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パンストだるま #2


どうも。テニスコートの小出です。気の休まらない日々が続きますが、皆様いかがお過ごしでしょうか?
ここでは、かつて私とだるまとパンストが、濃厚接触した際に生まれた「パンストだるま」というシロモノを紹介しています。今回紹介するのは2体目に制作しただるまです。

まったくの偶然ではありますが、実は今日5月15日は、80年前(1940年)にアメリカで初めてナイロン製ストッキングが発売された日だそうです。それまで絹製の高価なものが主流だったストッキングの世界において、安くて丈夫なナイロン製ストッキングの登場は衝撃的な出来事でした。この人類初の人工繊維である「ナイロン」を発明した人物こそ、アメリカ人化学者、ウォーレス・カロザースでした。彼のこの発明がなければ、その後の私たちの生活は大きく変わっていたことでしょう。
しかし残念なことにカロザースは、ナイロン製ストッキングが発売される3年前の1937年に、青酸カリを混ぜたレモンジュースを飲んで自ら命を絶ち、41年の短い生涯を終えていたのだそうです。

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パンストだるま

そんな決して幸せとは言えない発明者の最期を知ると、パンストをかぶって歪んだ表情が哀しみに苦悶しているようにも見えてきます。
1体目と同じく『フィジカルテンポ』の企画において制作したこのだるまは、さらなるパンスト感を演出するため、前作より表情の変化の大きい資料を参考に制作しました。激しく引っぱり上げられた頬や、めくれ上がった上唇は、前回制作したものとは一味違う「いかにもパンスト顔」と言えるでしょう。

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制作中のパンストだるま

若いころからうつ病を患っていたカロザースですが、彼の人生は全くの孤独というわけではありませんでした。しかし、彼の憂うつさはしばしば周りを不快にさせていたようです。たとえば、化学者仲間と共同生活をしていたころ、親友にあてこんな手紙を書いています。「化学以外の個人的経験について報告すべきことはほとんどない。田舎に引越し、3人の独身男たちと住んでいる。彼らはシルクハットとホワイトタイをつけてよく出かけているが、私は家の中で不機嫌に座っている」。今でいう「リア充爆発しろ」みたいなことでしょうか?また別の友人には「懐中時計に青酸化合物をしのばせている」とうそぶいて見せたという話もあるようです。
化学者としての優秀さとは裏腹に、いや優秀だからこその、このめんどくさい人物像を知ったとき、私は彼にそこはかとない人間らしさとともに、強い親しみを感じずにはいられませんでした。

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パンストを外した状態

人類初の人工繊維「ナイロン」の締めつけによって、前髪はへばりつき、まつ毛は逆立ち、唇はめくれ上がり、されるがままの顔のパーツたち。そんな中、最後の抵抗をするように強く食いしばられた歯。この化学(ナイロン)vs自然(顔面)という明快な対立構造の、ダイナミックなビジュアル化こそ、パンストだるまの醍醐味と言えるのかもしれません。

実は、カロザースはナイロンという歴史的な発明をしながらも、死亡した当時はナイロンの製法がデュポン社の企業秘密であったため、長く無名のままでした。そんな彼をアメリカ科学振興協会が表彰したのは2000年11月。没後60年以上が過ぎ、ようやくその功績が称えられたとき、彼の名を知る者は誰もいませんでしたが、彼の発明したものを知らない者はいませんでした。

次回は、この2年後に再び制作することになったパンストだるまを紹介させていただきます。
世界中の人々が、マスクではなく、パンストを被ることができる日が、一日でも早く来ることを願って。

【参考】

ウォーレス・カロザース(Wikipedia)

500万足が4日間で売り切れた“人類初の人工繊維”のストッキング



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