ガチャで三題噺を書く 第31話『永久保存 ピリオド 短歌』

youtubeで行った
ガチャで三題噺を書く 第31話『永久保存 ピリオド 短歌』
の完成テキストです。
お題は太字にしてます。
所要時間は約58分でした。
詳しくは動画もご覧いただけると幸いです。↓

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「私、短歌を始めたの。」
清羅に向かって十和子は言った。
十和子と清羅は同じ大学の文芸サークルの仲間だった。
卒業し就職してからもこうしてお互いの家でお茶をする関係は続いていた。
「そうなの。」
清羅には気の利かない短い返事しかできなかった。
十和子が大学時代から好んでいたのは児童文学であり、自身もときおり子供向けの物語を書いて同人誌として寄稿もしていた。
十和子は文学が好きであり、子供も好きだった。
その十和子が短歌を始めたということは彼女が子供のための物語から離れたということであり、清羅は思わず戸棚の上にある十和子と夫の写真に視線を向けてしまった。
その視線に気づいたのか十和子は話を続けた。
短歌と言っても本当何気ないことをつらつらっと書いているだけよ。どうでもいいことをぽろっと隣の人につぶやく感じよ。短歌は一瞬の気持ちが31文字の中に永久保存されて、それでいて句点もピリオドもないから、まるで昨日今日明日と続く毎日のようで。いつまでもうじうじはしてられないからさ、うん、そう、短歌を詠んでいると彼がまだ生きていて同じ時間を共有しているように感じられるの。」
清羅は最初の一報を受けたときの半狂乱のように泣き叫ぶ十和子を思い出した。
あのとき十和子は夫を追いかけて自殺してしまうんじゃないかと、清羅は本気で心配したほどだった。
だが今はようやく気持ちの整理もつき、少しづつ前に進んでいるようだ。
この調子なら十和子はいずれ児童文学を書くための筆を再び執るだろう。清羅は十和子が詠んだ短歌を見せてもらうと、どの歌も日々のささやかな喜びや驚きがつづられていた。
その巧拙はわからないものの、そこにはほほえみを浮かべながら詠む十和子の姿が想像された。
清羅が声に出して詠むと十和子はやめてよーと恥ずかしがり、テーブルをはさんではしゃぐ二人はまるで大学時代のようだった。

十和子の家から帰るあいだ、清羅がずっと考えていたのは永久保存のことだった。
清羅は電車のドアに頭をよせながら自分の浅ましさを恥じていた。
「私はてっきり自分にもチャンスが回ってくるんじゃないかと思っていた。」
だが十和子は今も夫を愛し、その気持ちを短歌の中に託している。
二人の生活は今だピリオドを打つことなく31文字の中で毎日送られているのだ。
清羅はそこに自分が入る隙などないことを痛感した。
十和子とはこれからも良き茶飲み友達でいよう。
大学生のときに始まった十和子への想いは今こそ自分の中に永久保存するべきなのだと清羅は悟った。

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~感想~
起承転結が薄いです。
多分お題をすべて設定として使ってしまったからだと思います。
永久保存を科学やSFの文脈で使いたくない一心で考えました。
「永遠に閉じ込める」みたいな言い方に変えた方がキャラクターは会話として自然だったのでしょうが、お題のまま永久保存で行きました。とりあえずお題を前半にとっとと出して、後半にもう一度出すという構成を狙いました。


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