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カスカウィン・アニベルサリオ

カスカウィンが一昨年秋に満を持してリリースした限定ボトル、カスカウィン・アニベルサリオ。日本はおろか世界中を見渡しても、既に完売していて手に入らないこの貴重なボトルですが、実は日本向けの第二便が確保されていて、それがこの春に日本に入ってくるそうです。せっかくなのでこのファイナル・アニベルサリオ・チャンスの前に、改めてどんなテキーラなのかをご紹介してみたいと思います。

カスカウィンとは?

私のnoteをお読み頂いている方には、今更カスカウィンについてご説明する必要はないかもしれませんが、念のため簡単にご紹介しておきます。

カスカウィンとは、ハリスコ州エル・アレナルの街にある「カスカウィン蒸留所」で作られているハウスブランドのテキーラです。

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エル・アレナルは、テキーラの発祥の地であるテキーラ村と、ハリスコ州の州都グアダラハラの真ん中くらいにある小さな田舎街です。
その街を貫く国道15号線からちょっと入った街中の線路沿いに、カスカウィン蒸留所はあります。

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近年に至るまでカスカウィン蒸留所の全国的な知名度はそれほどでもなく、いわばオラが街エル・アレナルの美味い地テキーラといった存在でした。

しかし今ではメキシコ国内のみならず、テキーラ輸入大国アメリカでもひときわ高い評価を得ている注目の蒸留所のひとつとなりました。日本ではアジア人初のテキーラ職人として人気バラエティ番組のクレイジージャーニーで一躍脚光を浴びた景田哲夫さんが働く蒸留所としても知られています。

先ほどハウスブランドと書きましたが、テキーラ業界ではブランドの委託製造が広く普及しており、新たに蒸留所を作らなくとも誰でも自分のテキーラブランドを立ち上げることが可能です。最近話題になったイーロン・マスクの「テスラキーラ」や、エグザイルUSAさんの「ハッピーラ」なども委託製造によるテキーラです。

多くの蒸留所が出資者の委託を受けて複数のブランドを受託製造しているように、カスカウィン蒸留所でも「シエンブラ・バジェス」「レボルシオン」などを請け負っており、それらのブランドも高い評価を得ていますが、蒸留所の魂とも言えるハウスブランドのカスカウィンに対する評価はやはり別格です。

そんなカスカウィンが一昨年秋にリリースした限定のテキーラが、今回ご紹介するカスカウィン・アニベルサリオなのです。

アニベルサリオってどういう意味?


スペイン語で「周年記念日」「誕生日」などの意味を持つ「アニベルサリオ」という単語。英語なら「アニバーサリー」となります。では何を記念しているかというと

カスカウィン蒸留所の創設者の生誕100周年

を記念したテキーラになります。ここで勘のいい人は「あれ?」と思われたかもしれません。

先ほども書いた通り蒸留所の創業は1904年、一方で2019年が生誕100周年としたら、生まれたのは1919年ということになり1904年にはまだ生まれてないじゃねーかと。

そこでよく調べてみたところ、蒸留所自体の設立は1904年なのですが、それをサルバドール・ロサレス・ブリセーニョ氏が1955年に引き継いでカスカウィン蒸留所の名前でテキーラの製造を始めたのだそうです。そのブリセーニョ氏の誕生日が1919年なので、2019年がちょうど100周年にあたる訳です。

アニベルサリオへとつながる転機


先ほども書きましたが、カスカウィンは古くから続く田舎町の小さな蒸留所でした。派手な宣伝で販売を拡大することもなく、機械化による大量生産の道を選ぶでもなく、テキーラ蒸留所としてはありふれた一般的な手法、しかし今では多くの蒸留所が失ってしまった伝統的な手法を頑なに守りながら、昔ながらのテキーラを造り続けてきました。

そのカスカウィン蒸留所が革新へ大きく舵を切る転機となったのは、デイビッド・G・スーロ氏との共同プロジェクトであるシエンブラ・バジェスだったと私は睨んでいます。

一般的に委託によるテキーラの製造は、委託側が資金を提供して、その資金に応じたオーダーに沿って、蒸留所の人が既存施設を使って製造します。しかし、より伝統的な製造手法に注目していたスーロ氏は、蒸留所内に新たな設備を作ることを提案したのです。これは委託によるテキーラ製造においては極めて珍しい取り組みです。

シエンブラ・バジェスがもたらした伝統への回帰


テキーラの原材料であるアガベアスルの球茎(ピニャ)に含まれるイヌリンなどの糖質は、そのままでは発酵には適さないため、事前に加熱調理などで発酵に適した糖質へと転換する必要があります。テキーラの製造においては一般的には金属製の圧力釜(アウトクラベ)レンガ窯(マンポステラ)を用いて蒸気で加熱調理することで糖化を行います。

一方でテキーラと同じルーツを持つメスカルではアーサンピットと呼ばれる地面に掘った穴で蒸し焼きにする手法が一般的で、テキーラも昔は同じように作られていました。この手法を使うとアガベのピニャには煙による薫香がついて、最終生産品である蒸留酒にもその薫香が色濃く残ります。一般的にメスカルがスモーキーと評されるのはこのためです。スーロ氏は昔存在したであろうスモーキーなテキーラを造るため、このより古典的な製造手法を選択したいと考えました。

また糖化したアガベの搾汁はハンドクラッシュピットで杵を使ってすり潰す方法、発酵は大きな上面開放式の木桶、蒸留はより古典的なフィリピン式蒸留器と、1本のテキーラを造るために、より古典的な設備をすべて新設しました。

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左からアーサンピット、ハンドクラッシュピット、木桶の発酵槽


そうして生まれたのがクレイジージャーニーでも紹介されたシエンブラ・バジェス・アンセストラルでした。アンセストラルとは古代的なという意味です。

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シエンブラ・バジェスからカスカウィン・タオナへ


シエンブラ・バジェスへの取り組みにより、ビジネス目線の先進的な革新ではない、原点回帰ともいえる革新へと歩みを進めたカスカウィン蒸留所は、2018年にタオナを新設しました。タオナとは数トンもある火山岩から切り出したローラーでアガベをすり潰して搾汁を行う設備のこと。

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現在150箇所近くあるテキーラ蒸留所の中でも、10箇所ほどでしか採用されていない、失われつつある古典的な設備です。

タオナによる搾汁は、アガベの繊維を切り刻まないことで余分な雑味が出ない反面、50%前後と言われる搾汁効率の低さのため、多くの蒸留所がその使用をやめてシュレッダーに切り替えてきました(ちなみにシュレッダーの搾汁効率は70%前後)。そして新設したタオナで製造されたのがカスカウィン・タオナなのです。

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スモーキーで豊潤なシエンブラ・バジェス・アンセストラルの登場によって一躍アメリカで注目の的となったカスカウィン蒸留所は、このカスカウィン・タオナや、限定品であるカスカウィン・エクストラアネホ・フレンチオークフィニッシュなど、テキーラ本来の魅力に溢れつつ新しい表現をもったテキーラの新作を次々とリリースすることで、その評価をぐんぐん上げていきました。

そして2019年秋にカスカウィンとしては2本目となる限定品カスカウィン・アニベルサリオがリリースされたのです。

アニベルサリオとはどんなテキーラなのか?


一言で言うと
カスカウィン蒸留所の伝統と革新のすべてが詰まった全部盛りテキーラ
が、このカスカウィン・アニベルサリオなのです。
各製造工程で、これまで培ってきた製造技術を惜しみなく投入しています。

調理:アーサンピット(アンセストラル)

搾汁:タオナ(カスカウィン・タオナ)

発酵:木桶(アンセストラル)とセメント槽(カスカウィン他)を併用

蒸留:ステンレス&銅コイル2000L→銅製350L(プラタ他)

熟成:ガラフォン(シエンブラ・バジェス・ハイプルーフ・ブランコ)

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350Lの銅製蒸留器とガラフォン(瓶)。ガラフォンで6ヶ月熟成させることで酒質の安定を図ります。


ここで初めて登場したシエンブラ・バジェス・ハイプルーフ・ブランコというテキーラですが、これはシエンブラ・バジェスにおけるカスカウィン・プラタのような存在で、シエンブラ・バジェス・ブランコをほぼ無加水のアルコール度数46%で楽しめる濃厚な逸品です。最近、搾汁方法をシュレッダーからタオナに変更した最新ロットが発売されたばかりです。ちなみにカスカウィンとシエンブラ・バジェスだけでも、現在これだけのブランコがあります。

・カスカウィン
 ブランコ(38%/87点)
 タオナ(42%/91点)
 プラタ(48%/90点)
 アニベルサリオ(46%/91点)※限定品

・シエンブラ・バジェス
 ブランコ(40%/85点)
 ハイプルーフ・ブランコ(46%/91点)
 アンセストラル(50%/85点)

 ※()内の数字はアルコール度数とテキーラ評価サイトのスコア

これだけ高評価の、しかも繊細な表現の違いで作り分けられたブランコが取り揃えられている蒸留所は、テキーラ界隈を見渡してもカスカウィンだけと断言できます。カスカウィンで造っている熟成されたテキーラももちろん美味いし、ブランコに負けず劣らず高評価なのですが、カスカウィン蒸留所が多くのテキーラファンを虜にする最大の要因は、テキーラの原点ともいえるブランコへのこだわりではないかと私は思います。

なお現時点でテキーラ道場ではこれらすべてを飲み比べることができます。

ちょっと話が脱線しましたが、話をアニベルサリオに戻します。

どうして今このnoteを書いたのか?


私の長い話をここまで読んで頂いた方は、カスカウィン・アニベルサリオがいかに特別なテキーラであるか、お分かり頂けたと思います。そのアニベルサリオの最終在庫が、今日本に向けて海を渡っています。これは世界中(ぶっちゃけると主にアメリカですがw)のテキーラファンがよだれを垂らして羨ましがる案件です。

テキーラ評価サイトであるテキーラマッチメーカーにおいて30評価以上で91点以上をマークしているブランコテキーラは8本しかありません。そのうちの3本がカスカウィン蒸留所のテキーラであり、アニベルサリオもそのうちの1本なのです。

カスカウィンの伝統と革新の粋を集めたこのアニベルサリオ。カスカウィンの歴史を偲びながら、カスカウィンの未来を思いを馳せつつ飲むに相応しいこのテキーラが、ひとりでも多くの一般消費者の手に渡ってほしいのです。

これは限定品です、貴重品です、故にお値段も安くはありません。結果、少なくない本数が転売屋の手に渡ることは止められないでしょう。実際、最初のロットは3万円なんて法外な値段でオークションに出品されていました。これは本当に悲しい事実です。

それが今ならまだ定価で買うことができます。テキーラは幸いなことにウイスキーなどと違って市場がそれほど大きくないため、転売屋もそれほど動きがよくありません。買うなら今のうちなのです。

そしてなにより、その購買行動は実直にテキーラを造り続けるカスカウィン蒸留所へのエールとなるのです。

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これを読んでアニベルサリオを買おうと思った方へ


今回このnoteにどれくらい反響があるかちょっと気になったので、輸入元の株式会社FIDEAさんにお願いして「テキーラ道場のnoteを見た」と備考欄に書いてくれた方には、テキーラおぼれ梅をおまけにつけて頂けることになりました。カスカウィン梅酒に漬け込まれた梅という、日本のテキーラファンしか味わうのできない珍味です。

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ちなみに、うちで輸入するテキーラは順調に遅れており(苦笑)、早くても3月23日、恐らく4月23日リリースになるので、安心して財布の紐を緩めて下さって大丈夫です(笑)。

追記:カスカウィン・アニベルサリオの予約販売サイトはこちらになります。

http://el-mexico.net/?pid=148975559

よろしかったらサポートお願いします。といっても特に立派なことに使うわけではなく、すべてテキーラになるだけですが(^^;)