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エイプリルフールはうそみたいな本当の日

 泰(やすし、ヤス)が亡くなって3度目の春です。今年は仙台も既に初夏の装いです。

 体調がいくぶん安定するとヤスは社会復帰の道を模索するようになりました。神戸に向かうことを意識しはじめた2018年や2019年の春には、日差しが柔らかくなって桜のつぼみが膨らんでくる頃から、日に日に濃くなっていく緑のトンネルの下を、体力作りを兼ねたヤスと一緒に散歩したものでした。
 

ヤスの散歩道

 12年前の2012年4月1日は忘れることのできないエイプリルフールです。
 この日にヤスは東京三鷹の杏林大学病院で「急性リンパ性白血病」の診断をうけ即入院。検査の結果、4月5日には「フィラデルフィア陽性型」も判明しました。神戸大学の大学院前期課程を修了し就職のために上京してちょうど1年、26歳の春でした。
 
 東京に住むヤスの姉から知らせを受け、とりあえずの着替えを詰め込んで仙台駅に駆け込み、乗車券だけを手に新幹線に飛び乗った日のことが途切れ途切れの記憶の中で思い出されます。

 あの日最初に病室で見たヤスは点滴を受けながら静かに目を閉じていました。
 激痛に耐えられず、日曜日の早朝、救急で飛び込んだ時の当直医が運良く血液内科の先生で、その場で緊急入院になったのでした。
 私たちが病院に着いたときは、薬が効いて痛みが和らぎ眠っていたのかも知れません。
 
 その夜から数日、母が夜も付き添いをすることになりました。昼間は病室の窓から見える杏の花を見て「泣ける」と涙をこぼし、夜は痛みと不安もあって眠れず一人で涙を拭く姿がありました。

   緊急入院直後に入った病室のすぐ下は道路で、向かい側には大学の学生食堂がありました。入学式の日に談笑する新入生達の様子を窓にもたれてじっと見つめていたヤスを思い出します。
 この日からヤスは、8年余、長期入院では24時間、短期入院、外来通院の日も、ほぼ毎回点滴を受ける闘病生活を送ることになります。
 
 ヤスはたくさんの友人、知人の皆さんの精神的な支えに感謝しながら、厳しい治療を乗り越えてきました。
 2012年4月から9月は杏林大学病院に入院し、造血幹細胞移植の治療を受けました。同年10月からは東北大学病院に入院、翌2013年6月半ばまで再発防止治療を受けました。
 その後約6年間、東北大学病院への入退院を繰り返しながら仙台の実家で療養し、社会復帰への準備を始め、2019年7月3日、自立を目指して青春を謳歌した神戸に移住し神戸大学病院に転院しました。
 
 「生きている間に好きなことを好きな場所でしたい。2年をめどに見通しをつけたい」。ヤスはこのように言って神戸に向かいました。しかし長期の闘病生活に由来する基礎体力の損耗や免疫不全、多臓器及び皮膚疾患、ステロイド多用の後遺症等が重なり、2019年10月1日から翌2020年3月27日まで長期入院、短期間の退院を挟んで5月15日から再入院を余儀なくされ、2020年7月19日午前4時18分に永眠しました。享年34才6ヶ月でした。
 
 ヤスが亡くなって以後、ヤスの足跡をたどる中で、ヤスが元の職場の同僚の皆さん、神戸大学・大学院の皆さん、ジュジュ(サッカー)やフォルサ/ワリキ(フットサル)の仲間、cafe&bar monocroの皆さん、アルバイト先の友人・知人の皆さん、卒業した小中高の同窓生、吉祥寺のシェアハウスの皆さん、ヤスの作ったアパレルブランド「Re」や「Fudangi」の製造販売でお世話になった皆さん、等々、本当にたくさんの方々に支えられ、また親しくして頂いていたことを痛感しました。

 常日ごろヤスは、「友人と一緒にいたい、友人と一緒にいるときが一番幸せを感じることができる」、と繰り返し言っていました。またヤスは「人と人を繋げられるなにかをしたい。みんなが、ふと、集まれる場所をつくりたい」とよく話していました。「生きたい!」というヤスの願いは叶いませんでした。ヤスは「忘れられたら寂しい」、と何度か私たちにつぶやいていました。コロナのためにさまざまな制約があり、ヤスの最後の別れはたいへん寂しいものとなりました。

 ヤスが亡くなって2年余り経った2022年の秋、私たちは、ヤスと過ごした3032日を振り返り、残されたヤスの日記や私たちの看護や介護のメモなどを整理してみようと考えました。
 このブログを通じて皆さまがヤスを思い出してくださることになれば、ヤスの願いも少しは叶うのではないか、また突然の病で死と向き合うことを余儀なくされたヤスが、自立を目指して「Re」や「Fudangi」にたどり着くまでの葛藤や家族の思いを知っていただけるのではないか、と思うようになりました。
 
 最初に杏林大学病院に入院した当初ヤスがどんなことを感じ、また考えていたのかを記したヤスの日記を紹介したいと思います。

ヤスの日記

(株)YAS

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