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テニスと周辺視野

中心視と周辺視のそれぞれの特徴と役割、その使用について

自分が周辺視野に触れた最初のきっかけは、宮本武蔵の『五輪書』にある「遠山の目付け」でした。これは、相手の剣や顔を凝視するのではなく、「相手の後ろにある山を見るような目線で構える」というものです。

しばらくして、野球で周辺視野システムという考え方がメジャーリーグから導入され、それを知った時に「遠山の目付けと同じだ」と共通点を見つけ、研究を始めました。中心視とは何か?周辺視とは何か?それぞれの機能と特徴、自然界での実例をベースに、研究を重ねました。

中心視と周辺視の機能と特徴

中心視は、高度な情報を詳細に解析するために使われ、そのためには時間がかかります。一方、周辺視は、粗い情報を元にして素早く処理を終わらせる特徴があります。

例えば、インパラなどの草食動物は、周辺視が非常に発達しています。彼らは、視野全体で周囲の変化を素早く捉え、「何か」が動いた瞬間に即座に反応します。彼らにとって「何か」とは、具体的に何であるかを知る必要はなく、ただ「敵から逃げる反応速度」が命を守るために重要なのです。

一方で、肉食動物は顔の前面に目があり、中心視が発達しています。これは、彼らが狩りのために詳細な情報を集める必要があるためです。発見、観察、不意打ちは、狩りの基本戦略です。

テニスにおける視覚の役割

テニスでは、視覚の役割が非常に重要です。例えば、野球のピッチングでは「投手の肘あたりを中心視で見て、周辺視でボールを捉える」という方法が普及しています。これは、ボールの移動時間が約0.4秒しかないため、中心視では脳が処理する間に間に合わないからです。

テニスでも同様に、周辺視を利用することで、至近距離から打ち込まれたボールに反応することができます。しかし、テニスの場合、ベースラインからベースラインまでの距離をカバーするためにかかる時間は0.5から0.6秒と、中心視でも処理が間に合う範囲です。そのため、テニスでは中心視が主に使われますが、周辺視も「バランス維持やターゲティング」において重要な役割を果たしています。

インドアコートでの発見

私がインドアコートのテニスコーチを始めてから半年ほど経った頃、アウトドアコートでスマッシュやサーブに違和感を覚えました。フォームに大きな問題があるわけではなく、「確率が落ちる」「力がボールに伝わらない」といった、主観的ながらも致命的な変化でした。

ある時、目をつぶって素振りをしてみたところ、その時の体内感覚がアウトドアコートで感じるものとそっくりでした。つまり、私は「インドアの梁や天井で無意識にバランスを取る癖がついていた」のです。地面を見ているわけではなく、視界が狂ってしまっていたのです。この現象を「インドアコート病」と呼んでいます。

ホームコートとアウェーコートでパフォーマンスに極端な差が出る選手は、この「インドアコート病」に近い周辺視の使い方をしている可能性があります。基本的に人間は、周辺視から地面が外れるとバランスを崩します。スマッシュの打点を前にアドバイスするのも、「コート(地面)とボールと対戦相手」を同時に見るためです。

トレーニング時の視覚の使い方

テニスのトレーニングでは、周辺視をどれだけ効果的に使えるかがパフォーマンスに影響します。例えば、ラインダッシュやスパイダーランなどのトレーニングで「ラインを中心視で見て一直線に走る」のではなく、周辺視を活用して走るべきです。また、メディシンボールを投げる際にも、トレーナーをまっすぐ見て投げるのではなく、視野を広く使うことが重要です。

才能のあるジュニア選手は、狭い範囲で鬼ごっこをしても接触事故を起こしませんが、運動センスが未発達なジュニア選手ほど接触事故率が高いことも分かっています。テニスのようなオープンスキルのターン制対人球技では、中心視と周辺視の扱いが非常に重要です。オンコートでのトレーニングにおいて、視覚の使い方を意識することで、成長効率を高めることができるでしょう。

まとめ

•	周辺視の情報から運動を起こすメリットのある条件は「0.4秒以内である」。
•	周辺視は、バランス能力に大きく関与している。
•	0.4秒以上であれば、中心視を使った方が精度が高い。
•	トレーニング時にも視野のセットに注意すべきである。

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