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リース会計基準案へのコメントを読んでみた

企業会計基準委員会は、リース会計基準案に寄せられたコメントを公表。意外な団体も反対していました。


監査法人で30年強、うち17年をパートナーとして勤めた「てりたま」です。
このnoteを開いていただき、ありがとうございます。

企業会計基準委員会(ASBJ)は2023年8月9日、リース会計基準案に寄せられたコメントを公表しました。

この基準案の内容については、公表された直後のこのnoteにまとめています。

時系列ではこんな感じ。

  • 2023年5月2日 基準案公表、コメント募集開始

  • 2023年8月4日 コメント期限

  • 2023年8月9日 コメント公表

  • ??? 基準公表

ちなみに収益認識会計基準の際は次のようなスケジュールでした。

  • 2019年10月30日 基準案公表、コメント募集開始

  • 2020年1月10日 コメント期限

  • 2020年1月21日 コメント公表

  • 2020年3月31日 基準公表

今回の記事では、リース会計基準案へのコメントの内容のうち、基準案の基本的な方針への賛否をざっと見ていきます。



誰がコメントしているのか?

ASBJに届いたコメントは「団体等」から32件、公認会計士など個人から13件です。

団体等は、おおざっぱに次のように分類できます。

  • リース業界 7

  • その他事業会社 11

  • 金融機関 3

  • 会計関連業界 4

  • 監査業界 6

  • 経団連 1

それでは、団体等のコメントを見ていきましょう。


コメントの内容~リース会計基準案への賛否

ASBJは、基準案に対して27もの質問へのコメントを募集しています。
その中で最も重要な最初の質問について、コメントを見ていきます。

質問1(開発にあたっての基本的な方針(借手の会計処理)に関する質問)
本会計基準案等の開発にあたっての基本的な方針(借手の会計処理)に同意しますか。同意しない場合には、その理由をご記載ください。

リース業界 7件

リース業界は、リース会計なるものが日本に初登場したときから一貫して資産・負債計上には反対の姿勢。
もともとリースを利用する理由の一つに、固定資産を取得するよりも事務処理が簡単、ということがあったため、リースの会計処理が煩雑になることは大いなる営業妨害です。

反対運動の先頭をになってきたのが業界団体たるリース事業協会。Webサイトにはこれまでの激闘の軌跡が表れています。IFRSや米国基準を設定するIASB、FASBにも意見しています。

リース事業協会は、今回の基準案についても7月19日にコメントを出し、話題になりました。
質問1に対しては、もちろん「同意しない」。その理由として、3つ挙げています。

【質問1に同意しない理由】リース事業協会
❶ 税法におけるリースの取扱いへの影響
❷ 中⼩会計指針における借⼿の所有権移転外ファイナンス・リースの会計処理への影響
❸ 賃貸借契約を借⼿に対する⾦融の提供と捉える問題

同様に、日本自動車リース協会連合会も「同意しない」。理由は以下の二つです。

【質問1に同意しない理由】日本自動車リース協会連合会
❶ 借手において、すべてのリースに資産及び負債を認識させ、単一の金融的会計処理モデルによる費用配分を行うことは、自動車リースの多様性と経済実態が反映されない
❷ 借手に対してすべてのリース取引に資産及び負債を認識させること及び単一の費用認識モデルは、多大なる手間とコストを強いることとなる

リース業界からはそのほかリース関連団体から1件、企業から4件のコメントが寄せられていますが、いずれも質問1には言及していません。
リース事業協会が業界を代表して戦ってくれているから、ということかもしれません。個人的には各社がそれぞれの言葉で反対を表明する方が、インパクトがあったと思います。

その他事業会社 11件

鉄道、航空、資源などリースを借手として利用する立場からのコメントです。

質問1に対して賛成が6件、言及なしが4件。
その中で異彩を放つのが、商社の業界団体である日本貿易会。堂々の反対です。その反対理由とは……

【質問1に同意しない理由】日本貿易会
IFRS任意適用企業と日本基準適用会社で基準差が残り続け、国際的な比較可能性を損なわせる懸念がある

リース業界とは真逆。つまらない差を設けず、IFRSとぴったり一致させろ、との意見です。

金融機関 3件

全国信用金庫協会日本証券アナリスト協会はいずれも賛成。
全国銀行協会ははっきりとは書いていませんが、冒頭の文章で賛成の意向をにじませています。傘下にリース会社があるため気を遣った結果でしょうか。

会計関連業界 4件

宝印刷が賛成する一方で、プロネクサスは次の理由により反対。

【質問1に同意しない理由】プロネクサス
❶ IFRSの主要な内容のみを取り入れるとの方針は収益認識会計基準と異なっている
❷ なぜ米国基準でなくIFRSのモデルを採用したのか
❸ すべてのリースを借手への金融の提供とすることはあまりにも単純化

❶は日本貿易会の意見と似ています。ただし差があるからダメということではなく、収益認識会計基準ではIFRSをほぼ丸呑みしたこととの違いを説明せよ、との主張です。
❸はリース事業協会に喜ばれそうですね。

会計パッケージソフトのプロシップはコメント一番乗りで、質問1には賛成。
TKCは言及なしでした。

監査業界 6件

日本公認会計士協会とBig 4(提出順で新日本あずさあらたトーマツ)は、質問1に賛成。
もう1件の史彩監査法人は質問1への言及はありません。

経団連 1件

日本経済団体連合会は、質問1への言及はなし。冒頭に「総論」として国際的な会計基準の一致を図ることへの理解を示しながら、日本特有の観点も検討するべきとの玉虫色のコメントがあります。
立場上、意見を明確にすることは難しかったと思われます。


おまけ

ちなみに、リース事業協会のコメントでは、実務負担の増大が懸念される項目として以下の5つが挙げられています。

実務負担の増大が懸念されるもの
(1)リースの識別
(2)リースを構成する部分とリースを構成しない部分の区分
(3)借⼿のリース料に含める残価保証の⽀払⾒込額の⾒積及び借⼿が⾏使することが合理的に確実である購⼊オプションの⾏使価額の判断
(4)契約条件の変更が⽣じた場合のリース負債等の⾒直し
(5)契約条件の変更を伴わないリース負債等の⾒直し

各社で新基準の適用を検討される際に、特に手間がかかる論点として参考になると思います。


おわりに

会計基準が公表されると賞味期限が終わってしまう記事ですが、今のうちにこれを使って周りの方にどやっていただければ幸いです。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。
この投稿へのご意見を下のコメント欄またはTwitter(@teritamadozo)でいただけると幸いです。
これからもおつきあいのほど、よろしくお願いいたします。

てりたま

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