大雨特別警報(土砂災害)の改善

改善の目的、背景

記録的な大雨が各地で発生した7月でしたが、7月30日から大雨特別警報(土砂災害)の改善版が全国規模で運用開始となっています。本件について気象庁から報道発表は以下の通りです。

改善の趣旨は、特別警報が災害が発生している状況、警戒レベル5に対応する情報であることから、従前の50年に一度の降水量、土壌雨量指数という基準から、災害発生との関係に基づく土壌雨量指数基準に切り替えます。また、5kmメッシュの数値から1kmメッシュの数値に切り替えて、狭い領域にも発表できるようになります。

今までの特別警報はある程度広域に記録的な大雨が降らないと発表できない仕組みでした。例えば、平成25年台風第26号に伴う伊豆大島の土砂災害(犠牲者43名)や平成26年8月豪雨の広島での土砂災害(広島県だけで75名の犠牲者)といった狭い範囲に集中する大雨への特別警報が発表できませんでした。特に陸地の面積の広がりがない島嶼部については、発表することが原理的にほぼ不可能な状況でした。

土壌雨量指数とは

まず、土壌雨量指数という言葉を簡単に説明しておきます。雨が降るとそれが地面から地中にしみこみ、地中の水分量が多くなることで土砂災害が発生しやすくなります。その水分量をタンクモデルと呼ばれる手法で評価したもので、気象庁HP https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/bosai/dojoshisu.htmlから概念図を以下に示します。

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現実の雨の地中への貯留を、タンクモデルと呼ばれるシンプルなモデルで評価することになります。このモデルに過去の1kmメッシュの雨量を時々刻々と与えることで、各格子で各タンクの水分量の総計である土壌雨量指数の時系列が得られます。

注意すべきことは、異なる地点で土壌雨量指数を比較した場合、必ずしもその値が大きいから土砂災害の危険度が高いわけではありません。同一地点の過去の指数の値と比較することは意味があり、例えば過去50年に1度という値であれば、過去50年間で最も危険な状況とは言えます。ただ50年間で最も高い値だからといって災害が発生するかどうかはわかりません。そこで過去の災害とその時の土壌雨量指数との関係を調査して、災害が発生した場合の土壌雨量指数を基準にすることで、より災害との関係を明確にすることができます。

概念はシンプルですが、実際にはそう簡単ではなく、全ての1km格子で土砂災害が過去に発生しているわけでもないし、そもそも1km格子の雨量データが古い時代からきちんと得られているわけでもなく、災害発生時刻がどこまで正しいかもわからないことも多く、泥臭い仕事を積み重ねて基準作りが進められてきているものと理解しています。

改善点のポイント

気象庁の報道発表資料から改善の変更点を以下に示します。大雨特別警報には、長時間指標と短時間指標があり今回の改善は短時間指標に対して実施されます。

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50年に一度という観測統計的な指標は使わないことになりました。また、5kmメッシュで10格子以上という広がりから、1kmメッシュで10格子以上という広がりで発表できることになり、面積で言えば250平方キロメートルから10平方キロメートルと今までよりはるかに狭い範囲での基準超過で発表できることになります。

注釈に、7月30日からこの基準を運用するのは41都道府県とあり、これがどこなのか、報道発表資料では見当たりません。気象庁HPの特別警報のページにいくと土壌雨量指数による基準の地図があり、基準が未策定の地域がわかります。https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/kijun/tk_ame_map.pdf

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灰色の除外格子等ですが、除外格子はそもそも平坦であるなど土砂災害の起こり得ない地域では過去にも災害がなく基準を定めることもできないのでこうしたメッシュを発表基準から除外しています。ただ、この図では広島県、三重県など土砂災害の頻発する地域も除外格子等になっていますので、これらの地域では今後基準が定められて運用されるものと思います。

この図では、日本列島様々な色が塗り分けられていて、各地域の土砂災害がどの程度の雨で起こるのか、という情報も得られます。例えば、高知県では土壌雨量指数が480以上の基準の地域が広がりますが、岡山県では、300前後の基準であり、岡山県では、高知県よりも少ない雨量で危険な状況になることがわかります。一昨年のいわゆる西日本豪雨で、高知県より少ない雨量だった瀬戸内側で大きな被害となった背景がここにあります。

今後への期待、運用の課題

九州など、50年に一度が毎年のように発生している状況もあり、それで災害にもなっているので、発生頻度を基準とするより、災害との関係を基準とするのは正しい方向ですし、島嶼部については、特別警報を発表できる仕組みが整ったこと自体が大きな進歩だと思います。一方、旧基準と新基準が地域により混在する中での運用開始なので、現場では色々と苦労があるように思います。まずは、新基準の全国展開が早く進められるように期待したいです。

10平方キロメートル程度のスケールでの基準超過で特別警報を出していくと、どの程度の頻度で発表されることになるのか、人がほとんど居住していない地域で基準を越えた場合など、総合的な判断もあるのかもしれませんが、この辺は、今後の運用状況を見守りたいところです。

最後に、特別警報は気象庁からの最後通告であり、これを待つことなく、警戒レベル4(土砂災害警戒情報)で避難等を完了するということが基本です。そのためには、土砂災害警戒判定メッシュ情報(下記)でお住まいの地域の情報を確認することが重要ですので、よろしくお願いします。https://www.jma.go.jp/jp/doshamesh/

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