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ホッチキス


職場で、いつもは経験しないような、ある重要な任務を引き受けることになった。前から聞かされてはいたのだけれど、今日になって思いがけず緊張が襲ってきて、それが自分でも意外で、ちょっと笑えた。
「大丈夫ですよ、役者になればいいんですよ」
と頼れる社員さんがおっしゃるけれども、
『役者』が私からあまりにも遠すぎて、これまたちょっと笑えた。
いくつかミッションがあって、どれももちろん真剣にやったのだけど、そのうちのひとつは外部からみれば失敗だったらしい。私のミスではなく機器トラブルが原因だったのだけれど、それでも「失敗でしたね」と言われてしまった時に一瞬感じる申し訳なさとか、いたたまれなさとかは、私個人に対して向けられた言葉でないとわかっていても『来る』ものだなあと思った。このぐらいで(書ける程度で)すんでいるということは、すこしは私も成長したのかなと思う。


長崎の川棚に『あんでるせん』という、有名なマジックを見せてくれるお店がある。なかなか予約もとれないし、最初に行きたいと言ってから何ヶ月もたって(ほんとに忘れた頃)行けることになった。
このお店についてはカレーがおいしくないとかマスターはいくつなんだろうとか、あれはほんとにマジックなのかとか、いろんな人がブログとかで紹介されているので、そっち方面のことは割愛させていただいて、
マスターのしてくださったお話で忘れられないのがあるので今日はそれをシェア。もう20年ちかく前だからいいよね。


ある会社で働いているとイメージしてください。
あなたは上司から
「ごめん、悪いんだけどちょっと急ぎで、ホッチキス買ってきて。」
と頼まれます。
こまったな…近くに文房具屋もないし、急ぎって言われてるし…
仕方ないな、と思ってあなたはいちばん近くのコンビニでホッチキスを購入し、
急いで会社に戻り、上司にホッチキスを渡しました。
上司「どこで買ったの?」
あなた「コンビニです」
上司「コンビニかぁ」


マスターが言うには、人は大きくここでふたつにわかれるというのです。


Aさんの場合
「どこで買ったの?」
「コンビニです」
「コンビニかぁ」
はい。


Bさんの場合
「どこで買ったの?」
「コンビニです」
「コンビニかぁ」
いけませんでしたか?


上司から『急ぎで』『ホッチキスを買ってくるように』と言われて、あなたはそのとおりにした。任務は無事、完了です。

上司の「コンビニかぁ」は、
「急ぎでって言ったからね。だからか。早くて助かったよ、ありがとう」みたいに続くかもしれない。

でもBさんは、
「コンビニかぁ」で、

もう少し先まで行けば文房具屋もスーパーもあったのに、コンビニで(割高で)買ってきたのがダメだったのかな…

もしくは

えっ何?買ってこいって言ったのそっちじゃん!文句は言わせないよ!

・・・どちらにしてもこのあと、会社でいい気分ですごすのはむずかしそう。

自分のとっさの反応がBさん寄りになっている人は、
相手が上司でなくても友達でも家族でも、無意識に同じような反応をしているのかもしれない。
それは無意識に、心持ちもすっきりしない方面を選んでしまっているということなのかもしれない。

いきなりAさんみたいにはなれなくても、自分の反応パターンを知ることとか、口ぐせに気づくこととか、そういうささやかなことの積み重ねで、すこしずつ自分を生きやすくしてあげることはできる。

ふと思い出した『あんでるせん』
気になる方はぜひ行ってみてください。



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