M-1グランプリ2022批評

カベポスター 93点
大声大会という設定がトップバッターに適したネタでトップバッターのハンデを気にさせなかった。
カベポスター持ち前の3回構成で1回目は紹介がてらの口をすぼめるボケ、2回目は「ん」で終わるワードチョイスボケ、3回目はしりとりリレーをしつつ口をすぼめるボケの天丼で最後に大オチとしてユリアの伏線回収をしており、ネタの構成がほんとに美しかった。大喜利をしつつ王道漫才の道を踏み外さない技術が凄い。「く」から「ぐ」に変えて「軍服」のくだりの所、変えたからには何か言うんじゃないかと思わせといて結局口をすぼめるんかい、という要素と「軍服」というワードの渋さがじわじわ広がってきて、劇場の笑わせ方を大舞台でも披露できていた気がした。


真空ジェシカ 94点
人材智則に対しての派遣のニューウェーブで心掴まれた。シルバー人材センターの設定は登場人物を多く出せるので大喜利漫才の理に適っていた。そして大喜利の一つ一つがとても強かった。(韓国の受験生のタクシーのくだりとかピンと来なかったのもあるけど)また、笑いの種類が多く技術の高さを感じた。映像ジャックのくだりは引きの笑い、パソコンでマウスを動かす時間は間の笑い、老人に対しての失礼コメントは毒要素の笑い、8法全書やかいみょんのようなストレートに面白さをぶつけられる笑い。それらをテンポ良く連続で打ってくるので相当強かった。


オズワルド 88点
とにかくスロースタートだった。中盤から後半にかけて盛り上げていくのは流石の実力だと思ったけど、前半の失速を取り返す事は出来なかった。決勝の常連になりオズワルドの面白さは周知の事実なので、前半の時点でこのまま低調で終わるわけがないと思いながら見れるくらい2人の実力を信頼して期待したし、後半確かに面白いポイントはあったけど、それでも全体を通して普通だったと思う。

ロングコートダディ 90点
前半は足音が気になって笑いづらかった。大奥の歩き方で音が和らいだのでそこで初めて声に出して笑えた。それと序盤から会場がめちゃくちゃウケていたのがTV越しでも伝わったので余計笑いづらかった。人間、周りがウケすぎていると感じると笑いづらくなるセンサーが働くのだ。Wボケでツッコまない大喜利ネタだったけど、次にどんな走り方が来るのだろうとワクワクさせてくれる時間がずっと続くのが良かった。抜いた後にボソっと言うセリフもじわじわ面白い。

さや香 94点
ロングコートダディのツッコミが無かったネタの次という順番の巡りも後押ししたと思う。ツッコミが欲しい耳になっている時で強いツッコミ系の漫才が来てくれたので気持ち良かった。順番無しに考えても、何回も見れるくらい良い漫才だった。被せ気味のツッコミとか、間を作ってのツッコミ、ツッコむ時の顔芸とか実力が随所に見られた。良すぎる故にハマらなかった箇所が勿体ないくらい。(元気のくだりとかちょっと長かった。)おとん81歳に引っかかるタイミングは最高だったし、47の時の子供に対する反応は最高の不意打ちだった。そこからの佐賀の偏見いじりは笑わせ方の振り幅がえぐかった。

男性ブランコ 92点
今大会で1番楽しいネタだった。もっと沢山の記号で責めて来て欲しかった。丁寧にいきすぎて1つの記号事故の時間が長かったと思う。後半は連続でも来て欲しかった。素人が思い付いただけでも、クレシェンドorデクレシェンドを強力なバネに見立ててペリカンの口を抑えるみたいにゴムで抑えようとするけどゴムが弾けて顔面を強打するとか、全休符を重い石に見立てて2人で運んでたけど、1人が携帯鳴ったから手を離して石が脚に強打するとか、スタッカート宙に浮いてて音符動かしたら自動で付いてくるから運ばなくて良いやんみたいな変化球とかの展開があったらもっと笑えてた。刺さった時の倒れ方も上手やし、事故った時しつこいくらいやってたアワアワを回収した時はめちゃくちゃ笑った。

ダイヤモンド 89点
言葉遊びのネタ。着眼点と発想は素晴らしいし期待したけど、最後まで爆発が起こらなかった。例題を出すのが多すぎたし、不自然ローソンとかシェフの頑張ったサラダクラスのワードが連続で来て欲しかった。その上でボケツッコミの立場が逆転するみたいな展開も欲しかった。一辺倒なまま終わっていったのが勿体なかった。

ヨネダ2000 91点
誠(小さい方)が1人何役も演じるから今誰がどうしてその動きをやっているのかを理解できないまま次の弾が飛んで来るので付いていけなくなる。たまたま自分なりの理解が出来て、その時に面白いと感じられる絵や動きだった時に初めて笑える。そんな瞬間が自分は3回あったので今回のネタは面白かったんだと思う。ヨネダで爆笑できる人は瞬時に頭の中で理解できる人or理解しなくても空気で笑える人だと思うので羨ましく思う。3年目にして声量も大きく聴きやすいし、大舞台で緊張感を一切感じさせずにこのネタをやり切る度胸は凄いと思った。

キュウ 91点
面白い空気感が個人的に好きなお笑いで、キュウはネタの独創性と喋りのスピードも相まって、喋ってない時間でもその空気感を作る事が出来る数少ないコンビだ。それは初めての決勝という大舞台でも出せていたと思う。ただ、ネタ自体は笑いの量が少なかった。鮭とシャケのとこで「全く一緒でしょう」「また海産物でしょう」と畳み掛けるところが良くて、ここから盛り上がってくるのかなと思ったけど、謎かけのくだりでまたフラットに戻ってしまって勿体なかった。

ウエストランド 93点
キュウのしっとりした空気の後に、このネタを披露出来るのは反則だなぁっと思った。ヨネダの次だったら良かったのに。という私怨は置いといて、シンプルな悪口でこんなに多くの笑いに出来るのが才能なんだなぁっと感じた。小柄で不細工で妬み嫌みの悪口を言うために生まれてきたぐらいの神から与えられたポジション。語気の強め方、被せ気味での畳み掛け方、本気で恨めしく思ってるような感じさせ方が天才的で笑いを増長させた。お笑いの裏側から佐久間さんまでのくだりで微妙な時間があったが故に1位抜けの得点を得られなかった事さえも功を奏して、10番目→最終決戦のトップバッターで連続して自分達の空気を維持しつつ2本目が出来た事がこの上なく恨めしい。運も味方していた。M-1の笑御籤システムの欠陥とも言えるし、順番の妙の面白さとも言える。いずれにせよ、このスタンスの漫才でM-1優勝した事がとても妬ましいのでせめてもの抗いとして井口がどれだけ叫ぼうと僕はネタの分析はするし皆目見当違いな事をこれからも言い続けようと誓った。

最終決戦は気が向いたら書き足します。

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