読書感想文『ノーフォールト』

ただいま2022年6月中旬、株安が進行し朝起きると米国市場が下落し毎月の稼ぎぐらいは消えていき少ない労働意欲がますます減退しておりますが皆様はいかがお過ごしでしょうか?
今回は株など下世話なことをやらなさそうな高潔な著者が書かれた一冊です。筆者の経歴は大教大付属池田小学校、灘中高、東大医学部と寸分の狂いもないトップエリートです(当時の灘中なら阪口塾ですかね)。その後も東大医学部助教授、愛育病院副院長などを経て、2000年より昭和大学産婦人科教授です。私のような泥医が土下座すべき経歴です。その後昭和大学を退官後に愛育病院の院長です。早めに金を貯めてFIREなど考えている当世の若い医師に爪の垢でも煎じて飲むべきです。正直経歴だけで本を読む前からすでにお腹がいっぱいです。

本書は読みやすいし、医学知識に乏しい泥医スイスイ読めます。
臨床研修が始まる前(今の若い先生は当たり前の臨床研修ですが、昔は医学部を出るとそのまま所謂直接入局してたんです)の2004年前後の時代背景のミステリーとしても読める小説です。当時の産婦人科(だけではなくメジャー全科がそうでしょうが)は控えめにいって地獄です。ってかこんな労働条件では3日も私はもちません。眠れない当直を10-15日して日中は大学で無給(無休)医として働く訳です。そもそも当直は眠れることが前提で眠れないなら夜勤です。清純派AV女優と同じぐらい矛盾した言葉です。それはそうとこんな労働条件で居眠りしている医局員を講師の先生が怒鳴るシーンがあり、時代を感じます。
そのような狂った労働環境でも、専門医試験前の健気な若手女医が頑張る訳です。もうね、これ『おしん』です

2000年前後でも日本の医局の労働環境は蟹工船と変わりないです。


まぁそれはおいておいて、話を本書に戻すとカイザーした患者が死んでしまします。母体死亡ですね。こりゃまずい。そしておしんな主人公が医療訴訟に巻き込まれます。そこで攻撃的な若手弁護士から心ない言葉を浴びせられるんです。まぁこれぐらいの暴言は普通ですし、何なら街宣車回したろうかとか、月夜の晩だけだと思うなよとかも臨床していたら普通に言われてますが、そこは大学で上品に暮らしている専攻医の先生ですので、精神的に病んでしまうのです。そして裁判は意外な顛末をたどります。本書はミステリーでもあるので、これ以上は述べませんが、もちろん、おしんな主人公は最後にハッピーエンドです。


これまた解説的な話で申し訳ないのですが、本書が執筆された前の1999年に横浜市大で患者取り違えて肺のオペする事件があって
https://www.yokohama-cu.ac.jp/kaikaku/BK3/bk3.html
裁判での患者さんの認容率(患者さんの勝訴率)が上がったんですよね。


そして皆さんご存じの大野事件です。無理筋な起訴で、日本の産婦人科医療並びにリスクテイクする外科系医療に打撃をあたえました。
そういう背景もあって、著者は患者と医師が法廷で争うのではなく『無過失補償制度』という制度の制定にも尽力されておられます。文句を言うだけで行動せず、いざとなれば一番先に逃げる私のような人間とは違いますね。

慢性期病院でトメ婆さん、脳梗塞後で拘縮がっつり胃瘻ballon留置中みたいな患者さんの誤嚥性肺炎しか最近みてない泥医の先生もたまにはこういう小説もいかがでしょうか?

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?