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「性別欄」は消えたけど・・・

今日(12/23)、文具などを取り扱うコクヨから「性別記入欄」のない履歴書が発売された。きっかけは2020年7月、市販されている履歴書が参考にしている「JIS規格」から、「性別記入欄」の様式例が削除されたことだ。
その背景にはオンライン署名サイトを通じて、トランジェスターの当事者や、若者の労働問題に取り組むNPOなどの署名運動があった。署名には約1万人以上が集まったという。

同じくして、ユニリーバ・ジャパンも2020年3月から、履歴書に顔写真、性別記入欄を削除し、氏名も苗字のみにするそうだ。6月にはKDDIが「ファミリーシップ申請」と題して、同性パートナーの子を社内制度上"家族"として扱う設備を実施した。
このように、企業内でも「性差別」や「性の多様性」に関心を向けた取り組みが微々たるものながらも進んでいる。

確かに履歴書の性別記入欄なんてどうでもいい。あると困る人はいるが、なくて困る人はいないだろう。会社面接は合コンじゃないんだから。
逆に、どうでもいいからこそ今まで放っておかれていた面もある。

ユニリーバ・ジャパンの人事部長も、新しい履歴書の実施にはかなり苦労したそうだ。とくに同社は、世界中で統一されたフォーマットを使っていた点も大きい。内部からの反発も多く、「夢をみすぎ」という声もあったとか。たったこれだけのことでも一大プロジェクトなのだ。

しかし、例えすべての履歴書から「性別記入欄」や顔写真が消えたとしても、課題はまだ残っている。
第一、履歴書に顔写真がなくても、面接で会えば容姿や性別がわかってしまう。本当に「相手の容姿を判断基準にしない」のであれば、外見はおろか声も隠す必要がある。
余計な詮索がないよう、質問項目も事前に決めて採点方式にする。採用者同士の同調圧力がおこらないよう面接は常に1対1。最終的な合計点が基準をこえていればはれて合格という形になる。
性別などのバイアスを排除した選考をするのなら、これぐらい徹底する必要があるだろう。まぁここまでやると「成り代わり」で面接をうけるなんて不正も起こりそうなものだが。

しかし、バイアス(偏見、先入観)の影響力はそれほど根強いものだ。
国連開発計画の調査によると、日本人の約7割はジェンダー・バイアスを持っているらしい。男女別にみると、男性が73%女性が65%。つまり日本人のほとんどが、社会的な性別に対して何かしらの先入観を持っていることになる。

興味深いのは、女性にもジェンダー・バイアスを持つ人が多い点だ。
なるほど、未だ女性への偏見があふれる社会のなかで、劣等感を抱えたり、自分の価値を低く見積もってしまうような先入観があるかもしれない。
一方、先入観で男性を敵視したり、自分や他者の「女らしさ」や「男らしさ」に執着するような考え方も、立派なジェンダー・バイアスだ。
ジェンダーの話になると、どうしても女性の地位向上に論点が向きやすいが、女性がジェンダーの問題において、必ずしも被害者の立場にあるわけではないのだ。

すべての人のバイアスを取り除き、意識を変えることは難しい。スマホが1、2年で世界中に広まったように、人の意識が変われば楽なのだが(それはそれで怖い社会だ)。
それでも、履歴書の改定は一つの進歩だろう。是非とも「大きな一歩」で満足で満足することなく、二歩、三歩と歩みを進めてほしい。


※ひとこと
一番懸念しなければならないのは、「大きな一歩」に満足して、その後しばらく停滞することだ。これに乗じて立て続けに改革が進んでいくといいんだけれど。

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