状況にもめを向けていきたく思います。今日も、ベルリンのウィルス学教授、クリスティアン・ドロステン氏にお話を伺います。聞き手はコリーナ・ヘニッヒです。

ゲッティンゲンのような地方のアウトブレイクをみてみても、接触者が必ずしも検査に協力的ではない、という保健所の苦悩があるようです。いままでの対策は大きな効果をもたらしました。しかし、その効果が大きい故に、今の(良い)状態が、対策のお陰だ、という事を忘れてしまっている人も多いのではないでしょうか。プリベンション(事前予防)パラドックスと呼ばれるものですが。

そうですね。今の状態はそうでしょう。緩和の後では感染者が増加するはず、ということは直感的にわかっている事だと思います。以前の回で、直ぐには起こらない様々な要因については触れてきましたが、そのなかひとつが、現在の低い発生数です。これは(対策によって)かなり低く抑えられています。このように成功した事は喜ばしい事です。そして、国民全体が対策の手段を学んだ、という事。どんどん定着しているマスクの着用、も挙げられるかもしれません。 この感染症が、過分散の性質を持ち、大勢が集まるところで感染リスクが高まる。特に室内でエアロゾルの要素によってリスクが高まること。全て新しい知見です。大きなイベントが開催されないのは対策からでもありますが、国民の理解が浸透したからでもあるのです。
学校の再開についてなどのについて議論されるのも、このような背景からもわかるように、学校は大勢の人の集まるところだからですが、社会的には(再開は)大変重要です。もう、リスクが高いから閉めましょう。とはいかなくなってきています。どうしたら良いのか。私の視点、分析的ウィルス学的で科学的な視点で、可能である方法はいくつか提案することはできます。

以前の回で、番兵機能については話し合いましたが、検査領域では、、どこから、感染が拡がりやすいにか。例えば、病院、介護施設など。介護スタッフなどの定期的な検査などは、十分に行われていると思われますか?

どの程度徹底しているのか、というのは州や地域によって違うのですが、現在、かなり至急に体制が整えられているように感じます。しかし、どのようにクラスターの発生やスーパースプレッディングを防ぐのか。 クラスター内に陽性が出た場合、クラスター全体を隔離する事が重要になってくるのですが、このことは、以前からロベルト・コッホ研究所の対策項目のなかに入っています。クラスターの重要性が再確認されたからといって、突然ロベルト・コッホ研究所が対策方針を変えなければいけない、という事ではありません。保健省やロベルト・コッホ研究所はもう以前から、検査で陽性がみつかった場合、その接触者も直ぐに自宅隔離にする、としています。そこに、クラスターのメンバーが含まれる可能性がある、というだけです。

経路は常に追跡出来るのでしょうか? ゲッティンゲンでは、いくつもの家族の集まりがあって、その後で違うクラスターにも発展した、とのことですが。アメリカの合唱練習の感染ケースや、ベルリンのケースでも、二ヶ所の会場に行っていたので、何処で誰が感染したのか、という事がわからなくなっていたりもしますよね。

そうですね。様々なシチュエーションがあるでしょう。例えば、いくつかの家族の集まりなどを追跡することは、保健所にとっても実際、探偵のような作業です。大変困難です。しかし、このような事が、スーパースプレッディング・クラスターをストップさせる、という対策ではないのです。それは、どちらかというと、合唱練習などの典型的なシチュエーションを、速攻でストップさせて検査する。同じ様に、予防的な検査導入、例えば、介護施設や教育関係、学校や保育施設などの特殊な状況での予防的な対策です。
クラスターを隔離するのが新しい対策ではなくて、効果的な検査対策での予防、クラスターの目印となるケースを発見することです。目印の多くは症状が出ているクラスターのメンバーです。無症状者はみつける事は不可能です。無症状者も全て検査する、となれば別ですが。それは現時点では実装されていません。ロジスティック的に難しいです。問題点はコスト面だけではなく、ロジスティック面にもありますから。しかし、目に見える症状は、診断的に良い目安です。勿論、これも、ロベルト・コッホ研究所のガイドライン入っています。ここで何かを改善する、などという必要性は全くありません。しかし、私達もしっかりと自覚しなければいけないことは、症状が出たら、直ぐに申告する。そして、2日前に、クラスターのシチュエーションだと思われるところにいたのであれば、それ以上にはやく申告し、状況の解明に努めるべきです。

症状をみてみると、今年の初めの時点は、咳と熱、という症状が典型的、といわれていましたが、最近は、鼻水、という症状も良く聞かれる様になりました。ロベルト・コッホ研究所によると、確認された陽性患者のうち、5分の1に鼻水の症状があった、と。子供では、下痢が多いようです。この症状については色々とわかっていますか? 鼻が出てきたら、注意をしたほうが良いのでしょうか。

この点に関しては、ロベルト・コッホ研究所のガイドラインも修正されています。確かに、初めの頃は、(旧型)SARSのモデルを基盤に考えられていましたので、症状に関しても、気管支に病症が出るだろう、と。肺炎、呼吸困難、熱、などですね。 新しい研究結果が多く出るにつれて、それが、軽症な初期症状もかなりある事がわかりました。

しかし、殆どの場合が症状が複合しますよね。 鼻水だけ、というの稀なのではないでしょうか。

確かに、初期症状としてはケースは多くないでしょう。初期に、鼻水だけ、というのは稀かもしれませんが、可能です。

ランセット誌に、カナダの研究チームの論文が掲載されました。色々なデータのメタ分析で、対策の効果が分析されています。距離、マスク、眼の防御、など。16カ国の170ケースの分析です。 今現在、新しい発生数が少ない状況でもまだ距離対策はとらなければいけないのでしょうか? 祖父母は孫を膝に乗せることを避けるべきですか。

具体的なところでのコメントは難しいですね。膝に乗せてもいいか、というところでは、日常の良識的感覚に頼るしかないでしょう。生活する上で、リスクと残存リスクはつきものです。しかし、距離をとることの重要性は、これとは関係なく、全く別の次元の話です。距離対策の必然性を自覚し、可能な限り実行しなければいけません。 屋外でもそうです。十分に気を付けなければいけない事なのです。勿論、それが可能ではないシチュエーションもあるでしょう。また、学校や保育施設の問題ですが、そこでは(距離対策は)不可能です。試みる事はできるでしょうが、、、子供達の行動様式は、、私たちが全員分かっている通りです。上手くいくこと、、は期待できないでしょう。
日常生活のなかで、(対策を)忘れがちな状況は多々あると思います。週末に行われたというパーティーなどのニュースをみていると、そこで距離対策を実行した人などいないわけです。感染は、常に少し経ってから目に見えてくる、ということを自覚しなければいけません。感染してから症状が出るまでだけではなく、症状が出た人が検査に行くまでも時間がかかりますし、そこから検査結果が出て、、ロベルト・コッホ研究所に陽性患者として申告され、、統計に登録されるまで、、時間がかかるのです。この過程はこれ以上速めることは不可能です。もっと速く、とはいかないのです。感染発生数は、突然激変することも可能であること。ここをしっかり自覚することは必要です。様々な地域での申告の遅れがありますから。

そこから、ロベルト・コッホ研究所の現状報告レポートについて繋げます。以前から、データの読み解き方について取り上げる約束をしていましたが、今日は、そこを詳しく見てみたく思います。ロベルト・コッホ研究所は、感染、症状発症、と登録の間の時差を縮める取り組みをしてきました。報告で使われるキーワードの一つに、Nowcastingというものありますが、これは、再生産数Rが、時差を修正して統計される、というものですが、どのように理解をすれば良いでしょうか。

信頼性のあるR値を出すためにも、ナウキャスティングは必要です。特に、感染発生数が少ない状況では。全体的にみて、ロベルト・コッホ研究所の発生数の統計は申告ミスや漏れがあるために完璧とは言えません。例えば、正確な発症時というのは把握できませんし、全ての項目が記入されているとも限りませんから、手元にあるデータでやりくりしなければいけないのです。
そして、無症状である場合、発症開始日、というものもないわけですから、そこでもはっきりしたことはわかりません。そのような理由から、申告された発症日に対して、予測された開始日、というのがあって、インピュテーション(欠測値補完)と言いますが、これは、方式から出される予測です。ここでは、発症日が不明の患者に対しても通常の遅延時間から予測されます。申告された日から、遡って行くわけです。つまり、申告された日から、平均的に4日前に発症したことにする。ここで生じているのは、検査と処理の遅れです。基本的に、感染ケースに対する医療対応の遅れでもあります。

経験値からの予測、ということですね。

そうです。そしてさらに、ナウキャストです。 このナウキャストは、これから入ってくるだろうと思われる申告を予測するものです。登録システム的に遅れが生じますから、今の評価枠での数と、それ以前の枠との差を把握するためにも、この両方が必要なのです。つまり、4日前と、そのまた4日前を比較して、それを基に、現在のR値をだしています。

最新のロベルト・コッホ研究所の状況報告では、感染者のなかで一番大きいグループは、20〜49歳、となっています。小さな割合は10歳以下の子供で、昨日は2%でした。それと、90歳以上の年齢層でも高い罹患率がでています。これはここでも取り上げた介護施設での問題です。この最新の報告をみて、ここ数日の間で、、何か気になる点などありますか。

ここに、発生数統計がありますが、これは登録された10万人単位の年齢と性別ごとの統計です。6月1日の報告では、図6になります。ここで、どのように分布しているのかがわかるでしょう。そして、時間毎の効果です。ここを毎日みてみると、少しずつずれてきていることに気がつくと思います。はじめは、成人の30〜60の間でしたが、そこからもっと高齢層に移行していきました。先ほどの指摘通り、介護施設などが原因です。そして、最近の傾向は、20〜29歳と10〜19歳です。もう少し注意深くみると、0〜9歳も増えています。5月26日の状態をみることをお勧めします。ロベルト・コッホ研究所が発表している状況情報の項目は毎日同じではありません。そこまで変わらない統計項目もなかにはありますので。しかし、一定期間後にまとめられた年齢別の統計は、週毎とはまた違ったグラフで、興味深いものです。図7は、5月26日の状況報告ですが、ここでわかるのは、12週目から21週目の間で、0歳児〜9歳児、そして10〜19歳をみてみると、ほとんど、倍増しています。小さな子供もです。0〜9才は少し不自然なくらいの増え方です。ここで気になるのは、この期間は学校が閉鎖された直後ですが、その前からも子供の割合は大きい事です。これらのことは、これから学校が再開される際に計算しておかなければいけないことでしょう。全体的な発生数が低い状態での再開になる訳ですが、この年齢別の変化などを念頭においておくべきでしょう。このようなことを全て配慮しつつ、学校や保育施設を再開する際のシチュエーションをどのように対処していくのか、ということが大変重要になってきます。

ということは、12週目は3月末になりますが、そこでもうすでに子供の感染者数が増加していた、ということですね。

そうです。 これが拡散現象で、世帯内でもおこります。感染は、子供たちが学校に行かなくても起こるのです。
しかし、事実としては、この拡散現象がもう目に見えてきている、ということです。 ここで、、、多分、知らない人が多いと思いますので、一つ言っておかなければいけないことがあるのですが、、、実は、このロベルト・コッホ研究所のHP上の状況レポートは、見出しをみてもわかるかと思いますが、専門家の為のものなのです。専門分野、例えば、医師、保健所、などですね。これは、ドイツの最新情報であり、国内で一番信頼がおける情報源ですが、一般の人にもわかりやすい情報を提供するためのものではありません。それは、ロベルト・コッホ研究所の役割ではありません。そのためには他の機関があります。ロベルト・コッホ研究所の情報提供は、専門家向けではありますが、それでも、たとえ医療関係者ではないとしても、みてみるのは面白いと思います。

しかし、注意しなければいけない点はある、ということですよね。例えば、修正したR値が何か、ということの理解がまだできていなかったりすると。

そうですね。例えば、現在、メディアでも様々なところでR値がまた上がった、と報道されています。これは正しいですし、今後も注意深く様子をみていかなければいけませんが、発生数が低い状況でのR値の小さな上昇は、基本発生数が多い状態でR値が高いこととは違って、そこまで神経質になることはない現象です。その反対に、基本発生数が高い状態ではR値は絶対に上がってはいけません。今の状況では、R値よりも、発生数の変化が重要です。

新しい感染者の数、ということですね。

その通りです。新しい感染者の数です。

以前にもお話いただいたと思いますが、R値は平均値です。今のように、クラスターのひとつひとつが大きな意味を持つ状況では、それが直接R値に影響を与えますが、日常的にはその違いに気づくことがないのは、そもそも新しい感染の数が少ないから、ということですね。

そうです。

違う国にも目をむけたいと思うのですが、、、感染者数が高い国々、例えば、フランス、スペイン、イタリアなども、厳格なロックダウン対策によって数を抑え込むことができました。それが、経済的な理由から様々な分野での緩和され(ドイツよりも)さらに日常に戻そうとされています。フランスでは、夏休み中にフェティバルで人が集まることが許可されるようです。ウィルス学者として、、、経済的なファクターが重要なことは承知の上でそれは配慮しないとしたら、、、今後の成り行きは危惧されなければいけませんか?

夏休み中に大勢の人が集まることに関しては、危険だと感じます。たとえ、(屋外では)室内よりも感染リスクが少ないとしても、です。それ以上は残念ながら今の時点ではコメントできません。まずは様子をみていくしかないでしょう。もしかしたら、屋外のイベントではそこまで感染しない、という驚きの結果がでるかもしれませんし。それは誰にもわかりません。可能性がないとは言えません。しかし、基本的に、大勢の人が一ヶ所に集まる、ということは人同士の距離も狭くなる、ということですし、飛沫感染に関しては、屋外でのメリットはありません。感染者は必ず出るでしょう。しかし、重要なのは、どのくらいの規模で出るか、ということです。クラスターは発生するのか、スーパースプレッディングイベントは起こるのか?

感染対策については、前回、日本の例をとりあげました。クラスターに集中することで得られる効果について、でしたが、他にもあまり注目はされてはいませんが、良い方向に向かっている国があります。例えば、ギリシャやポルトガルです。どのように上手くいったのか、ご存知でしょうか?どこが違ったのでしょうか?これらの国々は、通常であれば、そこまでの体制が整っているのかどうか、というところも怪しい国だと思うのですが、、

早い段階でブレーキをかけることができたのだ、と思います。他の国々の対策の情報もすぐに入ってきたでしょうし、迅速にタイミングよく対処したのだと思います。もう一度ここで、日本の例を出すべきだと思いますが、、クラスターだけに集中することで状況を解決し、持続的な効果をもたらしている、という印象で片付けるのはあまりにも安易すぎるでしょう。それ以外の事もされています。他のアジア諸国と同様、日本ではマスクの着用が習慣化されていますし、新型コロナ以前でも普通にマスクをしていました。マスクを買って着ける、ということはごく普通の行為で、だれも疑問に思いません。 そのような基本的な全国単位での対策と、クラスターやスーパースプレッディングの発生を制御する対策とをコンビネーションすることは、この間も取り上げた、ネイチャー誌掲載のジェイミー・ロイドスミスのモデリングでも出ているように、効果的な対策方法なのです。つまり、30%のみをカバーする。しかし、その半分は、クラスターの疑いがある部分に集中する。全員がマスクをし、そこにクラスター対策を加える。定量的な把握を試みるならば、こうなります。

しかし、日本の感染者数に関しては、全てわかっているわけではないですよね。日本では検査数が極めて少ない、ということですし。

それは全くその通りです。日本の検査数は少ないです。日本では、クラスターの早期発見の為だけに検査分析手段を使い、基本的な一般国民の感染拡大に関してはあまり配慮されていません。

違う国に目を向けます。キーワードは、集団免疫、ですが、どの国もまだ程遠い段階です。かなり過酷な状況のニューヨークを除けば、、、知っている限りでは、、どこでもまだ一桁の領域です。

残念ながら、そうです。

スウェーデンでもですね。

スウェーデンの最新のデータは持っていませんが、そうだと思います。ヨーロッパ内で抗体検査をした場合、割合は1桁の前半である、という認識が基本です。勿論、地域によってはばらつきがあります。大きなアウトブレイクがあった地域では抗体保有率は高いです。といっても全体的にはそこまで高くはありません。 近い将来、第二波をコントロールするために必要な免疫と分散の役割の理解が必要になってきます。要するに、クラスターの効果的なコントロールですが、この2つは相乗効果があるからです。

リスナーの多くから、最新のワクチンや治療薬の情報についての質問がよせられています。そのなかで、まだ取り上げていなかったテーマがあるのですが、それは、結核ワクチン、BCGです。Bacille de Calmette et Guérinの略ですが、ドイツではもうかなり前に廃止されています。しかし、コロナ危機において、他国では、このワクチンが免疫機能を不特定に活性化させ、結果、子供の死亡率が下がる、という報告もでています。簡単に説明しましたが。そこで、ドイツでは遺伝子的に変えられたバージョンの研究がされています。感染を予防することはできないかもしれませんが、悪化を緩和する、という面では効果は期待できるのでしょうか。少なくとも、ワクチンができるまで。それとも、期待しすぎだ、と思われますか?

それについては、あまり知識がありません。それに関する研究をしている研究者はいますし、BCGワクチンは世界中で導入されていますが、、それでも、短く説明することはできると思います。これは、結核予防用のワクチンで、多くの国で広範囲で使われていますが、使われていない国もあります。新型コロナが流行しはじめた際に、(その国ごとに)比較されて、その違いが指摘されていました。BCGワクチンが広範囲で導入されている国では、アウトブレイクの規模が小さい、発生数が少ない、重症化ケースが少ない、など、そのような点を挙げて、BCGが新型コロナの予防になる、ということが初めのほうでは言われていたことは確かなのですが、それもすぐに、統計的相関が交絡、つまり、偶然だった、と言うことが判明しました。しかし、これに関しては、新しい意見もあって、、、それは聞くべきだと思うのですが、それは、BCGワクチンによって、広範囲における免疫記憶が形成され、先天性な免疫レベル、つまり、病原体に特化しない免疫ができる、というものです。この議論はまだ始まったばかりで、意見が分かれるところですが。

ということは、まだはっきりしない、ということですね。大きな希望となることも可能ですが、それと同時に、全く効果がない、ということもありそうです。

私が思うには、これはそう簡単には科学的な熟度に議論では達することはできないだろう、ということです。これを対策として導入するなどということにはならないでしょう。

キーワードは、治療薬と希望です。先日は、レムデジビルに大きな期待がよせられました。この場でも取り上げたことがありますが、エボラのために開発された薬です。ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン誌に掲載された論文にもあるように、いまのところ、病症の経過を数日短縮する、という事はわかってきたものの、本当に重症化を防ぐ効果があるのかどうかは今だに不明です。それでも、直感的に、この研究は続けるべきだ、と思われますか?

レムデシビルの大きな問題点は、この研究でもそうですが、今の時点では、重症患者を救済する目的で使用されていて、重症患者とは、かなり長い期間病気でいる人たちなのです。初期のポッドキャストで話したことはありますが、大まかな病症経過の説明をすると、、、1週間目は、ウィルス段階。次に、免疫段階。そして、炎症段階。1週間目、2週間目、3週間目、ですね。これは、とても大雑把に分類しています。医療従事者は、ドロステン先生は、何ていい加減な事を言ってるんですか!と言うでしょうけれど、簡単なモデルとして理解しやすいと思います。そこで、この段階のなかで、患者が病院に運ばれ、最悪、集中治療が必要になるような場合は、2週間目なのです。その時には、ウィルス段階、ウィルスが増殖する段階は終わっています。しかし、この治療薬は抗ウィルス剤です。論理的に考えても、この薬は本来ならば、早い段階で使われなければいけない。
この薬が使われなければいけない本来のタイミングというのは、1週間目、まだ患者の症状が軽い時期です。そのために、この選択は臨床的にもとても難しく、、研究においてもそうですが、、ここに、初期の患者がいて、症状も軽い。それでも、この研究以外の用途では入手困難な治療薬を使うのか。この決断をするのは容易ではありません。ですので、今現在では、レムデシビルが初期の段階でどのくらいの効果があるかはわかっていないのです。これは、数多くある問題のなかのひとつでしかありません。他の問題は、レムデシビルの有効成分は、簡単には化学的に合成することができない、といこと。数がないので治療例も少ない。一回きりの投与では何もわかりませんし、どのくらいの量が使えるのか、何回使えるのか、何人の患者の治療に使えるのか、ということも重要です。一回の用量、これは、治療全体に必要な薬の処方量ですが、それをみると、1千4百万〜1千5百万、年末までには、1億の用量、現在の投与方法は静脈注射ですが、が生産されなければいけない計算になります。この数をそのまま引用しないで欲しいですが。まあ、私の言う事はすべて引用されますよね。
私が理解する限りでは、そんなに簡単に増産することはできない、ということですが、勿論、私は薬の生産の専門家ではありません。そこまで多い量ではないでしょう。違う投与方法、、例えば、吸入とか、を考えることもできると思いますが、よくわかっていません。そのような報告はありません。このようなこともできるのではないかと思いますが、年末までに目に見えた成果が得られるかどうかは疑問です。

他にも、ニュースに頻繁に登場するのは、クロロキンです。これについてもこの場で取り上げましたが、こちらは、抗マラリア剤です。トランプ大統領やブラジルでも話題をさらいました。しかし、このクロロキンの効果に限界があるだけではなく、害がある、との論文もでています。しかし、まだ全てがわかったわけではなく、このようにメディアに出たからといって臨床試験を打ち切るべきではない、と警告する研究者もいます。どのようにお考えでしょうか。

勿論、臨床試験は最後までされるべきです。そうしないとエネルギーの無駄ですし、もしかしたら、ほんの少しだとしても効果を発見する機会を逃すことになるかもしれません。何があるかわかりませんから。クロロキンは、抗炎症剤としての効果が多少あることはわかっているわけですし、全てを検証し尽くす、という意味合いが大きいでしょう。クロロキンそのものは、患者のリスクを大きくする薬ではありませんし、現在行われている臨床検査をきちんと最後までする。正確なデータ収集に最善の注意を払った上で、です。

ハンブルクのエッペンドルフ大学病院で、ワクチン研究の為の志願者を募りました。そして、度々成功例が小さなニュースとして報じられています。成功の第一弾です。それでも、まだまだ長い道のりではあります。ヒューマン・チャレンジ・トライアルの議論についてはどうお考えでしょうか。この件に関しては、リスナーからも質問がきていましたが、志願者を使って感染させることが近道になる、という考えですが、危険な道でしょうか。

勿論、危険です。一人一人の患者のことを考えても危険でしょう。このウィルス感染は若者でも重症化する可能性があることがわかっています。このようなヒューマン・チャレンジ・トライアルは、もうすでに効能が信頼できる治療薬があった時点ではじめて実行を検討しはじめるものだと考えます。つまり、もし、このワクチンで感染を予防できなかった場合、少なくても、感染症の病症を治療薬で治療できることが前提です。これが、さあ、志願者でやりましょう。ワクチン候補の予防接種してみましょう。とは、簡単に言えない理由です。志願者の鼻からウィルスを入れ、それからどうなるか観察してみましょう。という考えは、安易すぎます。しかし、基本的に、このような学術的な文献、そのような道を考えてみたらどうだろうか。場合によっては可能ではないだろうか。突然、治療に使える薬がでてくるかもしれない、という、根本的なところでの評価と予測的なレベルでの考察には反対しません。

ドロステン先生、この場でお話を伺うことになって、もう3ヶ月以上になります。先生の同僚の専門家からも、ウィルス学者的にはこのようなパンデミックが起こったことに関しては驚かない、このようなことが起こる可能性はみえていた、という発言が聞かれます。人獣共通感染症もテーマのひとつで、その毒性が話題になっていますが、先生は、次に来るウィルスはコロナウィルスではないか、と予測はされていたのでしょうか。

今の時点で来る、とは思っていませんでした。どのタイミングでも突然ですが。基本的に生態学的影響が有利に働いたのか、と言う点では、そうだと思います。これが私の研究分野ですから。コロナウィルスだった、という点では、勿論、、、そうですね。過去にも何回も言っていましたが、第一候補はインフルエンザウィルス。そして、アラビア諸国のMERSウィルス、正確には、中東とアフリカ、と言わなければいけませんが、、、そのような危険な種類のコロナウィルス。しかし、突然、全く新しいウィルス、感染性が高いウィルスがが出てきたのは想定外でした。そして、SARS系であることにも驚いています。当時の旧型SARSは感染する際に全く別の性質を持っていましたから。

気管支ですね。

そうです。

キーワード、感染経路ですが、これはまた次回にでも新しい論文と共に取り上げたく思います。今日もどうもありがとうございました。またよろしくお願いいたします。


ベルリンシャリテ
ウィルス研究所 教授 クリスチアン・ドロステン

https://virologie-ccm.charite.de/en/metas/person_detail/person/address_detail/drosten/

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