小口太郎

 小口太郎といってもほとんどの人は知らない。「われは湖の子~」で始まる琵琶湖周航の歌の作詞者。七月号の『サライ』で「素晴らしい文語詩と美しい楽想が見事に調和した名曲」と藤原正彦氏が絶賛している。
 私は一番だけしか歌えない。全部で六番まである。小口太郎は長野県岡谷の出身。東大理学部卒の科学者だ。卒業後、東京帝国大学航空研究所に入ったが、一九二三年に徴兵検査で甲種合格となり、研究所を辞め、翌年新宿の山田病院で死んでいる。享年二十六。
 私の伯母や亡父の最初の妻が二十代で早逝していることを知り、私は早逝した人の気持ちを探ろうとしている。想像している。
「人生は長さではない」と言う。早逝した人への最大限の供養なのかもしれないと思いつつ、何か割り切れないものを常に感じている。ただ生きているだけの人に比べれば、はるかに世のための人のためなのかもしれないが、それでも割り切れなさを感じている。

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