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便器について

はじめに

最近、建築士の環境設備の授業で質問があったのと、職業技術校で新しく講座を頼まれた内容とも関係するので便器について記事を書いておこうと思います。

便所と下水処理の歴史を簡単に

日本最古のトイレは、縄文時代に遡ります。この頃は「川屋」(厠の語源)と呼ばれるの川で直接用を足すスタイルです。

そして、日本国内における便器は長らく汲み取り式でした。その設えは簡易なものから、身分の高い家においては畳が敷いてあるところもありました。そして、しゃがんで用を足すスタイルでした。腸からの排出には良い姿勢らしいですが、腰痛持ちにはちょっとキツい体勢ですね(笑

また、汲み取り式でしたので定期的に清掃が行われましたが、排出物は単に捨てられるのではなく肥やしとしての利用もされていました。また、廃棄されるにしても「どぶ」という形で下水システムが江戸時代(1603−1868)にはありましたが、ここにし尿を流すことはほとんどありませんでしたので、公衆衛生は高いレベルで保たれていたといえます。

海外においては、同時期に至るまでに下水道の整備が行われ、ナポレオン3世の下、オースマン市長によるパリ大改造計画を経てパリでし尿を下水道に流すようになったのが1880年代です。そして街地の大改造がほぼ完成し第5回万国博(1867年)が開催されました。ナポレオン3世は、世界に広く参加を呼びかけ、江戸幕府も出展し、使節団も派遣されました。使節団は下水道も視察していたたようです。

さて、日本においては明治に入りすぐですが、1869年に横浜の外国人居留地に陶管製の下水道(暗渠)が作られました。その後、コレラの発生などを経て1884年東京都(当時は東京市)神田に近代下水道が作られた後、1900年になると旧下水道法が制定されます。ここから、各地で下水処理場が作られ現在に至ります。

水洗便所の登場は、国内では平安時代 (794年頃)に和歌山県の高野山で日本式水洗便所ができたと言われています。海外においては、1728年にベルサイユ宮殿に最初の水洗トイレが設置されたという記録があるそうです。

実際に、国内で水洗便所が普及するのは明治以降になります。建築において、洋館でみられるような欧米文化の導入とあわせて、腰掛式の洋風便器も登場します。そして、その後水洗式の便器が輸入されるようになりました。

そして、1904年になると日本で初めての和風水洗大便器、洋風小便器を製造されます。この頃は、まだ貯めた水を流す洗い流し式です。例えば、同潤会代官山アパート(1927年(昭和2年)入居開始)では、一部自タイル張りの木製の床から一段高い位置に和風便器が設置され、トイレの上部に木製のハイタンクがあり、金属の鎖を引くと水が流れる仕組みとなっていました。

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写真は1927年の便器(TOTO小倉ミュージアム展示のもの)
このように、水洗化が進んでいきますが、し尿の処理としては、東京都区部においても昭和30年代までは、汚水を含む下水道と雑排水と雨水のみを受け入れる、下水を単に排除するだけのものとが並立して存在していました。

そして、1950年代にはフラッシュバルブ方式が登場しています。晴海高層アパート(設計:前川國男、入居開始1957年(昭和32年))においては、すでに洋式水洗便器でフラッシュバルブ方式が採用されています。

その後、洋風便器が普及するとともにさまざまなタイプの便器が登場していきます。また、1960年代にはおなじみの温水洗浄便座が、1990年代にはタンクレス便器が登場します。

フラッシュバルブ式の仕組み

フラッシュバルブは水道管に直接取り付けられています。そして、レバーペダルや人感センサーにより水の流れをおこして便器を洗浄します。

水道管直結のため、25A以上の太さの給水管が必要になり、また、一定以上の水圧の確保も必要です。

では、内部の仕組みがどのようになっているかというと、内部には水圧によって上下するピストンバルブがあります。レバーペダルを押すと、ピストンバルブ上部にたまっていた水がトイレに流れるようになっています。

水が流れてしまうと、圧力がなくなったピストンバルブが上に押し上げられて水道管から水が流れて洗浄が始まります。水道管から水が流れている間は、ストレーナーと呼ばれる小さな穴からピストンバルブ上部へと水がたまります。

水がたまることでピストンバルブへと圧力がかかり、下へ押し下げられると水道管からの給水が自動で止まるのがフラッシュバルブ式の仕組みです。

タンクレス便器の仕組み

つぎに、タンクレス便器の仕組みについてですが、フラッシュバルブと同様に、水道菅の水圧を利用した仕組みになります。

ロータンクをなくしたダイレクトバルブ式であり、最低水圧(流動時)0.05〜0.07MPa以上・最高水圧(静止時)0.75MPaといった水圧条件があります。

給水バルブの開閉は電気制御により行っているので、停電時には洗浄が作動せず手動での対応が必要になります。

フラッシュバルブを使用しているものと違い、タンクレス便器は便器と便座が一体構造であるため、故障の際に交換・修理が難しい場合があります。

まとめ

このように、フラッシュバルブとタンクレス便器はどちらも水道管の水圧を利用していますが、構造的な違いがあります。

フラッシュバルブ式を使うと、洗い落とし式の便器もロータンクやハイタンクを使わずに直接水道管から洗浄水を流すことができ、いろいろなタイプの便器で使うことができます。また、小便器でもよく採用されています。

一方、タンクレス便器は便器内に水を流す仕組みが内臓されており、また、洗浄の仕組みとしては、サイホン作用を利用したサイホン式やサイホンボルテックス式、ゼット穴(噴出穴)から洗浄水を強力に噴射させるタイプのブローアウト式などいくつかのタイプがあります。

便器の種類については、別記事にてまとめてみたいと思います。

追記:2021年5月2日
※写真は著者設計の住宅におけるトイレと風呂



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