ショールの話

皆さんはショールという名前の楽器を聞いたことがあるでしょうか?

コレです。

出典元:https://www.alashensemble.com/Instruments/wind/shoor_legends.htm

ショールはトゥバ共和国に伝わる縦型の笛で、似たような楽器としてバシコルトスタンのクライ、モンゴルのツォール、カザフスタンのスブズグなどがあります。穴の数や手の構え方にそれぞれ違いはあるんですが、歯に当てた状態で息を吹き込む吹き方は(おそらく)共通しており、ユーラシア大陸の内陸部に共通して見られる「かじる」タイプの縦笛です。

トゥバ音楽の熱心なファンの方であれば、フンフルトゥのラディック・テューリュシュやアラッシュのアヤン・シリジク(上記の写真の人)ら名手の演奏を聞いたことがあるでしょう。ショールは元々は柳やカラマツの枝など植物から作っていたよう(※)ですが、現在は素材は塩ビ菅などのプラスチックが一般的です。

一度トゥバで奏者は途絶えたらしいんですが、フンフルトゥのラディックら若手演奏者が増加し近年復活を果たした印象です。達人のレベルになると喉歌と組み合わせる等多彩な奏法があり、複雑な音色を作ることができる面白い楽器です。

さて、そんなショールなんですが、僕もある程度演奏出来ます。2010年に初めてトゥバに長期滞在していた時、ちょうど同じ時期トゥバを訪れていたとあるトゥバ関連の先輩と合流し一緒に楽器工房を訪れた際、楽器職人がショールを製作している最中で、「寺田くん、いまショール習ったら日本で第一人者になれるで(笑)」と吹き込まれマンマと….

早速ショールを購入し、現在はチルギルチンのメンバーであり当時まだ20歳そこそこだったブルタンオール・アイドゥン(今でも1番仲が良い)からしばらくレッスンを受けたんですが、コレが音が出るまでが大変だった。

アイドゥンと著者 2011年

歯に当て舌を微妙に吹き口に乗せる感じで、まず音が全然出せない。アイドゥンに目の前で吹いてもらい、2人で鏡の前で口の中の形を確認しながら延々吹く…でも音はさっぱり出ず…。ずっと練習していると、過呼吸みたいな症状になるのかアタマが痛くなってくるんですよね。そうするとアイドゥンの指示で一緒にラジオ体操みたいに腕を上下に上げ下げしながら深呼吸する(笑)すると回復してくるんですよね。吹奏楽の人とかこういうのやるんでしょうか?音が出るまで1週間くらいかかったんですが、アイドゥンいわく「俺は音が出せるまで1ヶ月かかった。お前はイケてる」と。

そのあとしばらく練習は続けていたんですが、もともと弦楽器メインで様々な楽器に手を出しすぎていましたし、語学や喉歌の練習などやることは山盛りだったので、ショールは趣味的にたまに練習する程度で続けていました。

ですが、最近インドの横笛バーンスリーの奏者である寺原太郎さんとよく演奏をご一緒させて頂いており、自身のデモ音源を制作する際に、バーンスリーを入れてもらう参考に自分でショールを吹くことが増えてきて、様々なキーのショールが必要になってきました。それまで質の良いショールを各キーごとに揃えてなかったんですよね。

寺原さんは以前から良く自分で製作した笛の写真をSNSに投稿したり、実際ライブで演奏したりしているのを見ていたので、何となく「ショール作れないですかね?」と聞いたところ、「出来るよ」と。

軽い気持ちで自分が所有するショールを数本渡し、製作をお願いしたんですが…

いや、太郎さんリハの時めっちゃショール作ってきてるやん…    しかもびっしり糸巻いてるし…

この後、もともと僕が太郎さんにサンプルで渡したショールが作りがイマイチで太郎さんが穴を開ける位置の勘所がわかりにくかったこともあり、リハの時に僕が吹いて穴の位置や僕の吹き方の癖などを確認、また作り直す、という大変手の込んだ作業をやってもらいました…(でも本人も作るの楽しかったっぽい)

以下の動画はまだ調整前のショールを色々と吹き比べてみたもの。

そんなこんなで試行錯誤を繰り返し、最高のC#菅のショールが完成。素材も竹っぽくてなんか和風で良い。ショールちょっと音も尺八っぽいところもあるし、こんなのトゥバに無いですからね。

で、もともとデモ製作時に必要なだけで、本番の笛の演奏はもうプロにお任せ、って思ってたんですが、ここまで気合を入れて作ってもらったらライブの時ショール吹かないわけにはいかない… しかも太郎さんショール好きみたいで「寺田くんショール練習してください」とのお達しを頂いたので、最近久しぶりにショールをちゃんと練習し直してます。でもコレ難しい楽器なんだ。しばらくサボってたらホント音出なくなる。

ということで、6/4 はシベリアの縦笛とインドの横笛、僕がショールを吹くミニコーナーもありますので是非楽しみにきてくださいね。

コンサート詳細はこちら

ところで以下のアラッシュのサイトに、トゥバに伝わる短いショールの伝説が3遍ほど掲載されています。面白いので興味がある方は読んでみてください。和訳しようかと思ったんですが、こういった伝説や口承文芸の解説ってかなり奥が深いので、それはまたの機会に…

ここまで読んでいただいて有難うございました。
この記事は全文無料でご覧いただけるんですが、6/4のコンサートは配信も出来ることになりましたので、ライブ配信をご覧いただいた方への投げ銭の受け皿として課金できるようにしておきます。ライブをご覧いただいた方(もちろん、この記事が面白かったと思った方や僕の活動を応援してくださる方も)記事購入で応援していただければ幸いです。ではでは。


参照(※) https://www.alashensemble.com/instruments_wind.htm

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