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日本企業の会計不正は10年でどう変わったか~「上場会社等における会計不正の動向」を読み解く

日本公認会計士協会が毎年公表している「上場会社等における会計不正の動向」。読んでいなくてもドヤれるように、トレンドをまとめました。


監査法人で30年強、うち17年をパートナーとして勤めた「てりたま」です。
このnoteを開いていただき、ありがとうございます。

日本公認会計士協会は、毎年7月ごろに「上場会社等における会計不正の動向」を公表しています。
2024年版は7月16日に公表されました。

表紙を含めて16ページの資料ですので、読めない量ではないのですが、それでも忙しくて時間がない、という方は多いと思います。
そんなあなたのために、読んでなくても重要なポイントがつかめるようにまとめます。



「上場会社等における会計不正の動向」とは?

「上場会社等における会計不正の動向」は、日本公認会計士協会の経営研究調査会が、上場会社やその関係会社が公表した不正を集計し、分析したものです。

毎年ほぼ同じフォーマットで作成されるため、不正の動向を定点観測するのに便利です。

それでは、重要なポイントを見ていきましょう。


❶ 不正の件数は増加傾向

会計不正の公表会社数の推移(単位:社数)

「上場会社等における会計不正の動向」は過去5年間の不正の推移を対象にしています。5年前に公表されているものと合わせて読むと、過去10年のトレンドを見ることができます。
なお、「2024年3月期」とは、2023年4月~2024年3月に公表された不正を示しています。各社の決算期とは関係ありません。

<筆者の考察>
グラフをご覧いただくと、デコボコはしていますが、全体的に右肩上がりのトレンドのように見えます。
2021年3月期は、コロナが直撃した年です。前年が多かった反動もあるかもしれませんが、コロナの影響も大きかったと考えられます。
ただし、不正の機会が少ないなどの理由で本当に減っていたのか、不正が発覚しなかっただけなのかは分かりません。

※「上場会社等における会計不正の動向」では、客観的なデータを示すことに力点が置かれ、変動要因の分析はほとんどありません。そこで、私の勝手な分析を「筆者の考察」として記載します。


❷ 当局の調査による発覚が増加

会計不正の発覚経路(件数ベースの比率)

過去5年間とその前の5年間を比較すると、「当局の調査等」が増えています。同様に「取引先からの照会等」も増加。
一方で、「内部統制等」が少し減少しました。

<筆者の考察>
もう一つ大きく減少している項目が「未公表」。
これは、不正を公表する企業が、より積極的に開示しようとしている結果と言えるかもしれません。
なお、個人的には「内部通報」がもっと多いと思っていましたが、さまざまな項目にかなりばらけています。


❸ 国内子会社の不正が増加、海外では半数が中国

会計不正の発生場所の推移(件数ベースの比率)

不正の発生場所では、国内子会社が増え、本社や海外子会社は相対的に小さくなっています。
この理由については、手がかりがありません。

海外子会社の内訳は次のようになっています。

会計不正が発覚した海外子会社の所在地(件数ベースの比率)

海外子会社の所在地では、中国が約半数を占めています。これは5年前も変わりありません。

また、「その他」が増えています。
2020年3月期~2024年3月期では、北米・南米が23.3%となっており、「その他」の大きな部分を占めています。
2015年3月期~2019年3月期は「その他」の中では欧州が一番大きく(全体の11.1%)、「その他」は時期によってかなり変動するようです。


❹ 外部専門家による調査が増加

会計不正の不正調査体制の推移(件数ベースの比率)

外部専門家のみでの調査、社内と外部専門家との混成チームでの調査がいずれも増え、社内のみで実施する調査は減少しています。

「上場会社等における会計不正の動向」では、不正を「資産の流用」と「粉飾決算」に大きく区分して、それぞれの社内・外部の割合を記載しています。
それによると、「資産の流用」の場合は「粉飾決算」と比べて、社内のみの調査委員会を組成する割合が大きくなっています。
これは5年前も変わりません。

<筆者の考察>
「資産の流用」が発覚したときには、「粉飾決算」よりも金額規模が小さいため、あるいは経営者不正が疑われる案件が相対的に少ないからかもしれません。


❺ 収益認識による不正は30%前後

不正に占める収益関連の比率(件数ベース)

「上場会社等における会計不正の動向」では、各年度の公表された不正に占める粉飾決算の割合と、粉飾決算に占める収益関連の割合が記載されています。
両者を掛け合わせて「不正に占める収益関連の割合」を算出して作成したのが上のグラフです。

年度によりかなりデコボコはありますが、2017年3月期は異常値として、それ以外はおおむね30%前後で推移しています。

<筆者の考察>
この❺は主として監査人向けです。
監査基準では、収益認識について不正リスクを識別することが求められています。不正リスクを識別すると、それに見合う手厚い手続を実施することになり、工数が増えます。

ところが、業種やビジネスモデルによっては、収益関連ではどうにも不正が起こりそうにないことがあります。
たいしたリスクはないと思っているのに無理やり不正リスクを識別するのですが、そのときに監査人の口から出るのは「本当に世の中でそんなに収益関連の不正は起こっているのか? 原価の不正の方がよほど多いのではないか」という声です。

上のグラフで表されている30%前後という実績。私は、思ったより多いな、という印象を持ちました。
監査人の皆さんはどう思われますか?


おわりに

「上場会社等における会計不正の動向」には、ここで挙げた以外にも、粉飾決算の手口別割合や、不正の多い業種なども盛り込まれています。
グラフもかなりたくさんありますので、興味を持たれたらまずはパラパラめくって見てください。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。
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これからもおつきあいのほど、よろしくお願いいたします。

てりたま

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