「G.M.HOLIC(ゲームミュージック・ホリック)」第2話

―体育の授業でバスケットボールをしている風景

K「パス!」
I「あ、あ…」
ボールを受け止められずに落としてしまうI。Iは空腹でいつもよりも動きが鈍っていた。

―昼休み

I「あー、疲れたー」
K「I、今日調子悪いの?」
I「そんなことないけど…運動してお腹空いた」
I「ごはんとおみそ汁お願いします」
学食のおばさん「はいはい」
K「お、今日はごはんとみそ汁だね」
I「うん」
K「よし、Kさんがウィンナーも分けてあげよう」
I「え、いいの?(目を輝かせて)」
K「いいよ、いいよ」

―二人で学食を食べる
I「おいしい!」(感動して涙が出る)
K「不憫だね…」

今までの昼食はコッペパン1個だけだったが、Uの言葉でごはんとみそ汁に変わった。Kの粋な計らいでウィンナーも食べることができた。Iは久しぶりに贅沢な昼食にありつくことができ、幸福の味をかみしめた。

―ゲーム音楽研究部の部室

I「Uちゃーん、来たよー」
後ろからUに抱き着くI。
U「こらっ、離れなさい!」
I「今日も慎ましやかな胸ですねー」(Uの胸を触っている)
U「ちょっと、やめなさいよっ!」(ジト目でIを見る)
K「今日はどんな節約レシピを教えてくれるんですか?」
U「そうだネ、この前はごはんとおみそ汁の話をしたから…」
U「…じゃなくて!うちはゲーム音楽研究部」
K「わかってますよ」
I「でも、Uちゃんの話面白いんだもん」
U「…よし、じゃあ今日は1音で2音に見せかけるマジックを教えるよ」
U「名付けて、味変大作戦!」(Kがずっこける)
K「結局節約レシピじゃないですか!」
U「うん、ごはんが100円で食べられるのはわかったよネ。そのごはんを2つの味で楽しんじゃおう」
I「どうやって?」
U「味変するンだ。ふりかけで」
K「ふりかけ?」
I「そんなのあったっけ」
U「チッチッチ。学食にないなら、家から持ってくればいいンだよ」
I「え?」
U「ま、お店でやったらアレだケド、学食だから」
I「でも、うちビンボーだから、のりたまもない…ぐす」
K「私が持ってきてあげよっか?」
U「うん、それでもいいケド…Iちゃん、家にお塩とゴマはある?」
I「ああ、それなら家にあるけど…」
U「じゃあ、ごましおのふりかけが作れるね」
I「あっ、そっか!」
Uの思いがけないアイデアに、再び感心するI。
K「ごましおもふりかけですね」
U「ウン。ごはんをおみそ汁と一緒に食べながら、飽きたらごましおで味変」
I「そっかぁ。明日からやってみるね。ありがとうUちゃん」
K「今日は早いですね。じゃあ、帰ろっか、I」
U「ちっがーう!ここからが本題」
K「あ、やっぱり…?」

(パソコンに打ち込みの画面が映っている)
U「最初に1音を2音に見せかけるって言ったよネ。ここで味変をするンだ」
I「どうするの?」
U「1音で高い音と低い音を交互に鳴らすンだよ」
U「白飯とごましおを味変しながら交互に食べるって感じだネ」
K「うーん、イメージわかないなぁ」
U「実際にやってみればわかるよ」

(ベースの打ち込み画面が画面に映っている)
U「この前作った、ベースの音があるよネ。これと高い音を交互に鳴らすンだ」
I「どうすればいいの?」
U「ベースの音を鳴らした後に、高い音を鳴らす。つまり、ごましおで味変!」
(同じベースの音が置いてある画面に、高い音を置いてみる)
K「あっ、ベースと、もう一つ音が鳴ってるように聴こえます」
U「そー。これで3和音なのに、まるで4つ音が鳴ってるように聴こえるでしょ?」
I「スゴーイ!」
U「他の音も同じようにすれば、5つや6つ音が鳴ってるようにも聴こえるってワケ」
I「そっか、お昼ごはんに例えると…おみそ汁に七味唐辛子を入れる、みたいなこと?」
U「そーそー。七味は学食に置いてあるもンね」
I「節約ってパズルみたいで楽しいね」
K「涙ぐましいほどポジティブ…」
アイデア次第で、さらに自分の生活が豊かになる。ゲーム音楽の作り方をもっと学びたいというIの欲求は期待と共に膨らむ一方だった。

(部室のテーブルでクッキーを食べながら話をしている)
K「あの…この前もちょっと思ってたんですけど、もしかしてUさんって…」
I「お家がビンボーなの?」
U「ウン…実は。この部活に入ったのも、Iちゃんと同じ理由だったり」
K「えっ、そうだったんですか?」
U「ホントは軽音楽部をやりたかったンだけどね。ギターを買うお金がなくて…」
I「そうだったんだ。Uちゃんも大変なんだね…」
実はUの家庭も貧乏だった。Uと今の自分を重ねて親近感を抱きつつ、そうとは知らず、自分だけが不幸だと思い込んでいた自分が恥ずかしくなるI。
U「打ち込みなら、学校にあるパソコンを使えばイイじゃない?」
I「ギターをやってるUちゃんも見たかったなぁ…」
(ギターで演奏しているUを想像している)
I「へへへ…」(よだれをたらしながら妄想している)
U「ブレないね…」
K「何でも楽しんじゃうのがIの取り柄です」
I「あ、いいコト思い付いた!」
I「ほうきをギターの代わりにすればいいんだよ」
U「え?」
I「Uちゃん、ほうきをギターみたいに持ってみて」
U「ああ、まあいいケド…」
(ほうきをギター代わりに持つU)
I「さまになってる!ロックだよ、Uちゃん!」
U「そ、そー?」
K「これも節約ですね…」
ほうきがギターの代わりになる、まるで小学生のごっこ遊びのようだが、これが今のIの最大限のアイデアだった。UはIが柔軟に今の自分の境遇をとらえられるようになりつつあることを内心微笑ましく感じていた。

次衛「節約しない手もあるよ」
I「へ?」
次衛「俺はめちゃくちゃバイトしてギターを買った!(どや顔)」
K「ギタリストなんですか?」
次衛がギターを演奏する姿を妄想し、少し頬を赤らめるK。
K「でも、何でこの部活にいるんですか?」
次衛「もちろん、それはゲーム音楽を愛しているからだよ!!」(熱くるしく)
次衛の家庭もあまり裕福ではないが、単純に頑張ってアルバイトをして、ギターを買った。それでも次衛がゲーム音楽研究部にいるのは、ひとえにロックよりもゲーム音楽をこよなく愛しているからだった。
K「へぇ~…」(冷や汗をかいている)
U「あー、次衛くんはそうだったネ。ファミコンで言うと拡張音源を使う考え方」
I「カクチョー…?何?」
U「ファミコンのカセットのほうに音を鳴らすチップを埋め込むやり方」
K「チップ…?」
U「ファミコンって、ゲーム機の中の音を鳴らすチップをカートリッジの方にも入れれば、3和音以上鳴らすことができるンだ」
K「何だかよくわかんないけど、スゴそうですね」
U「お小遣いがないなら、バイトして稼ぐとか、ねだって増やしてもらおうってゆー…」
I「それこの前の私だ。お母さんにお小遣い増やしてってねだったもん」
U「それも正解なンだよ。でも、バイトでお金稼ぐのってスゴく大変だし、お小遣いを増やしてもらえるかどうかもわからないじゃない?」
K「私もバイトしたくないなぁ~」
I「やっぱり、お母さんにねだってみようかな…」
U「ま、それでもいいンだケドね」
U「ファミコンのカートリッジって、容量がものすごく少ないンだ。昔は、その中にゲームのプログラムとかグラフィックを詰め込まなきゃいけなかったンだよ」
I「私と同じでビンボーだったってコト?」
(Iがクッキーを取る。クッキーが残り少なくなっていく)
U「ま、そーゆーコトになるネ(苦笑)」
U「音楽に容量を使わせて~って頼んでも、それがゲーム会社の開発チームの中で通るかどうかは、ビミョー」
I「そっか…お母さんの家計の都合もあるもんね」
U「そー。お金がないなら作ってもいいンだけど、それ相応の苦労をしないといけなかったり、周りに迷惑もかかるンだ」
U「ところで、このクッキー、あと2枚しかないケド…」
I「私食べてもいい?」
K「そうすると残り1枚しかなくなっちゃうよ。Uさんと次衛さんもいるし、私と半分こしよ、I」
I「しょぼーん…」
九「僕もいるよ」
I「きゃっ!」
K「ぎゃっ!」
U「イイよ、次衛くんと九くんで半分こして。私はガマンするから」
I「え?ご ごめんねUちゃん」
U「イイよ。でも、ゲーム音楽っていうのは、こーゆーコトなんだよ、Iちゃん…」
I「そっか…それじゃクッキーの代わりに…」
Uの手を握って顔を近づけるI。
U「だから、近いってIちゃん!」(慌ててのけぞる)

お金がないなら節約すれば少し優雅な暮らしができる。その視点を持つことができたのはゲーム音楽研究部との出会いがきっかけだった。さらに、お金がないなら稼げばいいという視点も持つことができたI。しかし、ゲームの開発チームの中で拡張音源を使いたいという要望を出すことは、家庭になぞらえると小遣いを増やしてもらうことと同じように難しい。家庭の財政事情を逼迫してしまうからだ。両親にこれ以上迷惑を掛けるわけにはいかない。それなら、アルバイトをしてみようか…と考え始めたIだった。

―帰り道。自転車を押しながらIとKが土手を歩いている。

I「ねえ、Kちゃん」
K「ん?」
I「ゲーム音楽ってパズルみたいで面白いと思ってたけど…」
I「お小遣いのやりくりに似てるのかなって」
K「うん」
K「お小遣いを出すお母さんも大変なんだなって、私も思った」
I「でも、私に合ってるかも」
K「どういうこと?」
I「ゲーム音楽を練習すれば、ビンボーな私でも楽しく暮らせると思うんだ」
K「うん…」(気まずそうにうつむく)
K「Iのお父さん、仕事見つかるといいね」
I「そうだね、ありがと」
I「お母さんも仕事探してるんだ」
K「そっか…大変だね」
I「私もバイト、しよっかなぁ…」

夕日をバックに二人の後ろ姿。

第2話、終わり

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?