「合理的配慮」の正しい理解のために②障害の「社会モデル」とは
合理的配慮は、2006年に国連総会で採択された「障害者の権利に関する条約(障害者権利条約)」に定められている障害のある人に対する配慮・支援の考え方です。日本では2016年4月に施行された「障害者差別解消法」に合理的配慮の提供が法的義務(施行時は民間事業者は努力義務でしたが現在では民間事業者を含め法的義務になっています)になったことで知れ渡るようになりました。
ここではこの合理的配慮の考え方のもとになっている「障害の社会モデル」について解説し、合理的配慮とは何かを考えたいと思います。
障害の社会モデルとは
前回解説した通り、1980年代まで主流だった障害の医学モデルには様々なデメリット・問題点があり、1990年代に入ると新たな障害モデルが提唱されるようになりました。特に医学モデルは、障害を「疾患・疾病→機能障害→能力障害→社会的不利」という一方向的な形でしか捉えていないこと、障害のネガティブな側面を強調し過ぎていることの反省から、障害を疾病・疾患をもとにした個人の特性と、その個人の周囲を取り巻く社会的な環境との相互作用の結果であると考える「社会モデル」が中心的な考えになっていきました。
例えば、「脳性まひ」という肢体不自由のあるAさんを想定します。Aさんが旅行に行きたい、と考えた場合に、実際に旅行に行くことができるかどうかは本人の能力だけでなく、周囲の環境や配慮・支援の有無によって左右されます。Aさんが四肢マヒで車イスによる移動しかできず車イスの操作もAさん一人ではできない、と状態であれば、公共交通機関を利用する通常の方法での旅行は困難です。もしAさんが片マヒで公共交通機関を使っての移動が可能であれば旅行に行くことができる、というように本人の障害の状態によって社会生活の困難さが変わってくるのは確かです。
しかし社会生活の困難さは、本人の障害の状態によって決まってくるわけではありません。具体的には車イスを利用せざるを得なくても、利用する駅にエレベーターやスロープなどが完備されていれば問題ありませんし、一人で移動することが無理でも介助サービスが利用できれば旅行は可能です。すなわち周囲の環境整備や配慮の有無によって社会生活への参加が左右されてしまう、ということの方が問題であると考えられます。
2000年代以降に主流になったICF
こうした周囲の環境や配慮の有無によって社会参加は変化するという社会モデルの考え方を取り入れ、WHO(2002)はICF(International Classification of Functioning, Disability and Health, 国際生活機能分類)を提唱しました。
ICFでは「疾患・疾病→機能障害・能力障害→社会的不利」というICIDH(国際障害分類)の概念を廃止しました。代わりに本人が持つ「心身機能・構造」と「活動」、そして「参加」は一方向的なものでなく双方向的な影響を受けること、またそれらは環境因子(物的環境、人的環境、社会的制度)と個人因子(年齢、性別、価値観、ライフスタイルなど)、そして健康状態(病気やケガ、妊娠、高齢)による影響を受けること、などを新たに示しました。
つまり「脳性マヒ」という疾患を抱えていたとしても、それによってイコールで社会活動が制限されるのではなく、周囲の人の配慮や環境整備によって社会活動に参加することができる、というように考えるのがICFひいては社会モデルの考え方なのです。
そのように考えると、障害とは個人の中に内在するのではなく、個人と社会の間に存在するものであるということができます。つまり障害は障害のある人が持っているものではなく、障害のある人を受け入れようとしない社会の側にある、といえます。
この社会モデルをもとにした「合理的配慮」とは一体何なのかについて、次回は解説したいと思います。
追記(2022/07/04)
ICFは社会モデルそのものではない、というご意見をいただきましたので,少し表現を修正しています。
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