三重構造の街つくば(2)

本題目第2回目の記事。三重構造になっているこの街を今後どうしていくべきか、という問題は前途多難だろう。そのような答えを作るのが今の私のしたいことではない。答えは各人が作るより他ない。だからそのために、レポートしたいと思って書いている。

私というのは公教育に呪縛された人間である。だからやはりこの街の学校の分布については気になった。この街は人口24万人である。人生80年時代、少子化の影響も考えれば、この人口の100分の一くらいが1学年の人口だろうとアテをつけると、1学年あたり2400人の児童・生徒がいる。大学進学率を考えれば1300人程度の4年制大学の学生もいるのではないか。と見積もることができる。公教育は、この人数に対して教員その他の資源を無理のない範囲で分配して実施されている。

小学校は小学生という発達途上の段階の児童への負担を強いることがないよう、特に学校の数を増やすことが多い。その分、6年と長くしておくことで、1学校あたりの児童数を中学校と合わせられる特徴が見て取れる。つくば市では中学校1つに対して2~3校程度を目安に配置しているようである。ただし、一部では義務教育学校として9年一貫の学校を設けており、将来的にはそのスタイルにすることも視野にあるようである。いずれにせよ、つくば市では「小中一貫」志向が強く、あくまで中学校を基準に考えて、小学校は必要に応じて細分化する、という理解が可能なようだ。

中学校と義務教育学校は16校ある。1学年あたり150人程度か。

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出典ががやや古く、統合再編の影響があるため北のほうは外したが、この図の範囲では正しい区割りのはずである。この区割りを見ると各中学校は極力、伝統的住民の地域か、研究学園都市として開発された地域か、TX沿線開発で住宅化した地域かで区割りがなされており、異種の住民があまり混ざらないようになっている。確かに大穂中学校などは、花畑地区などの研究学園都市として開発された地域を含むものの、わずか16の区分でこれほど跨がないようにしているのは、おそらく意図的に混ざらないようにしているのだろう。

これは教育方針上の価値が異なる家庭と混じりたくない人たちには配慮されていると言える。と同時に、多様性を認識する大きなチャンスを削がれているとも言える。今の状況は分断を一定程度認めるスタンスなのだろう。小中学校では、自分の属している環境で生活することができる。

しかし、この状況は高校受験で一気に破壊される。高校は定員が一校当たりさらに増え、200人をはるかに超えてくる。実際、公立・私立合わせて7校しかなく、単純に全生徒がつくば市民だとして、一校当たり300人以上の定員が見込まれる。実のところ、市外部から良質な教育を求めて流入する人がいる高校が複数ある一方で、定員がつくば市民の高校生数に足りていないようである。

中等教育学校である並木中等教育学校、私立茗渓学園は東大や筑波大への合格者が例年いる進学校であり、市外からも多数の生徒が入学する。残りの5校であるが、定時制が1校、私立普通科が1校、公立工業科が1校あるため、公立の普通科はわずかに2校しかない。1校は竹園高校という県内南部地域2番手でごく一部の高成績者しか入ることができない名門校で、もう1校の筑波高校は、北部地域にある地元に根ざした高校だが、入試で要求される成績としては「底辺校」の部類にある。

したがって、多くの中学生は、地元の慣れ親しんだ環境を離れて、近隣市にある高校へと散っていく。優等生は竹園高校かあるいは隣の土浦市にある土浦第一高校あたりへと進学する。そのあたりに行けなかった場合、土浦第二高校や、牛久栄進高校といった近隣市の高校にいくことになる。高校受験では学力を基準にした環境の再編は避けられないが、それに加えて、地理的な再編がつくば市の特に中間学力層を中心に引き起こされる。

最後に、大学の話。筑波大学は2100人ほどの定員を有し、筑波学院大学の800人、筑波技術大学の90人と合わせて、つくば市全体で3000人ほどの大学定員を確保している。「研究学園都市」という割には3つしか大学がないものの、進学率を考えれば、つくば市在住の大学進学希望者の2倍程度の定員は確保している。しかし、筑波大学への茨城県出身者の進学者数は350人程度で、つくば市出身者はさらに少ないことを思えば、つくば市在住の高校生の大半は市外の大学に進学すると見るのが妥当だろう。

結果としては、地元の環境に慣れ親しんだ学生が流出し、外部の出身の大学生が大量に流入するということがつくば市で起こっていることである。大学生とは地元の街から出ていく存在ではあるが、戻ってくるのか否か。研究学園都市建設から50年。そこで最初期に生まれ育った子達はつくばにいるのか?そして、いたとしたら、その子達はもう大学生になろうとしているはずだが、果たして、いずこにいるのだろうか。

戻ってこないとすれば、新たな流入者を受け入れ続けることで均衡を保つ社会ということになる。筑波大学や筑波学院大学が引き込んだ学生や、市内の多数の研究所が引き込んだ研究者たちから生まれる二世はつくば市を離れるが、大学や研究所がまた引き込んでくる。それの繰り返しである。

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