AV新法の問題点まとめ

はじめに

このnoteの内容は、AV新法の経緯と問題点を「個人の知識」として要約したものです。Twitterなどで考慮すべき指摘、あるいは文書などへのリンクは今後も強化していくことを前提にお読みください。また、記載にない事実がある場合は、ご指摘をいただけると幸いです。その結果、このnoteで上げた問題点の記述は変わっていくことも、あわせてご了承ください。
最終的には、この問題点が解消することを期待しています。

修正について

著作権について

ABEMA TVへ出演した牧原議員、NPO法人「ぱっぷす」川尻カズナ代表の発言をもとに、「契約解除後は著作権は消滅する」という前提で記載しましたが、その後「契約解除しても著作権は消滅しない」ということがわかりましたので修正しました。

発端

立憲民主党・塩村議員の問題提起要約
契約には「未成年者が契約に同意しても、親の同意がなければその契約を取消できる」という条項があるが、成人年齢引下げにより契約の解除ができなくなってしまう。実際の10代の若者の契約に関する認識が向上するわけではないので問題になる。

背景・現状認識

被害者の会、議員のコメントの要約

 ・AV出演契約をろくにしていないケースもある
 ・当日に契約、そのまま撮影というケースもある
 ・契約記載内容と、実際の撮影現場や撮影内容が異なるケースもある
 ・契約解除(や撮影コンテンツの削除)に応じてもらえないケースがある
 ・撮影されたコンテンツが流出、回収されない

一方、大手AVメーカー、AV女優、他個人的なヒアリング

撮影までには「女優とエージェントとの契約」「プロダクションとメーカーの契約」があるわけですが、以下AV業界関係者(メーカー、プロダクション、AV女優のTwitterやYoutubeの発言、あと知り合いw)
 ・契約当日に撮影ということはない
   女優に向けた撮影内容の説明
   個室などでの強要性を軽減することへの配慮
   説明後、女優からの連絡をもって契約
   契約時の様子を全作品動画収録し、提示できる対応
  など、AV業界でもクリーン化の取り組みを行っている
 ・違法アップロードの周回チェック、削除依頼など行っている。
 ・契約解除後のコンテンツは基本プラットフォームから削除。

また、AV業界には「適正AV」というものがあります。
以下に、適正AVの運用を行っているNPO法人「IPPA」のサイトを示しますが、この内容を読んでいただいて「AV新法」を読んでいただき、「既にあるもの」と「ないもの」を比較してみると、より理解が深まると思います。

・適正AV
 成人向け映像(アダルトビデオ)の総称としては「AV」が一般には認知されているが、ここで敷衍する適正AVとは、プロダクション、メーカーが出演者の人権に適正に配慮された業務工程を経て制作され、正規の審査団体の厳格な審査を経て認証され製品化された映像のみをいう。無審査映像、海外から配信される無修正映像、著作権侵害の海賊盤及び児童ポルノは、適正AVの範疇には入らない。国内の法規制に則り、確かな契約を取り交わして作られ、著作権の所在が明確であり、指定の審査団体において審査され、業界のルールに従い且つゾーニングされて販売またはレンタルされ、映像の出演、制作及び販売・レンタルの責任の所在が明確なものだけを合法な適正AVと称する。なお、将来的には適正AV=AVとして社会認知されることを目指す。

(AV人権倫理機構 適正AV業界の倫理及び手続に関する基本規則 語句の定義より)

この適正AV、つまりIPPAの認証を受けていないAVを「同人AV」と言います。この同人AV、またその他裏の事業者という「区分け」が存在するんだ、ということを理解する必要があります。

また、IPPAは、AV人権倫理機構の活動やルールに基づいて行われています。
成人年齢引き下げ問題、削除要請に対する対応状況の把握、出演強要問題、データ流出問題など、多岐にわたって事業者、プロダクションと一緒に取り組んでいることがわかります。

その中で、当初問題提起された「成人年齢引下げによる、契約取消ができなくなる」という点についても、AV人権倫理機構から
「2022.03.23 成年年齢引き下げについて」
という新ルールの通知が出ています。

https://avjinken.jp/dl/topics/20220323_seinen.pdf

<当機構は以下のように考えます>
 当業界におきましては、大手メーカーを中心に多くのメーカーでは18歳、19歳の女優の方の出演は控えており、また毎年行っている業界アンケートにおきましても、18歳、19歳の女優数はここ数年ゼロとなっております。それらを踏まえ、AVへの出演年齢を20歳以上とすることを強く推奨します。

AV人権倫理機構の活動概要はこちらにまとまっています。

一部抜粋しますが、説明時における可視化で説明の様子は全て動画で撮影され、IPPAの審査や、女性からの訴えに対して当時の様子を検証することもできるようになっています。

・コンプライアンスプログラム整備の一環として、メーカールール/プロダクションルールの策定を行いました。説明時における可視化(録画)、年齢確認の徹底、顔バレなどのリスク説明、出演の再検討期間の設定、性感染症検査・予防、無審査・無修正作品の禁止、その他、細部にわたるルールを規定いたしました。


ポイント

ここで、議員や被害者の会と、AVメーカーの言い分には齟齬がある。

こちらの動画では、出演したAV新法の推進者・牧原議員の発言、NPO法人「ぱっぷす」代表の川尻カズナさんの発言と、AV人権倫理機構の対応や現場当事者(AVメーカーや出演女優)の発言は食い違っている。
これは想像だが、議員や被害者の会の方(以降、立法サイド)がコメントする事例は実際にあるが、多くはアングラ、海外サイトを利用した販売業者の手口によるものではないか。大手AVメーカーでもゼロではないだろうが、改善されつつあると思われる。
先に書いた「適正AV」「同人AV」「裏の事業者」という区分けがあることも、どこまで理解されているのだろうか。実際に、AV人権倫理機構が毎年行っているアンケートでは18歳、19歳の出演はゼロ、と書かれている。
実際に、立法サイドから示された内容を見ると、大手AVメーカー(適正AV認証を受けた事業者)へのヒアリングや意見交換の場はなく(現在は自民党議員経由で意見書が出ているらしい)、また被害者の会の調査も実施年月は古い(確認できたのは2017年で5年前)

問題①

立法サイドの現状認識が不十分で、かつ規制するべき対象のターゲティングも不明瞭ではないだろうか。
また、そもそも立法サイドの主張する「契約がない」「当日契約から撮影」といった内容は、現行の法でも対応できる(だからこそ、塩村議員の提起は「成人年齢引下げによる契約取消ができないこと」であり、それは現行法の効果を一定認めているからだと思われる)
もう一点、IPPAの承認をうけていない「同人AV」は、対応するでしょうか。また、裏に動画を流す事業者は、もともと違法行為をしているので法律で規制したところで効果が生まれるのか、という懸念もあります。つまり、本来規制したい実態に対して、この法案が有効と言えるのでしょうか?
その一方で、適正AV事業者にも影響が出ることになる。

新案要約

全文の解説サイトがあったので引用

立法側からの新法案を要約すると以下の通り
1.AVに関しては年齢を問わず契約の取消が可能で、契約者側の不利益が発生しないように解除の主体を置く
2.契約から撮影、公開(販売)まで、考慮するリードタイムを設ける
 ・撮影は契約の一か月経過後
 ・撮影の公表は、撮影から四か月後
 ・公表は出演者に内容確認を要する
3.契約解除後の著作物の扱いはコンテンツを削除、著作権の消滅

さて、先ほどのIPPA「適正AV」と比較すると、この新法にはない取り組みが多数あり、逆に新法にしかないものは「契約から撮影のリードタイム」と「完成後の内容確認」くらいしかありません。

問題②

当初の塩村議員の問題提起から言えば、「1」で答えになっているが、「2」「3」とAV事業内容に踏み込んだ内容になっている。問題①でも指摘したが、事業内容に踏み込むには現状認識や法のターゲティングが不十分ではないか。また、そのための有識者(事業の実態を把握する有識者、著作権の有識者、デジタルコンテンツの有識者、など)との意見交換とその反映は不十分では。

ここからは、事業に踏み込んだ内容になっている部分について

問題③

「2」に関するが、実際に契約から撮影、公開までのリードタイムを設けることは、女優サイドが契約に応じるかどうか考える時間ができ、被害を減少させる効果が期待できると思われる。一方で、事業者、プロダクション、女優サイドの三者とも、契約から利益を得るまでの時間も長くなる。
特に、女性が報酬を受け取れる時期は悪化する可能性があります。現状は契約時点でプロダクション、女性、メーカー間で調整していますが、今回はリードタイムは固定的なものなので、この点はある意味で悪化しています。また、事業者もリードタイム中に女性が契約解除するリスクを考慮した支払い条件を設定するかもしれません。
通常、法改正する場合にこういった事業の利益やキャッシュフローに関して影響がある内容の場合、立法までの意見交換や、法施行時期の調整など行われるが、今回は不明。

問題④

「3」に関するが、コンテンツの削除や著作権の消滅について、立法サイドがどの程度認識をしているのか不明。特に、著作権の消滅は、「違法にアップロードされた動画の削除請求をする権利」が失われてしまうので、大きな問題になるだろう。これは現行から大きな後退になっているといえる。
また、この内容では国内法の適用外の海外サーバー、プラットフォームは対象外になる。

注意書き

新法案要件の要約で、「著作権の消滅」と記載しておりましたが、訂正いたします。当初、ABEMA TVに出演された新AV法案の推進者である槇村議員が「著作権は消滅する」と発言されたので記載しましたが、こちらは誤りだったようです。新法案の原案ではなく、議員の発言をもとに要約を書いたことはボクのミスです。申し訳ありません。

ただし、契約解除しても著作権は消滅しないが、著作権の帰属については不明です。契約解除後メーカー側には公開も販売もできない条件が付くのか、著作権放棄を行うことになるのか、あるいは著作権の帰属が移るのか、この辺の詳細はわかりません。

問題⑤

「問題①」に関連するが、自主的に対応するAV関係者を締め付ける今回の新法の影響を受けて、既存のAV関係者の協力が今後得られるか。また規制強化の影響(経済的、心理的な影響)や、で今回の新法で考慮されていない「違法アップロードへの周回と削除要請」といった活動が維持できるか、気になるところではある。
少なからず、問題④で示した「違法アップロードへの対応」については、「契約解除後は著作権が消滅する」との立法側の回答を受けて、「契約解除後は削除申請する権限がAVメーカーから失われる」ことになる。
著作権の帰属がメーカーにある場合、メーカーは公開も販売もできないので、利益を得ること自体ができません。よって、違法アップロードが起きても損失を受けることがないので著作権を保護する行動をとらない可能性が高いです。
また、著作権の帰属が女性にうつる場合、女性自身で
 違法アップロードの存在の検知が必要
 違法行為の実行者の特定が必要
といった「事実関係を明確にし、訴訟を起こす」ことが必要になるため、問題提起への回答にはならないだろう。
 ※著作権は消滅しない、とのことで訂正します。
  ただ、著作権でも肖像権でも、上記の問題認識はかわりません。

上にも書いた通り、販売、公開を制限された著作物に対して、著作権を行使する理由はメーカー側にありません。また、メーカー自体が倒産するなどで消滅する可能性も否定できません。

わたしの方にも連絡くれた方がいますが、非常に慎重な反応だった、ということです。

結論

提示された新法案は、当初の問題提起に沿った内容に限った形に集約し、裁定案をすべきでは。事業内容に踏み込んだ部分に関しては、事業の実態、事業者との認識整合、著作権運用に関する知識不足が散見される。若干の効果はあるかもしれないが、大きく後退する内容を含むため、あらためて事業者や著作権問題、デジタルコンテンツ運営の有識者を交えて、議論するべき。

その他考えられる問題点

まず、お金のない女性がいろいろ考えて出演の意思を固めても、お金が入ってくるのは一か月以上先になりますね。また、今回の新法を受けて、AVメーカー、プロダクションも利益を確保するために「ギャラの支払いは販売後」とかそういったことが起きるかもしれません。そうなると、女性がお金を手にするのは約半年後ということになります。
上記は想像ですが、しかしAV業界も事業である以上、こういったことは考えられるでしょう。事業的な面に踏み込むのであれば、事業的な観点・有識者へのヒアリングや、協力関係が必要になると思います。

また、LGBT側からはこのような意見も。
確かになあ・・・。重要なのは相互理解と、行為の安全性を保つことであって、禁止にすることが解決策になるとは限らないんですよね。

本件の感想

上記を振り返ってみると、実に「失敗プロジェクト」にそっくりだな、と思います。曖昧な目標設定、検討中に目標が拡大される、現場関係者の洗い出し不足・・・。一貫性のある説明ができず、クライアントや利用者から批判を受けたり、既に取り組んでいる業務の実態が何も変わらない、といった何の成果もないケース。酷いときは現状業務から品質や、負荷が劣化するケースもありますからねえ・・・。
また、立法関係者の方が、法案の性質を理解しているのかな、と。
例えば、契約の不履行問題を対応するのは「商取引の問題」ですが、契約から撮影、公開までを規制するのは「事業そのものの規制」です。前者は(想定される)被害者救済として早期法案化も理解できますが、後者は事業の変革、もっといえば売上・利益認識、金銭授受の現実にも影響が出ますからね・・・。それで生計を立てている人たちの環境を大きく変えるものだ、ということを理解しているのかな、と。

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