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【週刊消費者情報】             「霊感商法を読む」〈復刻版〉②

「どうしてこうしないんだ」という疑問をもつ


――不安や悩みにつけ込むのが霊感商法の手口ですが、被害に遭う人と遭わない人の違いはどこにあるのでしょうか?

 霊感商法は、「悪霊の祟り」などということに不幸の原因をすべて丸投げして、高額な多宝塔や祈祷サービスを購入させる手口です。不幸を解決する方法として、手っ取り早く人生をリセットできるきっかけを提供しているともいえますが、だからといって自分の置かれた客観的な条件が変わるわけではない。

 「客観的命題」の考え方でいうと、なぜ自分がそういう状況に陥っているのか原因を知り、責任も含めて反省し、それを改めることをしない限り、不安や悩みの根本的な解決にはいたりません。
 しかし、被害者の多くは、原因が取り除かれる合理的な筋道が見通せないまま、不安から脱出するためのきっかけを求めて霊感商法の勧誘に乗ってしまう。

 つまり科学的、合理的に考えなければいけないような問題でも、非合理で超越的なものに心を寄せる思考性をもった人が「だまし」に引き込まれていくのだと思います。逆に、事実を徹底して見極めるような人は、被害に遭いにくいのではないでしょうか。

――被害に遭わないための予防策はありますか?

 家庭、学校、地域などいろいろな教育課程において、合理的なものの見方や考え方を啓発する必要があります。しかし、いくら学校で先生が合理的な認識について教育しても、家に帰れば父親や母親が心霊番組に興じているというのでは問題です。人間は実生活上の体験に流されがちですから、そこは気をつけなければいけません。

 被害予防として大事な見方は、「そんなことができるなら、どうしてこうしないんだ」という視点をもつことです。例えば「金運財布」で金持ちになれるのなら、なぜ政府は全家庭にそれを配らないのか? 短期間で英語がペラペラになる教材があるなら、なぜ学校教育がそれを使わないのか? 霊能手術でがんが取り除けるなら、なぜ昭和天皇のがんを取ってあげなかったのか?

 これは「だまし」に対抗する有効な考え方のひとつです。ただ、人には「欲得」と「思い込み」があって、これに非合理的な思考が重なるとき危険な落とし穴にはまってしまいます。

「自分だけは騙されない」は詐欺商法の思うツボ


――欲得と思い込みにどう対処すべきでしょうか?

 「金持ちになりたい」「楽に痩せたい」など、欲得は際限なくあります。例えばダイエットなら、摂取カロリーと消費カロリーのバランスで基本的には決まります。しかし、食欲という「欲」があるもんだから、空腹に耐えながら痩せるのは合理的とはいえ辛い。そんなとき「この薬を飲めば、このお茶を飲めば、”痩せる”」となれば、つい手がでてしまう。だから、世に多くの「欲得」依存型の商品があるわけです。

 次に「思い込み」に誘い入れるための手法も巧妙です。それは広告宣伝であったり、セールストークだったりします。折り込みチラシによくある「個人の感想」などを含め、消費者は疑わしいメッセージや表示に日々さらされています。

 根拠のない宣伝文句に振り回されないためには、信用に値する情報を自ら収集することと、自己を絶対化しないことが肝心です。「こんなすばらしいものがある」とか、「自分だけは騙されない」という思い込みは、霊感商法に限らず、詐欺商法の思うツボです。ですから、高齢者など情報弱者といわれる人たちには、行政はもとより、消費者団体や地域全体で情報を共有化させる活動が重要になってきます。

 もともと僕は自然科学者で、合理的思考法を基礎にしていろいろな現象を解き明かすことを知的関心事として研究者生活を続けてきました。科学者は「1+1=2」という、誰が考えても同じ答えになるような「客観的命題」しか扱いようがない。
 しかし、「どういう生き方が価値あるものか」という「主観的命題」は、宗教や芸術分野の領域です。現代人に求められているのは、この2つの命題をバランスよく身につけることではないでしょうか。
                             〈おわり〉

 安斎育郎さんへのインタビュー記事いかがでしたか? 欲得と思い込み、そして非合理な思考――この3つが重なったとき騙される、ということでした。加えて、「自分だけはだいじょうぶ」という慢心にも気をつけたいですね。
 本誌〈復刻版〉はまだまだつづきます。
                          編集室 原田修身

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