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かしもの・かりもの以外の珍しい話を求めた高弟

ある時、高弟の一人が教祖に、
『長年、貸物借物の理も聞かしてもらつて居りますので、私達は充分のみ込めましたから、何か今日は珍らしいお話をきかして頂たうござります。』
と言つた。すると教祖は、
『さうやらう。貸物借物の理も随分長らく説いてきかしたので、みんな分かつたらうから一つ珍らしい話をきかさう』
と仰せながら、次の間へ立たれた。
暫くして、教祖は一振の刀を持つて出て来られた。そしてそれを八ッ脚の上に載せて、
『サア、珍らしい話をしてあげるから、もつと近うお寄り。』
と言はれた。弟子達は、何か珍らしい寶物でも見せて頂けるのかと思ひながら、前へにぢり寄つた。
突然! 教祖は刀の鞘を拂つてにぢり寄つて来た弟子達を真向に切り下げようとせられた。
弟子達は吃驚して、後退りしながら青い顔をして教祖を観た。
カラカラと笑ひながら、教祖は言はれた。
「まだ/\貸物借物の理は判らん。充分判つたと言ふから今日は珍らしい話をしてあげようと思うたら皆怖がつて逃げてしまふ。そんなことではまだ/\眞實の借物は判らせん。聞いたばかりで理は判らん。借物の理がほんとうに判らにや人の師匠とはなれやせん。もつと勉強せにやならん。」
─それからも、相變らず借物の理を弟子たちに説き教へられてゐた。

天理教同志会編『教祖と其の教理』
(大正11年10月,天理教同志会,p.146-147)

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