YouTubeのライブ配信にて三題噺を即興で書きました 第115回『悲壮感 大阪人 パート』

YouTubeで行った
ライブ配信にて三題噺を即興で書きました 第115回『悲壮感 大阪人 パート』
の完成テキストです。
お題はガチャで決めました。
お題は太字にしてます。
所要時間は約1時間13分でした。
詳しくは動画もご覧いただけたら幸いです。↓

↓使用させていただいたサイト↓
ランダム単語ガチャ
https://tango-gacha.com/

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大阪の大学に合格した私は、春から一人暮らしを始めた。
今まで東京の実家で暮らしていたので、新しい生活は何もかもが新鮮であり、また大変であった。
一番大変だったのは、スーパーのバイトだった。
バイトは高校生のときからやっていた。
しかしここでは一緒に働く人たちもお客さんもほぼ全員が大阪の人だった。
みんな話す言葉は大阪弁であり、さらに早口でまくしたてるので、私はなかなか理解が追い付かなかった。
お客さんは売り場の位置について聞いているだけなのに、ずっと東京で育ってきた私には怒られているのかと錯覚してしまうときもあった。
大学には地方から来た人の方が多いくらいなので、この職場は私にとって大阪そのものだった。
そうは言ってもスーパーの人はもちろん、お客さんもみんないい人たちばかりだ。
夜にお米だけ炊いてスーパーのお惣菜──パックにはもちろん値引きシールが貼られてある──を食べながら、私はこの人たちともっと仲良くなりたいと思った。
ネットで調べてみると、大阪人は面白いと言われるのがなによりの誉め言葉だと書いてあるのを発見した。
そう言えばスーパーの人たちもお客さんもみんな笑いながら話しかけてくるし、用事だけ伝えるのではなく必ず何か冗談も交えていた。
私は今までそれを単に笑っていただけのような気がする。
これからはこの誉め言葉を使ってもっと距離を縮めようと思った。

「わはは、姉ちゃんわかってるな。また買いに来るわ。」
面白いという言葉の効果は絶大だった。
お話のあとに面白いですねと言うと、だれもがご機嫌だった。
東京ではここまで喜ぶ反応は得られなかっただろう。
やはり、大阪は笑いを大事にしているんだなと思った。
大阪の人たちというものがわかってきてバイトが楽しくなってきた私は、休憩に入った。
休憩室には今からパートに入ろうとしている吉永さんという人がいた。
この人も大阪の人だが、私がここのスーパーでバイトを始めた日からとても良くしてくれている人だ。
吉永さんは私を見ると駆け寄ってきた。
「なっちゃん。さっきの仕事ぶり見てたわよ。大阪の人たちの扱い、わかってきたじゃない。」
どうやら先ほどのお客さんとのやり取りを吉永さんに見られたらしい。
私は仲良くなるための秘策を見抜かれたようで恥ずかしかったが、吉永さんはまるで実の母のように喜んでくれているのがわかった。
「よかったわー。なっちゃん最初来たとき、大阪になじめていないようで心配していたのよ。本当、悪いこともあればいいこともあるのね。」
「悪いことってどういうことですか?」
吉永さんは先ほどの明るい雰囲気とは打って変わって訥々と話し始めたので、私は聞いてはいけないことなのかと思った。
「おばさんね、昨日の夜、旦那が浮気してる証拠を掴んじゃったの。」
吉永さんの夫と言えば、しょっちゅう話に出てきたので、今ではどんな人物なのか会ったこともないのにありありとイメージできるくらいだ。
吉永さんが夫について話すときはとても楽しそうで、とても仲睦まじいご夫婦なんだろうなと思っていたので、私は浮気という言葉に口をつぐんだ。
実際あんなに明るい吉永さんがとても落ち込んでいた。
だから私は吉永さんを見るのがつらかった。
しかし私は気付いてしまった。
吉永さんは溜め息をしてうなだれながらも、目ははっきりと私を見ている。
そしてその瞳は燃えていた。
私は動揺を隠せなかった。
私の目は泳いでいたと思う。
吉永さんも私の動揺ぶりは明確に認識できていただろう。
しかし彼女は私から目を離さなかった。
来い、ということなのか!?
私は唇を震わせながら、あの誉め言葉を言った。
「あんなに仲良かった旦那さんから浮気されてたなんて、面白いですね。」
少しの間沈黙が流れた。
本当に言ってよかったのだろうかと私が後悔し始めた瞬間、吉永さんはゆっくりと顔を上げて言った。
「そうやろ?」
その姿には悲壮感があったが、顔はちゃんと笑っていた。
浮気されてなお笑いを忘れない。
私は吉永さんの中に大阪人の魂を見た。

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~感想~
大阪人という言葉が差別用語っぽく聞こえないようにいいところを話の軸に使おうと思い、
検索すると面白いが誉め言葉と書いてあったのでそれを使うことしました。
だから語り手が検索したサイトは私が見たものと同じものでしょう(笑)。

そしてもう一つのお題の悲壮感は面白いと対極的な言葉なので、悲壮感のある姿にどうすれば面白いと言わせるシチュエーションになるかを考えて話を作りました。

配信を始めてから私用でバタバタしたり、イマイチどういう構成を取っていけばいいかもわからず、時間がかかってしまいました。

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