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【週刊消費者情報】          福島の風評被害に思う         

「みだれ髪」が流れる塩屋の岬

 2015年7月、ぼくは福島空港からレンタカーで一路、福島県の浜通りへ向かいました。途中、降り立ったのが塩屋の岬です。ここは美空ひばりさんの歌の舞台ともなっている有名な岬です。海に向かって建てられた歌碑には流麗な文字で歌詞が刻まれていました。
 白く大きな灯台の下の駐車場に車を止めると、近くの食堂を兼ねた土産物屋から「みだれ髪」がの歌が流れていました。
 海岸を散歩する人はちらほらいましたが、遊泳する人はもちろんひとりもいませんでした。夏の海の静かな光景に一筋、白い波が打ち寄せていました(写真上)。

『消費者情報』2015年10月号特集は「風評被害を吹き飛ばせ!」
 東日本大震災のあった2011年の夏に訪れたときは、中通りの福島市内を歩きました。がらんとした学校やプール、洗濯物が干されていない多くの住宅、値の高い野菜、立ち入り制限した公園、そのなかを除染する作業員の姿――などが印象に残っています。
 そのときは、「子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク」の代表をされていた中手聖一さんにお会いしたり、県と市の消費生活センターを訪ねて消費者相談の現況などを取材したりしました。県の消費生活センターは県庁横の自治会館1階にあり、2階には災害対策本部が置かれていました。そこはピンと張り詰めた空気が満ち満ちており、疲労困憊した人たちの表情が今もはっきりと目に浮かびます。

 それから4年後の夏、塩屋の岬とはまた別の場所で「みだれ髪」を聞くことになります。『消費者情報』2015年10月号(No.465)特集:「風評被害を吹き飛ばせ!-ふくしまの取り組み―」(写真下)のインタビュー取材で渡邊とみ子さんの仕事場に伺ったときのことでした。
 その仕事場というのは福島市郊外にある「あぶくま茶屋」というお店。渡邊さんは同志の女性農業者とともに「被災者自らの力で立ち上がろう」をスローガンにして、当時そこを拠点に活動されていました。近くには仮設住宅があって、そこに住む女性たちの楽しみは週に1度ひらかれる、あぶくま茶屋でのカラオケ教室でした。

 取材当日、ぼくは福島市内から車を飛ばし不慣れな道を尋ね尋ね、ようやくあぶくま茶屋にたどり着きました。車のドアを開けて聞こえてきたのは、カラオケに興じる女性たちの嬉しそうな声と、しんみりとした「みだれ髪」のメロディーでした。

 次回の投稿は『消費者情報』465号の記事を紹介したいと思います。
                          編集室 原田修身


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