高等学校が「2.2%」な理由

 前回、文部科学省(2022)の「通常学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」に関する解説を行いました。その中で高校については詳しく述べなかったので、改めて高校に関する調査結果についてまとめたいと思います。
 今回の調査で高等学校の通常学級に在籍する「特別な教育的支援を必要とする生徒」の割合は「2.2%」という結果が示されました。多くの方がこの数値は氷山の一角であり、「実際にはもっと多くの生徒が特別な教育的支援を必要としている」と感じられるのではないかと思います。私もそのような印象をもっていますが、なぜ高等学校では小中学校に比べて低い数値に留まっているのでしょうか。

高校での理解は以前に比べて拡がっているのか

 高等学校の調査は今回が初めてなので経年比較をすることができないのですが、参考として文部科学省が2009年に行った「特別支援教育の推進に関する調査研究協力者会議:高等学校ワーキング・グループ」の報告があります。平成21年3月の時点で中学校で特別支援教育の対象になっていた生徒の卒業後の進路から推定(中学校3年生のうち、発達障害等困難のある生徒の割合は約2.9%であり、そのうち約75.7%が高等学校に進学するとして計算したもの)したもので、高等学校全体で約2.2%という結果でした。偶然にも2つの調査結果はどちらも2.2%という結果ですので、変化していないように見えます。

 ちょっと乱暴なやり方ですが、今回の調査結果で中学校3年生で示された「学習面又は行動面で著しい困難を示す生徒」の割合4.2%を、2009年で行った「75.7%が高等学校へ進学」という推定で置き換えると、約3.2%という数値になりますので、約1ポイントの差が生じてきます。
 しかし、特別な支援が必要な生徒はそれだけではありません。中学校段階で特別支援学級に在籍していた生徒を数える必要があります。中学校段階の特別支援学級在籍率は2.8%(R3年度)で、このうち54%が高校等へ進学しています(令和3年度特別支援教育資料より)。おそらく自閉症・情緒障害特別支援学級に在籍していた生徒のかなり多くが高校に進学します。したがって2.8%×54%=約1.5% の生徒が高校に在籍しているはずなので、先ほどの3.2%と合計すると4.7%になります。

 まとめると、中学校段階からの推測では4.7%ですが高校の担任教員からの評価では2.2%と約2.5ポイントの差があることになります。つまり中学校では特別支援の必要とされた生徒の半分以上が、高校では特別支援の対象から外れてしまっていることになります。

なぜ開きが生じるのか

 この調査の質問項目は既存の尺度であるLDI-R(LD診断のための調査票)、ADHD評価スケール及びASSQ(高機能自閉症に関するスクリーニング質問紙)を基に構成されています。3つの検査のうち、LDI-Rは対象が小学1年〜中学3年、ASSQは7歳から16歳をターゲットに開発されたものです(ADHD評価スケールは5〜18歳)。したがって年長になるほど感度が低くなり、16〜18歳の高校生を評価すると得点が低くなってしまう可能性があります。実際に小中学校でも小学2年生をピークに学年が進行すると割合が低くなるは項目の影響が大きいと思います。
 また対象年齢が高校生をカバーしているADHD評価スケールについても、実際の項目は小学生特に低学年向けのものが多く含まれています。たとえば「教室や、その他、座っていることを要求される状況で席を離れる」や「不適切な状況で、余計に走り回ったり高いところへ上がったりする」などは多動性ー衝動性に関する質問項目ですが、中学生以上では多動・衝動的行動が離席行動や走り回る・高い所に上がるなどの直接的な行動で示されることは少なく、本人の内的な落ち着きのなさや発言などに留まることが多いです。
 したがって質問項目を高校生を主ターゲットにしたものに変えれば、より多くの生徒がピックアップされると思われます。たとえば「列で並んで待つことが苦手」「後から取り消してしまうようなことを口にしてしまう」など、16歳以上の発達障害者が示しやすい項目を導入することが考えられるでしょう。ただし、小学校や中学校との連続性を考える必要もあるため、高校だけ独自の項目にすることは難しい側面もあります。

入試を経て学力水準が揃い目立ちにくくなっている可能性

 基本的に校区内の全ての子どもを受け入れる公立小中学校と違い、高校は希望する学校を選択し入試によって選抜されるため、学力水準や行動特性がある程度揃ってきます。そのため中学校では学習面や行動面のつまずきが目立っていた生徒が、高校では目立たなくなるということがあるかもしれません。
 また高校では担任教員の生徒との関わりが違ってきます。子どもたちの生活面もつぶさに観察して指導する小学校に比べると、生徒の自主性を重んじて任せることが多くなりますので、生徒が抱える困り感に気づきにくくなっている可能性があります。

私立学校と通信制が対象外

 さらに今回の高等学校の調査対象は「公立の全日制・定時制」に限られます。しかしながら定時制高校は在籍者数ベースで全体の2.4%(令和3年度のデータ、全日制:91.3%、通信制:6.3%)ですので、今回の調査では全日制の中に埋没してしまっています。 2009年の報告では課程別の推定値も示されており全日制で1.8%、定時制で14.1%と大きな開きがあったため、今回の調査も課程別に集計すれば大きな開きがあったと推測されます。

 加えて在籍者ベースで高校の3分の1を占める私立高校は対象ではなく、さらに通信制高校は調査されてません。私立学校は公立とは異なり独自の教育理念を打ち出すところが多いので、公立の雰囲気に馴染めない生徒が進学先として選ぶことも多いと思います。また中学校段階で不登校など不適応状態を示した生徒が、通信制を選択することも多いため、私立高校や通信制も調査対象に加えた場合、特別な支援を必要とする生徒の割合は増加する可能性が高いと思います。
 どの程度協力してくれるかはわかりませんが、実態を正確に把握するためには私立学校も含めたデータが欲しいところです。しかし通信制を対象にする場合、担任教員が生徒の様子を見て回答するという、本調査の手続きでは難しいでしょう。サポート校は把握していると思いますので、その辺りから実態調査が可能かもしれません。

支援の状況

 ここまでみてくると、「高校段階で特別支援が必要な生徒は2.2%」という今回の調査結果は、やはり氷山の一角であり、本当はもっと多い割合で支援を必要としている生徒が存在していると思われます。
 では調査の結果「特別な教育的支援が必要な生徒」と判断された生徒は、どのような支援や配慮を受けているのでしょう。

 支援の状況に関する設問では、いずれの項目も小中学校に比べて高校の割合の低さが目立ちます。

「校内委員会で特別な支援が必要と判断されている」・・・高校:20.3%、小中:28.7%
「現在、通級による指導を受けている」・・・高校:5.6%、小中:10.6%
「個別の教育支援計画を作成している」・・・高校:10.5%、小中:18.1%
「個別の指導計画を作成している」・・・高校:10.8%、小中:21.4%

 けして小中学校が高いわけではないのですが、高校は公的な支援・配慮が行われている割合がより低いことがわかります。
 前回の記事でも触れましたが、今回の調査で高校が加わった理由は平成30年度から高校における通級指導がスタートしたため、高校における状況調査を行う必要があるとの理由からです。しかしながら高校における通級指導はまだまだ拡がっておらず、各都道府県で取り組み方にも違いが大きいため解釈には注意する必要があります。
 今後、高校における通級による指導を拡充していくためには、通級指導が可能な高い専門性を有した高校教員を確保する必要があります。積極的な人材確保と育成を考えていかねばなりません。

 さらに小中学校との差が著しく大きいのは以下の項目です。

授業時間内に教室内で個別の配慮・支援を行っているか(特別支援教育支援員による支援を除く)(座席位置の配慮、コミュニケーション上の配慮、習熟度別学習における配慮、 個別の課題の工夫 等)」・・・高校:18.2%、小中:54.9%

「授業時間内に行う配慮」ですので、基本的な授業づくりや学級づくりと関係します。高校は小学校・中学校と違い単位制ですので、基準に達しない生徒は単位を認定せずに留年とするという選択肢が出てきます。したがって、提供される授業の質が一定水準担保されていれば、あとは成績は本人の能力や努力次第と考えられてしまいがちで、そのために授業内での個別配慮が行われていない可能性があります。
 高校の授業はアクティブラーニングの導入など改革も進んできましたが、進学校を中心に受験を念頭においたチョーク&トーク型の授業もまだまだ多いようです。そのため授業のユニバーサルデザインに関する実践も小学校・中学校に比べて進んでいないというのが実状です。

 今後の高校における特別な教育支援を必要とする生徒への支援や配慮を充実させるためには、通級による指導を拡充すると共に、通常の授業内での学習の困難を減らすための取組が必要です。そのための実践研究も積極的に取り組まれる必要があるでしょう。

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