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テキーラが他の蒸留酒と比べてちょっと特別な理由

■ テキーラは世界を代表する蒸留酒のひとつ

テキーラはジン、ラム、ウォッカと合わせて世界4大スピリッツとよく言われますが、この中で唯一原産地呼称制度で守られ、原産国のメキシコでしか造ることが許されないのがテキーラです。

原産地呼称のお酒としてはフランスの「シャンパーニュ」や「コニャック」などが有名ですが、テキーラの場合はこれらとはちょっと事情が違います。法律でメキシコの指定地域以外で造ってはいけないことになっていますが、それ以前に法律で縛られるまでもなく、実はメキシコ以外で造るのが非常に困難であるという事情があります。

■ テキーラの原材料「ブルーアガベ」の特殊性

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テキーラの原材料はブルーアガベという多肉植物の球茎部(パイナップルのような形をからピニャと呼ばれます)ですが、このブルーアガベの生育条件がけっこう厳しく

「標高が高く、適度な日照時間と年間を通して安定した温暖な気候が必要」

という感じで、世界中を見渡してもメキシコ以外でブルーアガベが栽培できる土地はオーストラリアや南アフリカのごく一部だけと言われています。

■ アガベは1年では収穫できない

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テキーラの原材料である「ブルーアガベ」ですが、苗の定植から収穫まで最低でも5年かかると言われてます。お酒の原材料といえば「ぶどう」「麦」「サトウキビ」「じゃがいも」「コメ」など多種多様な農作物がありますが、一般的には「毎年収穫できる農作物」を使います。私の知る限り1年で栽培(果実の場合は毎年収穫)できない原材料はアガベだけです。

栽培できる場所がほとんどない、栽培するのに時間がかかる、このふたつのハードルが故に、僅かながらメキシコ以外で造られている「偽テキーラ」のほぼ全てがブルーアガベ以外のものから作られている「テキーラ風蒸留酒」になります。シャンパーニュとスパークリングワインどころの違いではないのです。

■ なぜアガベをお酒の原材料に選んだのか?

なぜメキシコ人はわざわざ栽培に時間がかかるアガベを使ってお酒を造ろうとしたのでしょう?

中南米は数多くの農作物の原産地であり、ウォッカの原料にもなるじゃがいもや、ラムの原料であるサトウキビも中南米原産です(ちなみにチャランダというサトウキビを使ったお酒もメキシコにはあります)。

それらを差し置いてアガベを使ったテキーラがたくさん造られた理由はなんだったんでしょうか?

理由は単純でもともとメキシコにはアガベが至る所にたくさん生えていたからです。

テキーラの名前の語源ともなったテキーラ村周辺は火山に囲まれた盆地(といっても標高1000m以上あります)のため、火山灰土質で一般的な農作物は育ちにくい枯れた土壌なのですが、アガベはそんな悪条件をモノともせずにすくすく育ちます。

ただこのアガベ、筋張っているため繊維や資材としては有用ですが、残念ながら食用には不向きでした。そんな

山ほどあるけど食べるには適さない、でも加熱すると甘い汁がとれる

というアガベが、お酒の原材料として使われるようになったのは、至極当然になりゆきだと言えます。


■ テキーラ=アガベは神様の恵み

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メキシコの大地にもたらされた神秘的な植物である「アガベ」。古代アステカ文明では「Mayahuel(マヤウェル)」という女神として祀られています。アガベから作られるお酒「テキーラ」を飲むことは、まさにメキシコの神様の恵みを飲むことに他ならないのです。


■ テキーラはちょっと特別なお酒

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これで、世界的にメジャーな様々なお酒の中で「テキーラ」が原産地メキシコでしか作れない「ちょっと特別なお酒」ということは理解して頂けたと思います。

もし今後テキーラを飲む機会があれば、メキシコでしか造ることができない貴重なお酒を日本で飲める幸せを感じながら、ゆっくり味わってみて下さい。

ちなみにテキーラの他に「メスカル」という、一言でいうと「テキーラの生き別れの兄」みたいな蒸留酒も最近になって世界中で人気を博しています。このふたつの似て非なるお酒の関係については、改めてじっくりと書きたいと思います。

よろしかったらサポートお願いします。といっても特に立派なことに使うわけではなく、すべてテキーラになるだけですが(^^;)