見出し画像

「生成文法の企て」ノーム・チョムスキー 福井直樹・辻子美保子(訳)Vol.2

・この本の構成は?
=2部構成

・1982年出版のThe Generative Enterprise の全訳
・2002年に、訳者によって行われたインタビュー
プラス
・訳者による序説
・訳者あとがき
(つまりこの本は、日本語版が英語版より早く出たことになる:後に序説を英訳した英語版がでる)

・2部構成の意味は?
=温故知新に気づくため?

「その2つを読み比べてみると両者を隔てる20年の間に起こった言語理論内部の技術革新の激しさに驚くと共に、生成文法という分野を根源的に規定している問題群の不変性に改めて気づくのであった」訳者あとがき p382

・どういう本?

=こんな本読んだことない難解 レベル

生成文法の企て p190

たとえば、
・指定主語条件とは何か
・「有界理論」の下接条件とは何か
・WH移動とは何か
・束縛理論とは何か
・ケインとは誰か
・空規範源流とは何か
・ヤン・コスターとは誰か
・・・
まあ、私が強いて聞いた事があるとしたら、WH移動くらいだが、このページのGE理論と最新のミニマリストプログラムのWH移動では、「優位性条件→最小連結条件及び最短距離要素を誘因せよ、という派生に関わる経済性の原理」という様に理論も変化しているので、特に説明はしない。
「」内は引用・「ドイツ語の多重 WH疑問文の統語的・意味論的考察」吉田光演 
https://home.hiroshima-u.ac.jp/mituyos/WH-YOS99.pdfより

・何故こんなに難解になってしまうのだろう?

tenmokuの勝手な解釈だが、

文系の自然言語学の話→形式言語学(コンピュータプログラム等)の用語へ変換
(チョムスキーによる)→
それをまた、チョムスキー及び訳者により、
→文系の自然言語学の用語に再変換し→さらに日本語へ翻訳、説明を試みる

この三重にねじれた言語解釈と翻訳により、難解レベルMAXの本が生まれたと考えられる。

たとえば、以下は、が、ミニマリストプログラムを数式を用いて紹介したもの、が、チョムスキーが本において語った内容だが、チョムスキーはここで、ミニマリストプログラムの成り立ちに対して、確かに非常に大切なことを述べている。しかしスッと頭に内容が入るだろうか?このような文が苦手という人は多いだろう。特にインタビュー形式の文は、臨場感はあるが、読みにくい。

ミニマリストプログラムは、以下の特徴をもつ

①X バー理論のようにあらかじめ文の骨組みを与え、そこに語彙挿入するのではない  
②→D 構造は定義不可能
③マージ、併合 Merge: 言語の唯一の構造生成操作 (Move = Internal Merge) 二つの要素を組み合わせて一つの集合を定義する。
Merge (α,β) = {α,β}
Labeling: {α,{α,β}} or {β,{α,β}}

④構造は常に二項分岐 Binary Branching
https://ocw.kyoto-u.ac.jp/wp-content/uploads/2021/03/2010_gengokouzouron-a_08.pdf
「Xバー理論によってD構造を作るシステムがあり、これは基本的には巡回的(cyclic)です。変換のサイクルがあり、これはD構造からS構造への写像を行います。そして、理論形式から意味的インターフェイスへの写像を行う、ある種の合成的意味論も存在し、これもまた巡回的です。さらに、S構造から音声形式への写像を行う巡回的な部門もあります(音韻論もある部分は合成的ですから)つまり、五つの独立した合成的な演算群があるわけで、それらが各各同じようなことをしているんです。自然がこんなに不恰好なはずはありません。特に問題となった点は、顕在的及び潜在的変換の存在です。なぜ理論形式部門におけるサイクルが顕在的サイクルを再生するのかということは常に問題とされてきました。でも、実際には、この問題は全てのサイクルに関して生じるのです。つまり、なぜ、全て巡回的で、全て合成的で、全てが基本的には同一の対象に対して働くような計算システムが五つも独立に存在しなければならないのか、という問題です。そうですね、現時点から見ると、こういったもののどれ一つとして、実は存在しない、略、D構造を作るためのXバー理論なども存在しません。これらのレベルのうち、唯一残るのは、音声形式と意味的インターフェイスです。他のもの、即ち論理形式、D構造、S構造のような厳密に言語内的なレベルは、おそらく存在しないでしょう。もしそうだとすると,サイクルは一つしか存在せず、また、「併合」(Merge)という一つの演算しかないと思います。併合というのは、「小さいものから大きなものを構築せよ」とする「無料の」(free)演算です。こうして再帰的(recursive)システムの本質的部分はただで(コストなしで)得られることになり、この併合を繰り返し適用することで次々と大きなものを作っていくのです。派生のある時点で、「相」(phase)と定義上呼ばれる統辞体が出来あがります。略 そしてこの統辞体は、解釈システムへと送り込まれます。つまり、音韻論と意味論へ移送されるのです。この二つの部門の各各で、その統辞体への処理が行われ、処理が完了すれば、統辞体に関しての記録は音韻論にも意味論にも残りません。派生は引き続き行われて、より大きな統辞体を作りその統辞体に対しても次の相でまた同様のことを行います。しかし、以前に作ってすでに処理済みである統辞体を見直すようなことをしません。こういった一連の演算は、基本的に際限なく行われます。文の複雑さには制限がないので、無限に行うことが可能でなければならないのです。そうやってある時点で統辞体を作ることをやめて、最終的な「音声化」(Spell-Out書き出し)が適用され、それまでに作られた最も大きな統辞体が解釈されて派生が終了します。でも、このモデルを採ると、サイクルは一つしかなく、中間的構造も一切存在しないことになります。
「生成文法の企て」二十一世紀の言語学pp298

—————————————————
memo

・マルコフ過程について(1982年)

「1995年にMITに来た当時、人々はマルコフ過程についてまるで多幸性の状態を呈していた」
「エンジニアや心理学者、そして他の権威ある分野の研究者間でのマルコフ過程への信頼ときたら、おそろしく強いものだったんです」
「マルコフ過程というものは、確率論的性質を別にすれば、有限状態オートマトンよりさらに狭いクラス」 
「マルコフ過程は、次にくる出力(これはその時点で考慮されている様々な可能性の中の一つであるわけですが)を確率論的に決定するために、たかだかK個の記号までさかのぼることを許すようなK次システムです」
「有限離散源(finite discrete source)という概念は、あるブレークスルーのように、その当時は思われていたのです」

プッシュダウンオートマトンの可能性について

・自由文脈文法で出来ることはなんでも、プッシュダウン式の記憶装置を備えた左から右へのオートメーションで可能だ
・言語処理システムが、プッシュダウンオートマトンで表されるのは理にかなっている
・その場合、プッシュダウンテープを二つにしてチューリングマシン様にする必要があるが。(ATN augmented transition network)
・欠点=知識の内部構造はどうなっているのか等の(言語学者にとっては)根本的問題は解決しない

・数機能について
「人間と類人猿の差=言語機能の計算的側面」
「言語機能と数機能は、両方、再帰的規則を用いて離散無限を扱う能力が関与」
「そのおかげで、一方では数機能が発生し、もう一方では無数の数の言語表現を作り出すことができる能力が生じた」
「この言語能力が、より原始的かも知れない概念システムと結びついた時、自由な思考を生み出す能力を・・産む」
「元々は別々に進化してきた概念システム(知覚、記号化、範疇化、おそらく簡単な推論)にたまたま偶然に、計算能力が結びついたことにより、驚くほど実り豊かな形で、人間の言語能力がうまれた」
「おそらくは、脳の大きさが変化したことか何かが原因で(計算能力が)生まれたのでしょうか」
「(計算能力がない類人猿は)概念能力はあるが、それに口を塞がれていることを意味します」
「数の機能=離散分離性」
「私の知る限り、(数機能と概念システムの合体は)おそらく宇宙の歴史のなかで一度しか起こっていません」





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?