見出し画像

将来のエネルギーの在り方は、いま私たちがどのような選択をするかにかかっている 〜気候ネットワークの豊田さんと考える、テラエナジーの次なる一手〜

テラエナジーでんきは、固定単価プランの電気料金を2022年10月1日より値上げしました。今回の料金改定の背景や電力業界の実状、さらにはテラエナジーの今後の展望について、社外取締役である認定NPO法人 気候ネットワークの豊田陽介さんと弊社代表の竹本が語りあいました。

いま電力業界で起こっていることとは?

竹本:今年の2月に始まったウクライナ侵攻などの影響により電力市場が高騰を続けています。販売価格より仕入価格の方が高く、売れば売るほど赤字が増え続ける状況が続いています。このような状況のなか、苦渋の決断ではありますが、生き残りをかけて、固定単価プランの料金を値上げさせていただきました。私たちは適正価格を大切にしたいと思っています。電力市場が落ち着けば、また料金も改定します。

皆さまにご負担を強いて申し訳ないのですが、これを機会に少しでも電力業界やエネルギーの問題に関心をもってもらう機会になればと願ってます。そこで、今回は専門家の豊田さんにお話を伺います。

まずは、いまの電力業界全体の様子についてお伺いできますか。

豊田:テラエナジーも大変ですが、多くの新電力が経営の危機に瀕しています。

Zoomでの対談に応じてくださった豊田さん

その要因は、電力市場の価格が上がっていることです。昨年11月から電力市場価格は高騰を続け、ここ半年間の平均価格は昨年比の約3倍に膨れあがっています。

JEPXデータを元に弊社作成

電力市場高騰の理由は、社会情勢や供給力の問題、料金制度など、さまざまな要因が重なって起きますが、今回の最大の問題は、火力発電に必要な燃料調達です。

火力発電に必要な燃料であるLNG (液化天然ガス) の輸入価格が上昇しています。LNGは、石炭や石油と比べCO2排出量が少ないことが特徴です。脱炭素社会を目指す流れを受け、石炭などから環境負荷の少ないLNGへシフトする傾向が世界各国でみられています。

近年はコロナ禍からの景気回復による需要増もあってLNG価格は上昇傾向にありましたが、それに拍車をかけることとなったのがロシア軍のウクライナ侵攻です。2022年2月にロシア軍がウクライナへの軍事侵攻を開始したことで、EUやアメリカなどはロシアにさまざまな経済制裁を加えました。それに対してロシアは欧州への天然ガスの輸出削減や一部遮断などの報復制裁を実施しています。LNGの輸出量で世界1位、原油や石炭も世界トップ3という資源大国であるロシアの動向は世界のエネルギーに大きな影響をおよぼしています。日本では、さらに円安も重なって輸入価格が上がっています。現在、LNGだけでなく石油、石炭についても過去最高を更新し続けています。

竹本:新電力会社はその影響をもろに受けています。

豊田:新電力会社だけでなく大手電力会社も含め、業界全体が大きな影響を受けていますね。特に、発電施設をもたない多くの新電力会社は、電力の調達手段が限られるため特に甚大な影響を被ることなります。

竹本:大手電力会社も厳しいのですか?

豊田:大手電力会社の2022年度の第1四半期決済 (4〜6月) を見ると10社中7社が最終赤字になっています。大手電力でも燃料価格の上昇分を電気料金に転嫁できなかったことなどが経営を圧迫しています。大手電力でも一部の料金メニューを対象に燃料費調整単価の上限価格を撤廃しているのも、経営的に厳しくなってきた一つの現れだと思います。

竹本:それでも大手電力は組織内に発電部門を持っているので経営悪化は避けられないにしても、いますぐに倒産なんてことは起こり得ないかと思います。新電力会社は次々と経営破綻や事業撤退していますよね。

豊田:新電力会社は多いときで760社ぐらいありましたが、50-60社は事業撤退、休廃止になっています。一割近くが経営破綻していることになります。

この状態がいつまで続くという見通しが立っていればまだマシなんでしょうが、終わりが見えないのが恐ろしいところです。

各社大変な状況のなかで様々な対策を打ちながら事業を行っています。テラエナジーの料金改定もその一つですね。

テラエナジーの決断

竹本:テラエナジーは将来世代によりよい生活環境を残すために、再生可能エネルギー由来 (FIT電源含む) の電源にこだわって調達しています。これまでもそうでしたし、これからもその方向性を変えるつもりはありません。

弊社代表の竹本

一方で、FIT電気の仕入は電力市場の価格が反映されるというルールがあるため、その仕入れ値は、再エネ由来の電源であるにもかかわらず電力市場価格になってしまいます。市場が高騰し、販売価格より仕入価格の方が高く、売れば売るほど赤字が増え続ける状況です。

人件費を含む固定費の削減や資金調達もしましたが、それだけでは数ヶ月後の経営が立ち行かなくなる状況です。生き残りをかけて、固定単価プランの料金を値上げさせていただくことになりました。

豊田:他の新電力会社の動きはどうですか?

竹本:多くの新電力が料金改定を行っています。

関係者に聞くと、新電力のなかでも大きくて体力のあるところは自社で損失を被り続けているところもあるようです。しかし、当然のことながらいつまでもそれを続けるわけにはいかないので、遅かれ早かれ値上げせざるを得ないかと思います。

豊田:これからテラエナジーは再エネ由来の発電事業者と直接契約を結び、自社で電源調達を進めていくことが大事になるだろうと思います。

竹本:まさに、やりたいことです、やらねばならないことです。テラエナジーの理念に共感していただける発電事業者から市場に影響されない価格での仕入れを増やしていくことが大切です。発電事業者も、何の検討をすることもなく大手電力会社に売電しているところも少なくない。まずは理念に賛同してもらえる事業者を見つけていきたいです。

豊田:それこそ宗教施設の一角を活用して太陽光発電をしているようなところもあります。そういったところと地道に対話しテラエナジーの応援者を増やしていくことが良さそうな気がします。

竹本:うちのお寺の駐車場にカーポート型の太陽光パネルを設置しました。ごくごく小さな取り組みですが、災害時に、ご門徒さんや地域の方の電源供給の場になれば良いなと思っています。ご門徒さんからは雨避けにもなって良いと好評です。

竹本の自坊である西照寺に設置するカーポート型の太陽光パネル

豊田:防災拠点としてのお寺の可能性ですね。素晴らしいです。

もったいないをきっかけに

豊田:ちょっと視点は変わりますが、これから顧客の皆さまへの省エネ提案も重要になってきます。デマンドレスポンスといわれますが、電気の需要をコントロールする事で電力の需要と供給のバランスを調整する仕組みです。電力の逼迫が予想される時間帯に節電・省エネをお願いし、成功すると報酬がもらえます。

竹本:テラエナジーも導入準備をしています。調整している段階なのですが、LINEにお友達登録してもらうと逼迫が予想されるタイミングで節電協力の連絡がいきます。その時間帯に普段より使用量を下げてもらえると報酬としてポイントを付与します。そのポイントは金券に変えることができます。あるいは、寄付先団体への寄付金に転嫁できるように考えています。

省エネ、節電だけでなく、電力が余っている時間帯は積極的に使うことも提案していきたいです。安い時間帯に掃除機をかけたり洗濯機をまわしたり、電気の使用方法について工夫できることはたくさんあるはず。これから寒くなってきますが、電力が余っている時間にしっかり暖房を効かせて部屋を温めておくこともできるかと思います。

導入検討中のデマンドレスポンスのイメージ図

豊田:需要が多いときは使用量を下げて、余っているときに使うようにピークシフトさせる。日本全体でエネルギーをマネジメントする仕組みですね。

竹本:節電が大きな力をもつことを目の当たりにしました。

今年の夏、東京電力管内で電力逼迫が予想され、電力会社やメディアが節電を積極的に呼びかけました。すると、全体で2%の使用量が減りました。

なにか報酬があるわけでもないのに、呼びかけだけで2%も減ったんです。

「えっ、たった2%しか…」と思われる方もいるかもしれませんが、すごく大きな数字です。日本では予備率の3%を切ると逼迫な状態です。みんなが協力するだけで逼迫を乗り切ることができました。

豊田:日本人の気質に規範性、道徳性、規律性が高いといわれたりしますが、まさにその特徴が示されたように感じました。

竹本:日本人は「もったいない」の精神が染み付いているように思います。

私の自宅はテラエナジーの市場連動プランなのですが、これまで節電なんて一切関心のなかった連れ合いが、テラエナジーのInstagramで投稿している毎日の電力市場価格をチェックし、なるだけ安い時間帯に家事をするようになりました。恥ずかしながら、これまでは一日中電気つけっぱなしな日々もありましたが、こまめに電気を消したり、日々の電気使用に対するアプローチが大きく変わりました。省エネ家電に買い替えたりして、劇的に使用量も減り電気代も下がりました。

Instagramストーリーで電力市場価格を毎日配信

豊田:一方で、本質的に意味のあるものにしていく必要も感じています。日本人の規範性が高いことに加え、経済的なインセンティブをつけることによって、より大きくエネルギーマネジメントしようとするのがこの仕組みです。が、単なるポイントを貯めて得するような「ポ活」で止めたくないです。

ポイントを集めるためにデマンドレスポンスに参加はしてるけど、それが行われる理由やエネルギーの実情は全く知らない、というような状況はつくりたくないですね。行動変容や気づきにもつながっていく仕組みに仕上げてほしいです。

なぜ、このような状況に陥ってしまっているのか。それは、火力発電を主とし、海外から輸入する化石燃料に依存し続けた結果であることを知ってほしいなと思います。そのような現状を知り、現状を打破するために何をすべきなのかを考えるきっかけになればと思います。

竹本:こういう仕組みも、楽しそうとか面白いというエンタメ性も大切な気がします。ゲーム的な感覚で広がっていくといいですね。省エネは辛いものじゃなくて、楽しいものだ、意味あるものだという感覚も伝えていきたいです。

豊田:ユニークな節電キャンペーンとして、「現役最古の冷蔵庫を探せ」という企画が各地で実施されました。最も古い冷蔵庫を使っている人には最新鋭の冷蔵庫がプレゼントされます。冷蔵庫の電気使用量は大きくて、古ければ古いほど多くの電気を使ってしまいます。新しいものは省エネ性能が向上しています。最新鋭の冷蔵庫をプレゼントというインセンティブを活用し、身近な省エネに気づいてもらうことが狙いでした。

竹本:デマンドレスポンスも、電力業界の仕組みやエネルギーの実状について関心をもつ機会になれば良いですね。

私たちの選択が欲しい未来をつくる

竹本:生活が経済的に苦しい時には、生活費削減のために電気料金を下げることが大切になります。一方で、それなりに生活に余裕がある時には、短期間の安い高いに左右されなくて良いのではないかと思っています。

というのも、電力会社のなかでも会社の規模が大きくて資金力があるところは、ゆるやかに金額を上げて長期間に渡って集金していきます。薄く長くとっていく。テラエナジーも含め小さく資金力のないところは資金ショートで潰れてしまいかねないので、瞬間的に金額が上がってしまう傾向にあります。しかし、組織規模も小さいためフットワークは軽い。電力市場が落ち着けば、タイムラグも少なく、電気料金も下げることができます。

なので、どこの電力会社であっても、2-3年の長期間で見ると、料金価格の差異はそれほど大きく変わらないと考えています。

経済的に比較的余裕があり、いまテラエナジーを選んでくれている方はこの状況を一緒に乗り越えていただければと願っています。

豊田:大手電力会社も含め、全ての電力会社が値上げをせざるを得ない状況であることは間違いないです。

竹本:私たちは、適正価格を大切にします。安く仕入れることができれば、そのまま皆さまへの料金に転嫁し電気料金を安くします。たくさん儲けようみたいな発想はないです。

一方でこれまでの経営を通して、電力事業を安定的に行うためには、ある程度資金的な蓄えがないと難しいことも学びました。結果的にお客さまに負担をかけることになってしまうので、そこのバランスはしっかり見極めないといけないことを痛感しています。

豊田:そもそもこのような電力市場の高騰に陥っている根本的な原因は、火力発電が中心でその燃料を海外からの輸入に頼っているからです。これを一つの契機に、他国に頼るのではなく、自然豊かな日本の国土のポテンシャルを最大限に活用して、再生可能エネルギーを主力電源にするために大きく舵を取る機会になればと願っています。

再生可能エネルギーは、様々な技術革新により発電にかかる費用はどんどん安くなっています。逆に原発はコストの高い電気になっています。コストの面からいっても再生可能エネルギーの方が優秀なわけです。

将来のエネルギーの在り方は、いま私たちがどのような選択をするかにかかっているといっても過言じゃない。私たちの判断が未来をつくります。再生可能エネルギーにこだわるテラエナジーを応援してほしいです。

竹本:目まぐるしく様々な事が起こりますが、軸がブレる事のないよう活動を続けていかねばと思います。今日はありがとうございました。

豊田陽介(Toyota Yosuke)
認定NPO法人気候ネットワーク上級研究員。立命館大学大学院社会学研究科博士課程前期課程(環境保全研究室)修了。社会学修士。市民による温暖化防止に関する調査、研究、各地の自然エネルギー事業へのアドバイス・サポートを行う。著書に『エネルギー・ガバナンス』(共編著、学芸出版、2018)『市民・地域共同発電所のつくり方』(共編著、かもがわ出版、2014)ほか多数。龍谷大学非常勤講師。

竹本了悟(Takemoto Ryogo)
奈良県西照寺の住職。生きる意味を求め、防衛大学校を卒業後、海上自衛隊に入隊するが、道に迷い退官。改めて、生きる意味を求め、龍谷大学大学院で救済論(救いとは何か、どうすれば救われるか)について研究。その際に浄土真宗本願寺派の僧侶となる。その後、浄土真宗本願寺派総合研究所の研究員として、宗教者の役割をテーマに実践的な研究に従事。2010年に「自死の苦悩を抱える方の心の居場所づくり」をする京都自死・自殺相談センター(愛称:Sotto)を設立、代表を務めている。2018年、研究所を退職、電力事業で「温かなつながりをつむぐ」TERA Energy株式会社を4人の僧侶で起業、代表取締役に就任。

Interview|Writing 霍野廣由

テラエナジーでんきのWebサイトはこちら

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?