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70年代以前の西部劇十選

70年代以前の西部劇とは?

 ウェスタン(Western)の訳語です。19世紀後半の西部開拓時代のアメリカの西部(アリゾナ州、コロラド州、カリフォルニア州、ニューメキシコ州、ネバダ州、オクラホマ州、テキサス州およびユタ州とその地域)を舞台にした映画や小説をさします。ストーリーは善玉と悪玉が登場する勧善懲悪が基本。西部劇の黄金期は50年代から60年代。数々の名作西部劇のヒットの陰に、二本立ての添え物として多数作られたのがランドルフ・スコットを代表とするB級西部劇。そしてその後生まれた多数のテレビ西部劇。スティーブ・マックイーン、ジェームズ・コバーンチャールズ・ブロンソン等、ここから生まれたスターが勢揃いしたのが『荒野の七人』(1960)です。インディアンの呼称が使えずネイティブ・アメリカンとなった70年代以降にも秀作はありますが、西部劇にはかつての勢いはなくなりました。
 

1. 駅馬車 (1939)

Stagecoach  監督:ジョン・フォード監督  出演:ジョン・ウェイン

 西部劇映画を語る場合、欠かせない作品が『駅馬車』である。四度もアカデミー賞を獲得したジョン・フォード監督は、映画史上で最も忘れてはならない存在のひとりだ。鉄道が普及する以前、旅客や貨物を運ぶための四頭立て馬車が駅馬車である。アリゾナからニューメキシコに向かう、医者や貴婦人、保安官、賭博師などが乗っている駅馬車に乗り込んできたのが、脱獄囚リンゴ・キッド。ジェロニモ率いるアパッチ族の襲撃や、その襲撃を押さえ込む騎兵隊の出現、さらにはリンゴと無法者の決闘などのエピソードを挟みながら、駅馬車に乗り合わせた人々の人間模様などが描かれる。テレビの初期時代、NHKで何度も放映されただけに、当時、小学生だった子供たちにとっては、西部劇と言えばインディアンの襲撃と騎兵隊の登場、そして決闘がなくてはならないアイテムだった。この監督の西部劇は『荒野の決闘』『黄色いリボン』『騎兵隊』等多数あるが、必見のお薦めは『捜索者』。
 

2. 壮烈第七騎兵隊(1941)

They Died with Their Boots On  監督:ラオール・ウォルシュ 出演:エロール・フリン

エロール・フリン演じるカスター将軍は南北戦争勃発で北軍に属し、第七騎兵隊の司令に任命される。そしてクレイジー・ホース(アンソニー・クイン)首長のスー族との平和条約を結ぶ。ところが事態は一転。インディアンの土地の金鉱を狙う悪漢が登場。怒ったスー族の逆襲が始まる。カスターはスー族の襲撃をかわし、ホースを捕虜にする。その後、脱走したホース率いるスー族との何度かの戦い。そして、カスターと第七騎兵隊は壮烈な最期を遂げる。馬に乗るインディアン達が、丸く陣取った騎兵隊の周りをぐるぐる回る。この中心にいてインディアンを拳銃で撃ちまくるカスター。みんな死んでしまうという原題の意味を知らないと、思いもよらず騎兵隊が全滅して、あの英雄エロール・フリンが死んでしまうという結末に愕然とする。アンソニー・クイン、イコール悪役のイメージはこの時定着した。

3. 腰抜け二丁拳銃 (1948)

The Paleface 監督:ノーマン・Z・マクロード 出演:ボブ・ホープ

 移動営業のヘボ歯医者ピーターに扮したボブ・ホープと、ジェーン・ラッセル演じる歴史上有名な女性ガンマン、カラミティー・ジェーンのコメディ西部劇。インディアンの襲撃、悪漢との対決、いつもジェーンの陰の援護で助かるピーター。クライマックスは仲間を殺した疑いで、インディアンに捕らえられたピーターが縄で引っ張って曲げた二本の木に片足ずつ縛られての股裂きの刑。ブーツが脱げて空に飛び助かったと思えば、今度は火あぶりの刑。主題歌のダイナ・ショアが歌う『ボタンとリボン』は大ヒット。「バッテンボー」と歌う日本語版もヒット。ボブのファンは多く、ウディ・アレンは『ボギー俺も男だ』(1969)で、酒を飲むと耳から煙が出るというボブのギャグをオマージュ。『ノボケイン/局部麻酔の罠』(2002)で、『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』で歯医者を好演したスティーヴ・マーティンがまたもや歯医者役で登場し、ボブの使った「笑気麻酔」を使用した。

4. 真昼の決闘 (1952)

High Noon 監督:フレッド・ジンネマン 出演:ゲイリー・クーパー/グレイス・ケリー

 ゲイリー・クーパー扮する保安官が四人の無法者と立ち向かう。日曜の午前、グレイス・ケリー扮する花嫁と式を挙げる保安官。彼はこの結婚を機に保安官のバッジを外すつもりだった。ところが正午の汽車で、彼が五年前に逮捕した無頼漢がこの町に帰ってくるという知らせが舞い込む。それを駅で待つ無頼漢の弟と仲間二人。保安官は度々懐中時計を見て時間を確かめる。そして正午。無頼漢の到着と共に決闘が始まる。これもNHKテレビで何度も上映され、決闘と保安官の胸に輝く銀の星に当時の小学生たちは憧れた。音楽のディミトリー・ティオムキンは、『OK牧場の決闘』『リオ・ブラボー』『アラモ』など多数の映画音楽や映画主題歌を手がけている。テレビ映画『ローハイド』も彼で、歌うは『OK牧場の決闘』等も歌ったフランキー・レイン。『ハイ・ヌーン』はレインも歌っているがオリジナルはテックス・リッター。

5. シェーン(1953)

Shane 監督:ジョージ・スティーヴンス 出演:アラン・ラッド

 ワイオミング州開拓地では、その所有権を巡って牧畜業者のライカー一家と農民が対立していた。そこにやってきた流れ者シェーン。彼は飲み水を分けてくれた開拓者の家族の味方になる。そしてその土地にとどまり、開拓者の幼い息子ジョーイと親しくなる。クライマックスのシェーンとライカー一家、そしてライカーが雇ったジャック・バランス扮する黒ずくめの殺し屋の決闘だ。傷を負いながらも一家を倒し、ワイオミングの山へ去って行くシェーン。「帰ってきてー!」と大声で叫ぶジョーイの「遙かなる山の呼び声」。音楽はヴィクター・ヤング。この流れ者パターンは日本でも多く踏襲され、日活ではヤクザ一家に虐げられる町の人の元にぶらりとやってきて、一家を倒して去って行く小林旭扮する渡り鳥、相手の殺し屋はジャック・バランスを彷彿させる黒ずくめの宍戸錠。東映では、戦後のどさくさで、町の人々の立ち退きを騒ぐやくざ一家を倒すのが高倉健となった。

6. OK牧場の決斗 (1957)

Gunfight at the O.K. Corral 監督:ジョン・スタージェス 出演:バート・ランカスター/カーク・ダグラス

 1881年にアリゾナ州のトゥームストーンで実際に起きた銃撃戦。『荒野の決闘』で、ヘンリー・フォンダ演じた保安官ワイアット・アープを、バート・ランカスターが、ヴィクター・マチュア演じた賭博師ドク・ホリデーをカーク・ダグラスが演じた。もちろん最後は悪漢クラントン兄弟一家とワイアットとドクの決闘だ。リチャード・ウィド・マーク主演の『ゴーストタウンの決斗』、カーク・ダグラス主演の『ガンヒルの決斗』と合せてスタージェスの決斗三部作といわれている。スタージェスは、この作品が気に入らなかったらしく、後に史実に忠実な『墓石と決闘』(1967)を作った。また『七人の侍』のリメイク、『荒野の七人』(1960)をヒットさせている。この映画の主演はユル・ブリナーだが、テレビ映画『拳銃無宿』のジョッシュ・ランドルを彷彿させるスティーブ・マックイーンが人気になった。その後、マックィーン主演で『大脱走』(1963)もヒットさせている。

7.  リオ・ブラボー (1959)

Rio Bravo 監督:ハワード・ホークス 出演:ジョン・ウェイン/ディーン・マーティン

 メキシコに近いテキサスの町リオ・ブラボー。丸腰の男を酒場で射殺した無頼漢ジョーを、保安官(ジョン・ウェイン)は逮捕投獄する。ジョーの兄は殺し屋を雇い、町を封鎖。保安官は保安官補(ディーン・マーティン)と早撃ちの若造(リッキー・ネルソン)、年寄りの牢屋番(ウォルター・ブレナン)、踊り子(アンジー・ディキンソン)と保安官事務所に籠城。この時、ディーンがここでギター片手に歌う『ライフルと愛馬』がたまらなくいい。また、敵の酒場でバンドが演奏する『皆殺しの歌』のトランペットがまたいい。音楽はディミトリー・ティオムキンだ。ディーンは、登場時はボロをまとった無精髭の酔いどれで、痰壺に投げられたコインを拾う哀れな姿が、ディーンのこれまでのイメージを覆す好演。保安官補に任命されて風呂に入り髭を剃るとあのにやけたディーン・マーティンが現れるのが妙におかしい。


8. 続・夕日のガンマン (1966)

The Good, the Bad and the Ugly 監督:セルジオ・レオーネ 出演:クリント・イーストウッド

 セルジオ・レオーネ監督は『用心棒』のリメイクとしてクリント・イーストウッドを使って『荒野の用心棒』(1965)を撮った。イタリア製西部劇、マカロニ・ウエスタンの誕生だ。エンニオ・モリコーネの効果的な音楽。テレビ映画『ローハイド』ではややニヤついていたイーストウッドだが、この作品では、無精髭で登場し人気が爆発する。ディーン・マーティンの髭面がよかったのと同じ理由だ。『夕日のガンマン』から、権利関係で「荒野」を使えなくなったが、原題の「Good(善玉)」「Bad(悪玉)」「Ugly(卑劣感)」をそれぞれイーストウッド、リー・ヴァン・クリーフイーライ・ウォラックが演じ、上映時間も一番長いが飽きさせることなく、やけに洒脱になっている。イーストウッド主演・監督の西部劇は、『荒野のストレンジャー』(1973)、『アウトロー』(1976)、『ペイルライダー』(1985)、そして西部劇として一番できのよい『許されざる者』(1992)がある。
 

9. ワイルドバンチ (1969)

The Wild Bunch 監督:サム・ペキンパー 出演:ウィリアム・ホールデン/ロバート・ライアン

 1913年.メキシコに近いテキサス南部の町。パイク(ウィリアム・ホールデン)率いる武装強盗団「ワイルドバンチ」は、鉄道会社を襲うが、これは罠で賞金稼ぎ達と壮絶な撃合いになる。一味はメキシコの小さな町に逃れる。マパッチ将軍率いるメキシコの政府軍部隊に協力して列車強盗で武器を奪う。ラストは政府軍部隊に戦いを挑む。展開が面白く、銃撃や爆破シーンが凄い。橋の爆破では、馬に乗ったままの一個団がスローモーションで橋ごと落ちていく。ホールデンとライアンという往年の西部劇スターに、その年齢を感じさせるシーンがある。すでにペキンパーは『昼下がりの決斗』(1962)で、年老いてしまった西部劇スター(ランドルフ・スコット)が老眼鏡をかけるシーンを入れた。また『砂漠の流れ者』(1970)では、ジェイソン・ロバーツに、映画ラストで友人を救おうと、新時代の到来を示す自動車に立ち向かい引かれてしまう年老いたカウボーイを演じさせている。

 10. 明日に向かって撃て (1969)

Butch Cassidy and the Sundance Kid 監督ジ:ョージ・ロイ・ヒル 出演:ポール・ニューマン/ロバート・レッドフォード/キャサリン・ロス

 実在の銀行強盗ブッチとサンダンス。頭が良く機転が利くブッチ(ニューマン)と、ハンサムで早撃ちのサンダンス(レッドフォード)の二人組は、銀行強盗の常習犯。教師をしていたエッタ(キャサリン・ロス)を仲間に加え、ボリビアに向かう。最後は警察隊との大銃撃戦。音楽はバート・バカラック。主題歌のB・J・トーマスの唄う『雨にぬれても』に乗せて、当時としては珍しい自転車に乗ってニューマンとロスが戯れるプローモーション・ビデオのような映像が挿入され、アメリカン・ニューシネマの代表作ともされている。ブッチ、サンダース、エッタは同年公開された『ワイルドバンチ』にも登場している。ジョージ・ロイ・ヒルには、同じニューマンとレッドフォードで『スティング』(1973)がある。ニューマンの西部劇はビリー・ザ・キッドに扮した『左利きの拳銃』(1958)、『ロイ・ビーン』(1972)、バッファロー・ビル役で『ビッグ・アメリカン』(1976)がある。


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