もういいよ
まだ学生だった二千年頃、下北沢の駅前で泣いている娘を見かけた。「どうしたの」などと訊くような勇気も興味もなく、なんとなく眺めながらタバコを一本吸って、待ち合わせの喫茶店へと向かった。遅れちまう。
深夜でもコーヒーが飲めると当時では割と貴重な存在だったブーフーウーでは松本さんがカレーを食べていた。コーヒーの後で。
「待ちましたか」
「ううん、全然」と松本さんは返したが、目の前にはタバコの吸殻が最低でも5本はあった。ま、それでもチェーンスモーカーの松本さんのペースで行くと30分ほどといったところか。
「元気?」
「はい」
「彼女とはうまくいってる?」
「最近別れました」
「あ、本当」
と興味のないような返事をして松本さんはカレーを口にした。煮込みすぎか元々入っていないのかルーだけで具が見えない。確か五百円だからしょうがないといえばしょうがないが。
「これまでも別れて戻ってを繰り返してきたんですけど」
「また戻るの?」
「いや、今度は本気です。もう無理だなって思いました」
「何が?」
「覚せい剤をやってたんです」
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?