「人の不幸は蜜の味」って人類が獲得した社会性の原理らしいよ

 "Schadenfreude"  シャーデンフロイデ
 =人の不幸を見聞きして生じる喜び (*1)

 Wikipediaに『"Schadenfreude"は「損害」「害」「不幸」などを意する "Schaden" と「喜び」を意する "Freude"を合成したドイツ語であり、意味合いとしては「他人の不幸を喜ぶ気持ち」もしくは「人の不幸を見聞きして生じる喜び」をいう。』とあります。

 これ、わたしにも多少あると思いますが、「そんなことはない」と普通は否定してしまいます。なんでですかね。なんとなく自分が下衆な人間だと思われるのを避けたいと思うからですかねー。
 ところが、認知神経学の専門家である中野信子氏(東日本国際大学特任教授)の記事(*2)(*3)を読むと、ああ、これなら人の不幸を喜ぶ気持ちがあることを否定することなく、かつ自己肯定感を保てるかもと思ったりもしてきています。記事はなんとなく納得できるし、少なくとも自分の下衆な気持ちの言い訳はできそうだなと。

 さて、脳科学者の中野信子氏はお笑いコンビロザンとの対談(*2)で、「シャーデンフロイデは、社会を守るために必要な感情なんです」と論じていて、脳内画像を撮った研究によってもエビデンス(根拠)が示されたようなことを言っています。また、イギリスのEU離脱の例をあげ、愛国心を持つことと、妬みや排除の感情を持つことは表裏一体であって、これはどちらも「オキシトシン」というホルモンの作用が原因であるということを述べています。 
 この「オキシトシン」と「シャーデンフロイデ」の関係は東洋経済オンラインの記事(*3)にも、同じく中野信子氏が記事を書いていました。記事の2ページ目ですが、『オキシトシンは、女性ホルモンであるエストロゲンによって増幅され、一般的に女性的なものとされる包容力であるとか、協調性、人と仲良くなることを好む傾向、養育者としての適性といった性質が、強く現れるようになります。』とあります。一方、同じ2ページ目に、オキシトシンによって『私たちの絆を断ち切ろうとすることは、許さない』という感情が増強されるとあります。そうすると、やはり女性のほうが比較的「家族愛」が強く、その一方で「未知のものに対する排除の感性」が強いのだということが導かれますし、なるほど、私は平均的な男性よりはオキシトシンの分泌が多いんだなという感想も持ちました。

 また、この「オキシトシン」を増幅させるという「エストロゲン」は、調べてみたところ副交感神経に作用し感情を安定させる働きがあるようです。
 後で示しますが、この2つのホルモンの増減の時間的関係とバランスを考えるといろいろと見えてきます。
 「エストロゲン」はどんな時に増えるのでしょう。どうもエストロゲンは排卵前後(特に排卵前の段階)で増えるようで、ネット上にはこのホルモンの排卵前後のグラフがたくさんあります。おそらく女性で特に人生に計画性のある方は「エストロゲンと排卵の関係の知識など普通でしょ」というくらいご存じなのかなという印象を持ちました。エストロゲンが感情を安定させるなら、エストロゲンが減る排卵後のほうがイライラするんでしょうか? そうなんです。下図を見てください。

月経前症候群

 イライラはホルモンバランスが少し異常なくらい悪いのが原因であるのだろうということが分かります。オキシトシンの量が多いままであれば、排他感情が強くなることは中野信子氏の説明からなんとなくわかります。この感情が不安定になる症状がまさに月経前症候群らしいのです。

逆に言うと、ホルモンバランスがこの状態に近ければ、子供を授かるシステムに関係なく月経前症候群の症状に近い症状が現れるということにならないでしょうか。

 エストロゲンに関連して養命酒製造株式会社の記事『「泣く」と「涙」の雑学』(*4)におもしろい記事がありました。
『女性の方が涙もろいのは、プロラクチンという母乳を促すホルモンを男性の1.5倍以上持っていることと関係があるようです。プロラクチンは涙腺の細胞にも含まれており、これが涙の分泌を促すと考えられています。また、女性は排卵前後の数日間、女性ホルモンのエストロゲンが増えることで、共感脳を刺激する神経伝達物質セロトニンも増え、普段より涙もろくなるようです。』
 
 ここででてきた「プロラクチン」ですが、これもいろいろと調べてみたところ、授乳期に増え、排卵を抑制し、母性を芽生えさせ、おそらく涙の成分に多く含まれ、きっと男性の性欲を抑制します(性欲を抑制する仮想物質は逆フェロモンと呼ぶらしいです。おそらくプロラクチンは逆フェロモンなんだろうとは思うのですが・・)。このプロラクチンの作用は哺乳類が子孫を残すために必要であるだろうということは納得できるものでした。裏付けるように、東邦大学の記事(*5)によると、プロラクチンは哺乳類で乳汁の分泌や乳腺の発達を促すという生理作用があり、脳への影響についての齧歯目等における研究では、雌へプロラクチンを投与すると性ステロイドホルモンとの協調によって母性行動(仔を養育する行動)を誘起する現象がみられたとあります。

 下図に妊娠から授乳期までのプロラクチンを含めたホルモンの増減を示しました。

プロラクチン

結局、オキシトシンがバランスを崩すくらい過剰に多い極端な場合は、男女問わず

「あいつは私の社会に不要だから叩きつぶそう」

 となるんですかね。私も含めてですが、この排他行動が成功したときにはオキシトシンによる幸福感もあるはずなので、なんとなく怖い気もします。黒人差別に対する暴力を辞さない過剰な反差別運動も、小児性愛者への異常な嫌悪感もこのメカニズムならなんとなく納得できます。

 この排他感情があまりに異常であれば、ホルモンバランスが酷く崩れてるのかなーということになるんですけど、なにかそういう攻撃的な感情にならないためにどうしたらいいかなと考えると、知識や制御方法を身につけてその感情をコントロールするのも大事な気もしますが、もしかしたらむしろ生活習慣を改善したら直る人もいるんじゃないかなと思ったりもします。いやまさかね。適切な食事と運動と睡眠で、他者への攻撃癖が治るなんてね・・・
(終)

 ちなみに、わたしはただのサラリーマンで、ここに書いたすべての関係の学問については素人ですので、鵜呑みにしないでくださいね。なんかちょっとホルモンとその作用を調べてたら、中野信子氏の「他人の不幸を喜ぶ気持ちが社会に必要」って・・はは・・おもしろいこと言うなー・・と思って、いろいろ考えてみたくなっただけなんです。ただの感想文です・・・。

参考
(*1) シャーデンフロイデ - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%83%87%E3%83%B3%E3%83%95%E3%83%AD%E3%82%A4%E3%83%87
(*2) ロザン×中野信子「シャーデンフロイデは、社会を守るために必要な感情なんです」|特別"高学歴”鼎談|菅広文/中野信子 - 幻冬舎plus https://www.gentosha.jp/article/9617/
(*3) 「他人の失敗」を見ると快楽を覚える本質理由 生物種としてのヒトに仕組まれた特性だった」 | 読書 - 東洋経済オンライン
https://toyokeizai.net/articles/-/205178
(*4) 『「泣く」と「涙」の雑学』 元気通信|健康の雑学|養命酒製造株式会社
https://www.yomeishu.co.jp/genkigenki/trivia/130226/
(*5) タンパク質性下垂体ホルモンは脳に作用する?-プロラクチンの中枢神経系への作用を例に- 東邦大学
https://www.toho-u.ac.jp/sci/bio/column/035220.html

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