強烈!報復野郎参上!

「ちょっと、やめろって…!」
 クラスの誰かが叫ぶ声が聞こえたけど、誰も動かない。ただ僕もその場に立ち尽くして、二人の殴り合いを見守っていた。


「やめろって言ってんだろ!」
 また別の声が上がる。でも、体育会系のあいつらは全然耳を貸さない。拳と拳がぶつかり合う音が響く。重いパンチが顔面に入り、思わず目をそらした。


「これ、ヤバいな…止めようか…?」
 隣にいた友達が小声で僕に話しかける。


「いや、でも、あいつらの間に入ったら巻き添え食うかもしれないし…」
 僕は曖昧な返事を返した。実際、止める勇気なんてなかった。


 その瞬間、鈍い音がして、ひとりが床に倒れた。もう片方が立ち上がり、息を荒げながら「終わりだ」と言い放った。クラス全体が静まり返る。


 負けた方がゆっくりと立ち上がり、そのまま教室を後にした。誰も彼を引き止めなかった。彼がそのまま引きこもりになり、そして転校してしまったのは、その数日後のことだ。


 一ヶ月が過ぎた頃、ボコった方の男子の父親が急死したという噂が広がった。


「これ、もしかして…?」
 僕は友達に話しかけた。


「何が?」
 友達は怪訝な顔をした。


「ボコられたやつ、報復したんじゃないかってさ。父親を…バレないように、何か仕組んだんじゃないかって…」


 友達は一瞬考え込むような表情をしたが、「そんなの、証拠ないだろ?」と笑い飛ばした。


 でも、僕は笑えなかった。あの日、誰も止めなかった喧嘩が、何か見えないものを動かしてしまったような気がしてならなかった。


 その噂は徐々に広がり、クラス全体に奇妙な空気が漂い始めた。誰も口には出さないが、皆がその噂を知っている。僕も、その真相が気になって仕方がなかった。


 数日後、授業が終わった放課後、僕は思い切って友達の一人に問いかけた。


「なあ、あいつの父親が急死したって、本当だと思うか?」


 友達は一瞬、驚いたような表情を見せたが、すぐに顔をしかめた。

「そういうことは言わない方がいいぞ。もしそれが本当だとしても、触れない方がいいんじゃないか?」


「でもさ、あいつの家族に何かあったって、ただの偶然だと思うか?」


「知らないよ。でもさ、そんなこと考えてもどうしようもないだろ?」
 友達は冷たく言い放ち、僕の手を引いて、教室を出るよう促した。


 廊下を歩きながら、僕は無意識にあの転校してしまった奴のことを考えていた。彼は今、どこで何をしているのだろう? 本当に彼が報復したのだろうか?


 数日後、さらに不気味な出来事が起こった。ボコった方の男子が、授業中に突然倒れたのだ。理由はわからないが、救急車が学校に呼ばれ、彼は意識不明のまま病院に運ばれた。


 その光景を目の当たりにしたクラスメイトたちは、誰もが言葉を失った。何かが、確実におかしい。それは偶然の連続なのか、それとも――。


 帰り道、僕はずっとそのことを考えていた。転校したあいつの顔が頭から離れない。彼が何かを仕組んでいるのか、それとも何か別の力が働いているのか。どちらにせよ、クラスの雰囲気は日々悪化していった。


 家に帰ってからも、僕はそのことばかりが頭を占めていた。母親が声をかけてきたが、僕はそれを適当に返事して、自分の部屋に閉じこもった。寝る前、ベッドの中で目を閉じると、再びあの日の喧嘩の光景が浮かんでくる。


「もし…本当に報復だったら、次は僕らにも何か起こるかもしれない…」
 そんな不安が、胸の中で膨らんでいく。


 そして、その夜、眠れぬままベッドの中で考えた。次の日、何が起こるのか。誰が次の犠牲者になるのか。答えは出ないまま、僕はいつの間にか眠りに落ちた。


 しかし翌朝、学校で僕を待ち受けていたのは、さらに驚愕の知らせだった。


「なあ、聞いたか?」
 教室に入るなり、友達が小声で言った。
「あいつ、昨日亡くなったんだって。あの病院で、意識戻らないまま…」


 僕はその言葉に、ただ呆然とするしかなかった。彼の死は、まるで不気味な連鎖の一部のように感じられた。


「やっぱり、あいつが…」
 僕は心の中でつぶやいたが、言葉にはできなかった。誰にも聞かれないように、僕はその思いを胸に押し込めた。


 学校全体が重苦しい沈黙に包まれている中、僕は再び彼の報復について考えずにはいられなかった。これで終わりなのか、それとも…?

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