電気料金の値上げをめぐる考察
*「週刊エネルギーと環境」に掲載した記事ですが、発行から時間もたったので、公開します。
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2021年から2022年にかけて、電気料金の値上げが続いてきた。これは主に、火力発電所の燃料となる石炭やLNGなどの価格が高騰してきたことによる。主要な小売電気事業者の電気料金メニューにある燃料費調整額は、燃料価格に連動しており、自動的に値上げとなっていた。電力各社は自由化料金を引き上げる一方、低圧の規制料金の値上げを申請している。ただし、規制料金については電力・ガス取引監視等委員会(電取委)が旧一電に対して見直しを求める方針で、再計算となれば値上げは6月からとなる見通しだ。
再計算で先送りされる規制料金値上げ
2016年に電力小売全面自由化となったが、このときに、消費者の保護や新電力の競争力を育てるといった目的で、低圧の従来型の電気料金メニューは規制料金として残された。一般的な世帯は、小売電気事業者や料金メニューの変更がない限りは、規制料金のメニューによって電力の供給を受けることになる。
この規制料金は、当初は2020年3月末で撤廃される予定だったが、十分な競争者が育っていないことなどを理由として、存続されることとなり、現在に至っている。
規制料金は電気の使用量に応じて三段階で単価が決まっており、燃料費の価格によって燃料費調整額が上下し、一定の範囲で単価が自動的に変動するしくみとなっている。2022年なかばまでの規制料金の値上げは、燃料費調整額の上昇によるものだった。しかし、上限に達したことから、それ以上の値上げについては、経済産業省への申請が必要となっていた。
今回、中部電力ミライズ、関西電力、九州電力の3社を除く残りの7社が、規制料金の値上げを申請していたが、審査にあたって、再計算が求められたということになる。
再計算が求められた理由は、足元の化石燃料の値下がりだ。電気料金の値上げの主な要因となってきた石炭の国際市場価格がピーク時のおよそ半分となっているほか、LNGのスポット価格も欧州の暖冬の影響で価格が落ち着いている。そのため、値上げの根拠とする燃料費のデータについても、現状にそったものにすべきということだ。
実際に各社は電取委の料金制度専門家会合で、2022年11月からの3か月間の燃料費で試算した結果を示したが、北陸電力を除いていずれも値上げ幅が圧縮される結果となった。
とはいえ、規制料金の値上げをすんなりと認めなかった理由はほかにもある。それは、旧一電による、新電力顧客データの不正閲覧事件や、関西電力などによるカルテルといった問題があるからだ。
旧一電では、情報遮断されているはずの送配電事業部門から、顧客データを入手し、新電力への契約切り替えを進めようとしていた顧客に対する取り戻し営業が行われていた。また、関西電力と中国電力、九州電力、中部電力などとはカルテルを結び、互いのエリアに進出しないようにしていた。河野太郎消費者相はこれらの事件と値上げを関連付け、値上げを抑制する趣旨の発言を行っている。実際の値上げにあたっては、消費者相と経産相との協議も必要となりそうだ。
旧一電にとっても新電力にとってもメリットのない値上げ抑制
今回の値上げ先送りは、見方を変えると、電力システム改革が適切に行われてこなかったことが浮き彫りとなってくる。
そもそも、2020年に規制料金を撤廃できなかったのは、競争力を持つ新電力を育てられなかったということが大きな要因だ。しかも当時は燃料価格が高騰する前であり、むしろコロナ危機によって価格が下がっていた。しかし、現在は多少値下がりしたとはいえ、燃料価格が高い水準にある。さらに、ウクライナ情勢が見通せないことや、新興国の需要増などから、今後も大きく値下がりすることはないだろう。
こうした状況において、懲罰的なことも含めて旧一電の値上げを抑制することは、旧一電の収支に影響を与えることにとどまらない。新電力もまた、旧一電の価格に対応する料金メニューを提供せざるを得なくなる。これは、政府が旧一電にダンピングをさせ、新電力の体力を奪うという形にならざるを得ない。結果として、電力システム改革はますます遠のくことになる。
少なくとも、不正閲覧防止に対しては、値上げの抑制ではなく、内閣府の有識者会議が示したように、送配電会社の所有分離を検討する方が妥当ではないだろうか。
また、規制料金を残した理由の1つとして、消費者保護がある。自由化が進めば、省エネ推進のインセンティブや低所得者対策となっているしくみとなっている、三段階料金の存続が難しくなるからだ。このしくみでは、使用量の少ない需要家に赤字で電力を供給することになる。ただ、このしくみの存続は、別途考えられるべきものではないだろうか。
激変緩和措置で送れる日本の脱炭素
政府は電力と都市ガスに対し、激変緩和措置として、2023年1月から8月の使用分、1kWhあたり低圧で7円、高圧と特別高圧に対して3.5円、都市ガスは1m³あたり30円の値引きの負担を行っている。9月の使用分についてはこの半額となる。
消費者としては、高値が続いていた電気代やガス代が引き下げられるため、ありがたい話だ。しかし、この措置は脱炭素政策という点では禍根を残しそうだ。
ガソリン価格については、電力や都市ガスに先行して激変緩和のための補助金が石油会社に支給されており、価格を抑制してきた。しかしこの政策が、日本国内における電気自動車の普及をさまたげてきたのではないかという批判がある。実際に、電気料金が高騰したといっても、ガソリンよりは割安であることは間違いない。そうであれば、同じ補助金を電気自動車関連に使うべきだったという見方ができる。
電力に対する激変緩和措置も同様だ。電気料金が高ければ、企業はPPAなどの形で再エネを導入するインセンティブがはたらく。一般家庭においても、住宅用太陽光発電の導入が加速するであろうし、あるいは新電力が安価な電源として再エネ開発を進めるということも考えられる。
その点では、激変緩和措置は脱炭素政策に逆行するともいえそうだ。
問題はそれだけではない。電力、都市ガスに加えてガソリンも含め、9月末で措置が終了することになっている。冬期は化石燃料の需要期であり、再び高騰する可能性がある。激変緩和措置の延長がないとは限らないが、もし9月末で終了すると、消費者は急激な価格上昇に直面する可能性がある。
当面は高止まりする電気料金
化石燃料の価格は、脱炭素化という世界の流れから、上流部門への投資が抑制される一方、新興国の需要が増えるため、当面は高止まりすることが予想される。したがって電気料金が以前のように安くなることはないだろう。
一方、LNGが十分に確保されれば、昨冬同様、日本卸電力取引市場(JEPX)のスポット価格が急騰することはない。これには、需要サイドでの省エネの取組が進んだということも指摘されている。2024年度以降は、容量市場が機能するため、電源不足の可能性は小さくなる。
電気料金全般が高止まりする中で、注目しておきたいのは、時間帯別料金メニューやダイナミックプライシングの普及だ。太陽光発電の増加によって、日中のJEPXのスポット価格が割安となる一方、夕方の価格が割高となっている。そのため、割安な昼間の電気を上手に使うという取り組みが求められる。小売り電気事業者は、電気代の価格競争ではなく、電気を安く使ってもらうことで競争するということになるのではないか。2023年度は、電気料金の水準もさることながら、多様な料金メニューの登場が期待される。
(付記)
旧一電7社が規制料金の値上げを申請していたが、結果として6社が値上げ幅を引き下げられた。とはいえ、現実には、基準となる従量料金の単価が引き下げられただけで、消費者にとっては実はあまり変わらない。というのも、仮に申請通りに値上げされたとしても、燃料費調整制度によって実際の価格は引き下げられることになるからだ。このように考えると、今回の値上げの抑制は、政府・経産省のパフォーマンスといえなくもない。政府が本当に取り組むべきことは、脱炭素化に資する電力システム改革をすすめることなのではないだろうか。
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