『学食をウロウロしているワケ』島崎塔子の場合
「私、ビリー・ジョエルの『Honesty』って曲が大好きなんだぁ.•♬」
同級生の島崎塔子だ。カールした前髪をバッサバッサと手でかきあげ、甘い香りを振りまきながら、甘い声で話しかけながら、隣し座ってきた。
(な、なんなんだ ?!)
ここは学食であり、いやいやそれ以前に、島崎塔子とは大学に入学してから既に3年も経つのに、1度も話したことすらない間柄だ。
(これってもしかしてネズミ講とかのヤバいやつ?!)
冷や汗が出てきた。僕は聞こえなかったフリをし、急いで残りのカレーライスを口に運んだ。
(いやいやカレーライスなんてこの際どうでもいい。早く逃げるんだ)
そう言って身の安全を心配してくれる僕と
(いやいやいや世界では食事もままならない人がいるのに、こんなことでカレーを残すのは間違ってるぞ! しかも今日は "チキンカレー" だぞ?月にか1回しか出ないメニューだぞ? 残したら食堂のメニューから無くなるかも知れないよ?それに食堂お姐さん方が悲しむかもよ?)
そう長々とド正論を言う僕がいた。
結局、生真面目過ぎる性格が災いし、後者が勝利⋯⋯( ߹ㅁ߹)
しかし、決心した途端、口に入れるカレーライスの配分を間違えた!
あまりにもたくさんの米を噛まずに丸呑みをしてしまい、胸につかえてしまった⋯⋯( ߹ㅁ߹)
僕は慌てて傍に置いておいた、クリスタルガイザーのペットボトルをガブ飲みした。
島崎塔子は僕がそんなことになっていることには全く気付かず、鼻歌なんかを口ずさんでいる。
(もしやこれが、ビリー・ジョエルの『Honesty』ってやつか?)
そう思いつつ僕は、右手にお盆、左手にはリュックを持ち、立ち去った。
めっちゃ心臓がバクバクしている。着いて来ないだろうか?
僕はお盆に乗った食器を、「返却はこちらへ」と書いてある棚にそっと乗せ、学食を後にした。
廊下を通りながら窓ガラス越しに、学食にいる島崎塔子を横目でチラッと覗き見た。
さっきの席にまだ座って居ると思っていたら、島崎塔子は学年がひとつ上の和泉センパイに声を掛けているところだった。
島崎塔子が動くたび、薄茶色のロングヘアがふわふわと揺れる。着ていたワンピースはとても品よく、キレイなロイヤルブルーカラーだったので(南の島の海みたいだな)と僕は思った。
廊下を早足で歩きながら
(もしも、もしもだよ。ちゃんと会話していたら来年の夏休みかなんかに、『島崎塔子のワンピースの色』みたいな海に一緒に行けたかもよ?)
などとバカな妄想を囁く僕と、
(いやいや無理無理!!絶対に美人局か家来だよ!!)
と、自分の行動を正当化する、チキンである僕が、また頭の中で、会話をはじめるのだった。
〈 つづく 〉
【追記】
読んで下さりありがとうございます。
「男は最初の男になりたがり、女は最後の女になりたがる」
劇作家オスカー・ワイルドの言葉です。この言葉に僕は(恋愛するのが始めてのふたりか♡)と思ってしまったのですが、次の瞬間(あ、ちがっ⋯⋯)と、シャイな僕は気付きました⋯⋯。
そしてものがたりの最初に出てきた、ビリー・ジョエルの『Honesty』。
日本語では、正直、誠意、真実、などと訳されます。島崎塔子の『Honesty』ですが、何かを言いたくて例えてきたのか?それともただ純粋な心のみであり、この曲が本当に好きなだけなのか?後日、僕は知ることになる⋯⋯(▭-▭)✨
この島崎塔子(仮名)実在の人物。
そして今も"僕と島崎塔子"の訳分からん『謎い』オハナシは続いているのであった⋯⋯( ߹ㅁ߹)