見出し画像

四半期開示簡素化で増える手間もあるよ

てりたまです。監査法人でパートナーを17年務めました。

金融庁金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ(長い名前です)が四半期開示の制度を見直す報告を公表しています。

ちなみに今回の投稿も(いつもの投稿も)、てりたま個人の意見を述べています。

実務に影響のありそうな変更

すでに方向性が決まっているものを含めて、実務に影響のありそうな変更はこんなところです。

  • 第1四半期、第3四半期の四半期報告書を廃止

  • 四半期決算短信にセグメント情報、キャッシュ・フロー情報など追加

  • 会計不正が起こったり、内部統制の不備が判明した場合は、一定期間、四半期決算短信のレビューを義務付ける

  • 有価証券報告書の記載内容に重要な変更があった場合、これまで四半期報告書で対応してきたが、臨時報告書に移行

「報告」の記載ぶり

なお、今回の「報告」では、「考えられる」「(…という)意見がある」という腰の引けた表現が全体にちりばめられており、ほとんど断定していません。
お役所の文章にありがちとはいえ、金融審議会から出たほかの「報告」では、「べきである」「必要である」「求められる」と意思を明確にしています。
今回、このような表現にしている意図はよく分かりません。まだ各方面との調整が済んでいないからか、あるいはルールを決めてしまえる会議体ではないという本来の立場をわきまえたというところでしょうか。

開示の後退は問題か

本論を少し離れますが、議論の前提として、「開示の後退は避けたい」ということがあります。
これに対して、開示も監査法人の関与も各社の自主性に任せ、市場からより高く評価されたい会社が積極的に取り組めばよい、という考えがあります。
私もそう考えていました。

ところが、今回の「報告」には、次のような記載があります。
「任意化により企業の情報発信が全体として低下し、グローバルな投資への影響が危惧され…」
かつて日本は破竹の勢いで成長し世界第2位の経済大国となり、投資対象として外せない国でした。ところが、未だ世界第3位とはいえ、将来の成長シナリオが描けず、投資先としての魅力が低下しています。

「ジャパン・パッシング」という言葉が生まれたのはずいぶん前ですが、日本が素通りされてしまわないためには、これまで以上に努力が必要です。
「開示は充実し、情報は正確で、安心して投資いただけますよ」と国全体でアピールしていかないといけません。後退している場合ではないわけです。

会社の実務への影響

話を戻して、会社、監査法人の実務への影響を考えてみましょう。
まずは、会社への影響。

  • 四半期決算短信で必要なかったセグメント情報などを開示することになると、決算スケジュールの見直しが必要

  • 有価証券報告書の重要な変更を臨時報告書で開示することとなると、変更に関する情報を随時集め、臨時報告書の発行要否を検討するプロセスを構築する必要がある

  • 第1四半期、第3四半期の会計処理について、これまで以上に積極的に監査法人に相談する必要がある(そうでないと、第2四半期や事業年度末に処理が変わり、短信の修正が必要になることも)

それと、「実務への影響」とはちょっと違いますが、多額の損失が発生するような会計処理は、第1四半期、第3四半期で減り、第2四半期と事業年度末に増えそうです。
第1、第3では監査法人からうるさく言われないためです。
ただし、会社としては「どうして第1(第3)四半期でなかったのか」という質問に対して説明できるようにしておく必要があります。

監査法人の実務への影響

次に監査法人。

  • 第1四半期、第3四半期にクライアントから会計相談があったら、会社が開示してしまう前に結論を出すように規律を持つ必要がある
    →すぐにレビュー報告書を出すわけではないので、検討が長引くおそれがあります。第1四半期で相談を受けていた処理について、第2四半期で違う結論になると、第1四半期の短信を修正したくないクライアントと修羅場になります。

  • 不正などの発生後、第1四半期、第3四半期にレビューが必要になる場合、対象は四半期報告書ではなく、短信なので、相当タイトになる
    →そもそも不正など異常事態が起こった直後なので、決算発表時期の変更を早期にクライアントに申し入れる必要がありそうです。

  • 報酬交渉が難航しそう
    【監査法人の言い分】四半期レビュー手続はかなり効率化しているので、監査時間はあまり減らない
    【クライアントの期待】年4回ある決算の半分しか関与しないんだから、半額とは言わないまでも相当な値引きになるだろう

おわりに

四半期開示が導入されたときには、伸び盛りのベンチャー企業でなければ、半期に一度で十分だと思っていました。
ところがコロナだの円安だの物価高だの、経済情勢が急に大きく動くことが多く、今になって必要だったと感じます。
ただし、内容は全体的にもっと簡素化しても十分なはず。セグメント情報を追加する方向のようですが、むしろセグメント情報だけでもよいと思います。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。
この投稿へのコメントや、Twitter(@teritamadozo)などでご意見をいただけると幸いです。
これからもおつきあいのほど、よろしくお願いいたします。

てりたま

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?