名古屋、祝日、セレナーデ

旅行で名古屋へ行った。
私は喫茶店が好きだ。
その中でも特に、歴史を感じるいわゆる”昭和レトロ感”のある喫茶店が大好きだ。
ゾクゾクするレベルで好きだ。
旅行となれば、喫茶店巡りもその大きな目的の一つとなる。
1泊の旅行ならば7、8軒くらいは行きたい。
まだ見ぬ、知らぬ土地でこれから出会うであろう喫茶店を想像するだけで軽くヨダレが出る。これは生理現象なので仕方がない。

そして名古屋と言えば喫茶店の聖地ともいえる。
私はとてもワクワクしていた。
1日目は喫茶店はおあずけで別の予定を終え、その夜から物凄く雨が降り、窓の外の激しい雨音に不安を残し、眠りについた。

朝8時、自然と目が覚めると、カーテンを開け放していた窓から青々とした眩しい空が目に入った。0.1以下の裸眼だけどわかった。嬉しい。
朝の支度を終え、外に出る。なんと清々しい秋の風、澄みきった青空。
万歳。
空を仰ぎ、たくらむような笑みを浮かべた私はグーグルマップを握りしめて歩き出した。

喫茶店は、自分の足と目で開拓した時が一番の幸福を感じるのだが、
全く知らない土地ではだいたいの目星をつけてマップに頼る。この駅の近くの商店街が良さそうだな、とか、ここの街の美術館に行って周辺を歩いてみよう。そんな感じで喫茶店を探す。

そして一件目の良い感じの喫茶店を見つけてそのドアを引いた。
中には主人らしき男性が作業をしていて私を見てすぐさま言った。
「すいません今日休みなんですよ」
あ、そうなんですねすみませーん。と、ヘラヘラして私は素早く店を出た。

そしてやっと気付いた。今日祝日じゃない?

祝日、それは喫茶店が結構な感じでやっていない日。
うっかりしていた。
それが私の名古屋放浪記の始まりだった。
歩いた。一日中歩いた。
立ち止まってスマホをのぞき込むと蚊に刺された。
入りたいと思う喫茶店はことごとく、閉まっている。減り続けるスマホの充電。それでもあきらめきれなかった。

足が痛い、肩も痛い、座りたい。座りたい。座って甘いものを、私に、水分と、甘いものと、椅子を。

意識が朦朧とする中見つけたタリーズ。

ケーキと豆乳アイスティーと背もたれのある椅子。
驚くほどみるみる元気になる。
幸せで泣きそうになった。
結局一軒も喫茶店開拓はできなかったけれど、
あの日の空の青さとケーキの美味しさは死ぬ前に思い出すかもしれない。

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