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バレーボールコーチの私が、野球選手をサポートしている話🏐⚾

関東の大学野球でピッチャーとして活躍している大学生選手のサポートをやっています。内容は、技術的なものからメンタルやモチベーションに関することまで幅広く対話しています。東京と札幌という地理要因から現地で会うことはなかなかできず、オンラインでのセッションを年間複数回やっています。スポーツメンタルコーチのメソッドを意識して関わっています。
バレーボールコーチをやっている自分にとっては、いろんな気付きや発見があり、レポートしてみます。


バレーボールコーチである私にできることとは

私は、野球のプレー経験もなければ指導経験もありません。テレビや球場の野球観戦は好きですが、野球の専門知識がない野球素人の私が、メディアや解説者などから聞こえてくる断片的な情報だけに頼ったアドバイスをするわけにはいきません

そこで、今回相談を受けたことを契機に、以下の点については意識して関わろうと考えました。

(1)本人が思っていることを、余すことなく聞き切る。本人が満足できるくらい語り切らせる。
(2)本人の語る、思いや感じ方、漠然とした悩みなどの「解像度」を上げるよう、やんわりとした質問を返しながら対話を積み重ねる。時には視覚化の作業を入れる。
(3)本人の「自己対話」が深まり、教えてもらうのではなく、自分で答えを探して見つけ、自己決定できるようにする。
(4)コーチ側の主観や見解は極力伝えない。伝えるのは、本人の自己対話の視点や考察の切り口、解像度を上げるための深堀りするための問い返しなどを行う。
(5)本人が語ることや価値観、感じ方や考えは否定しない。評価も伝えない。必ず、本人のありのままを現状として受け止める。
(6)本人の思考や自己対話がアップデートできるようなトピックや情報や知識があれば紹介する。ただし、指示や答えを与えるものではない。

違う種目の関わりで、私が学んだこと

日常バレーボールコーチをしていると、気を付けていても、自分が持ち合わせているバレーボールの知識や情報が、選手やチームの観察の足かせとなる時がしばしばあります。例えば、「評価」や「指摘」、「特定・断定」などです。
例えば、オーバーハンドのハンドリングでキャッチの傾向が著しければ、「もっと突いて」、「もっと弾くように」、「手首を固めて」・・・と言語化して伝えるわけですが、バレーボールにおいてでさえ、その言語化が有効とは限りません。

違う種目の選手のサポートにおける実際の関わり方

そうなれば、専門外である野球であればなさら、コーチ役となる私からは、技術的なことや知識的なフィードバックはできるはずがありません。そうなると、私にできることは、「選手自身の自己対話と試行錯誤を充実させる」ことへのお手伝いをするしかないと思ったわけです。技術的な話題については、例えば以下のような質問で対話していきます。

(1)(本人自身が)何に課題や困り感、改善したい点を考えているのか。
(2)そう思っているのはなぜか。その理由。
(3)それが改善されると、どんなことが期待できるのか。どんなメリットがあるのか。
(4)その課題について、自分が取り組んでいること。取り組んでいる理由。
(5)課題の解決の姿や現状の自分を数値化で自己評価してみる。
(6)自己評価から「1点アップ」(小さな進歩)を目指すとしたら、何ができるようになっていればいいいか。その理由。
(7)エアーでイメージ通りに再現してみる。同時に現状の違和感や課題点も再現してみる。それらを比較しアウトプットしてみる。
(8)対話の振り返りの時間を確保する。

技術以外の対話をすることも珍しくありません。取り組む意欲などのモチベーションや本番でのゾーンやフロー状態になるためのメンタル的な話題です。

(1)今回の相談内容、相談の目的、動機など。
(2)その内容で相談したい理由。
(3)その内容を解決した時に得られることや回避できること、解決できない時に自分に起きることをそれぞれ並べてみる。
(4)重要度と時間軸を考えてみる。
(5)その競技の中で自分はどうありたいか?を考えてみる。
(6)今の自分の気持ちを何でもいいからアウトプットしてみる。余すことなく語ってもらう。
(7)対話の振り返りの時間を確保する。

バレーボールの世界に身を置く自分にはまったく分からない野球の世界だからこそ、私は、すべての事柄や選手が発する言葉の内容に対して、興味や関心しかないわけです。「それはどういうことかな?」、「その言葉もう少し詳しく教えて」、「それ面白いねぇ、もっと教えてくれない?」・・・そうやっていくうちに、選手本人は、相談当初求めていた方向性とまったく違う結論にたどり着いたりするから面白いものです。

何よりもコーチである自分が学んだ

バレーボールコーチである私が、野球選手である大学生と野球についてのサポートをしていると、

・直接的かつ専門的なアドバイスや指示を与えなくても、選手は変化や成長をしていく。

・「フラット」な対話の重要性。コーチは選手よりも上に立ってしまうと、選手の自己対話ができなくなる。コーチは、選手と対等または背中側から見守るイメージの立ち位置で、自己対話のファシリテーターというイメージ。

・選手を焦らせない、急がせない。コーチが何とか改善させてやりたいという強い思いから、過剰に指摘や提案をするのは、かえってマイナス効果。

・選手の思考が偏っている場合もあり、自己対話が行き詰ることもよくある。そういう場合は、選手の現状や思考を否定せず、時間を区切って、別の視点で自己対話を仕向け、それ以前の自分と比較してもらう。

・選手本人による言語化を、紙やホワイトボードに書き出して、視覚化する。それをもとに対話を進める。

以上のような関わり方は、別にプレーヤー経験がなくとも、指導経験がなくとも、他競技・異種目であっても、選手にアプローチができるということが改めて明らかになりました。

と同時に、自分が携わっているバレーボールコーチとしての選手との関わりを振り返ると、思っている以上に余計な言語情報を与え続けていたり、コーチをしている自分自身のメンタルに余計な焦りや苛立ちなどストレスフルな状況に自ら置いてしまっていることに気付かされます。

「言った通りになるようにやらせる」のは指導とは言えないのではないか?

自分がまったくイメージも感覚、経験も持ち合わせていない異種目の野球のことについて、「ああした方がいい」、「これをやるといい」などという助言や指示などを出せるはずがありません。
しかし、「そうじゃない関わり方」をしても、選手自身が何かに気付いたり、何かを思い付いたり、気持ちが切り替わることがあり、それによって取り組み方やパフォーマンス、心待ちやモチベーションが変わることができるわけです。

近年、スポーツの中では「指導」⇒「コーチング」、「指導者」⇒「コーチ」という表現に変わってきています。

常に、指摘や指示、評価判断を下すようなスタイルは、残念ながら「指導」の域にとどまっていて、選手の主体性を引き出しているとは言い難いのではないかと思います。
選手との対話を積み重ねながら、選手自身による「自己対話」や「試行錯誤」が促進され、その中で自発的な気付きや変容が生まれてくるように、質問や環境設定の提案をしていく。あえて言うところの「指導者」が言ったこと通りのこと終始やらせ、それができなければミスや失敗として指摘や叱責する。これでは、選手の自己開発が進まないことになります。そこには主体性も内発的なモチベーションも生まれにくいわけです。

セッションしている大学野球選手の感想


<暗黙知と形式知>
自分は体の仕組みや投球動作に活かせる体の使い方などを勉強したり、人から知識を得たりするのが好きで、そこからヒントを得て自分の上達に繋げようとしていましたが、なかなか思うようなパフォーマンスが出せず結果にも繋がりませんでした。そんな時(TETSUに)に、「形式知」と「暗黙知」について教えていただきました。
形式知とは、言語化や数値化ができる知識や情報のことです。暗黙知はその逆で、自分の中にだけある言語化できない感覚的なもののことです。元々自分はここでいう形式知から知識を得てうまくなろうとしていました。しかし(TETSU)に、「形式知と暗黙知はバランスが大事だ」と教えてもらい、そこからはとにかく暗黙知に意識をおいて、投球フォームなど状態よりも自分の感覚と相談しながら練習するようになりました。そして自分の中の感覚が良くなってきたので映像で動作を確認してみると、結果的に求めてきたフォームができるようになっていました。どのスポーツでも監督やコーチは自身の暗黙知を押し付けたり形式知だけを詰め込んだりする人もいます。さらに現代はさまざまな知識をネットを通じて発信したり学んだりできるようになっていますが、そういう時代だからこそ誰にも教われない自分だけの感覚を大事にしなければいけないと感じました。

<野球を辞めたいと電話した時>
自分は昨年夏に、(TETSUに)野球を辞めたいという話をしました。他の誰に話しても、まだ早いとか勿体無いとかそんな意見ばかりでうんざりしていました。しかし(TETSUは)「じゃあやめたらこんな道もあるし、こんな生き方もできるぞ。」というように野球を辞めた後の未来について一緒に考えてくれました。自分はそこで初めて本当の意味で野球を辞めた後の現実を考えることになりました。そして絶対に他の道は楽しくない、進みたくないと思いました。実はこの会話で、自分は無意識に野球を辞めた時のメリットとデメリット、続けた時のメリットとデメリットを天秤にかけていました。そして野球をやめるべきではないという結論を出すことができました。後に(TETSUは)「何か迷ったときは具体的にそれぞれのメリットとデメリットを出していくと冷静な判断ができる。」という話をしてくれました。この方法はこれから先大事な判断を迫られた時に絶対に活かすことができると思い、新たな学びになりました。そしてこの判断をさせてくれたことに本当に感謝しています。

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