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【今更】私に夢中にさせて忘れさせるVS絶対に立ち直らせてみせる【感動】

 田辺聖子さんの伝説の名作小説をアニメ化した『ジョゼと虎と魚たち』Netflixで鑑賞完了しました。

 20年前くらいに妻夫木聡さんと池脇千鶴さん主演で実写映画化されたものを少し見た記憶があり、足が不自由な女性の恋愛作品なんだろうなぁくらいの事前情報&認識で視聴しました。

足が悪い女の子を海に連れていく→歩けないからおんぶするという鉄板

個人的な評価
ストーリー   S
脚本      B+
構成         A-
思想      S-
作画            A-
キャラ     B+
声優・歌    B+
バランス    A
総合      S-

S→人生に深く刻まれる満足
A→大変に感動した
B→よかった
C→個人的にイマイチ


個人的な感想
 
内容的には、大学で海洋生物学を専攻してる青年・鈴川恒夫がクラリオンエンゼルフィッシュというメキシコにしか生息しない思い出の魚を見るためにメキシコ留学目指してバイトに励んでいたところ、その帰り道に下り坂を車椅子で暴走している女性を助け、それをきっかけにその祖母から女性の身の回りの世話をする高額バイトを紹介される話でした。
 サガン愛好家の女性は自らをジョゼと名乗り(本名は山村クミ子)、サガンの小説の中でもヒロインがジョゼの『1年ののち』を特に好んでいます(世間的には『悲しみよこんにちは』とかのほうが有名?)。

 バイトを始めた恒夫ですが、クミ子は足の障害ゆえ気難しく偏屈で警戒心が強く、恒夫のことを管理人と呼び、畳の目の数を数えろとか、四つ葉のクローバー見つけてこいなど理不尽な要求ばかりし、舞台が大阪で口調が関西弁なのもあって当初は性格がきつく感じられました。暴言がごきげんいかが?くらいのノリで展開される文化の違いがありますねw
 登場人物の中のひとりが関西弁とかではなく、関西弁がデフォで例外的に関東弁で話すキャラがいるという大阪雰囲気ベースのゲームやアニメを世界ノ全テくらいでしか味わったことがなかったので斬新でした。

 わざと困らせるクミ子にストレスが溜まった恒夫は、バイトの辞退を伝えようとしますが、その際にクミ子の部屋を覗き、彼女の特技が絵で、主に海を題材に描いており、海に対し強い憧れを抱いていることを知ります。
 そんなクミ子の願いと自分との共通点に共感した恒夫は、その日からクミ子と水族館や図書館や自分の働くダイビングショップに連れ出すようになります。
 その中で、障碍者に対する健常者の冷たさ、健常者と障碍者の間の心の壁、悪気ないマウント、たくましくあらねば生きていけない障碍者の実態が表現され、居心地の悪さを感じたクミ子は恒夫にもう家に来ないでくれと告げることになります。
 せっかく趣味を通じて仲良くなりかけたのに残念だなぁ…とアタイは思いました。クミ子は1人称に私ではなくアタイを使うのですが、アタイと口にする女子を押忍番長の疾風のサキ以外で初めて体験したかもしれません。

 ここまでで話が終わっていたらB評価の作品で終わっていたのですが、クミ子の祖母が心臓病で亡くなり、すでに両親も亡くなっているクミ子は経済的にも生活的にも孤立無援の苦境に立たされます。
 恒夫はクミ子が心配でお金に関係なく助けてあげたいと思うようになり、しかしそれは換言すれば、自分のメキシコ留学の夢を諦めることでした。葛藤する恒夫ですが、彼のバイト先の同僚で友達以上恋人未満の二ノ宮舞がクミ子に恒夫の夢の足を引っ張らないように迫り、クミ子のそっけない態度もあって去り際に「恒夫さんがあなたのそばにいるのは同情ですから!」と言い放ちます。このあたりの登場人物それぞれの心情は非常に心苦しく、しかし見ごたえがありました。
 同情は相手の苦しみや困難に共感し、その人の状況に同じように感じ、相手の痛みや苦しみに対して感情移入することであり、共感の一形態なのに対し、愛情は深い感情的な結びつきであり、相手への深い感情や思いやりで、ケアや支援、尊重などを伴い、長期的で持続的な関係性を指すことから、同情が永続性を帯びたものが愛情なんだなぁなんて思ったりしました。
 クミ子は恒夫に最後に海に連れて行ってくれと頼み、生活のために絵の夢を諦めることを告げます。別れといえば海。

 しかし話はそれで終わらず、海からの帰り、クミ子の電動車椅子が雨で動かなくなり、横断歩道内で立ち往生してしまいます。慌てて恒夫が助けに走りますが、赤信号の横断歩道に飛び出したので車に撥ねられます。恒夫は一命をとりとめますが、手術で右足の関節を完全に繋ぎ合わすことができず、変形性膝関節症を患ってしまします。下手したら一生歩けない、つまり泳げない状態なためメキシコ留学は見送りになり、恒夫は希望を失い自暴自棄になります。
 ここから、今まで世話をしてきたクミ子の気持ちを恒夫は身を以て味わうことになります。

恒夫に対するふたりの女性の対応
二ノ宮舞→私に夢中にさせてつらい現実や叶わなくなった夢を忘れさせてみせる。愛情の量(恒夫に対する情報量)なら私のほうが上だ!

山村クミ子→絶対に立ち直らせて見せる。愛情の大きさ(質)なら負けない!

 そして、話はクライマックスに向かっていき、このアニメの根幹的な思想が表現されますがその時点で評価がSに達しました。個人的には、障害を抱えた女性が出てくる恋愛アニメでは聲の形が一番感動したのですが、この作品は思想レベルでは超えたかもしれません。性格がよくてかわいい美少女という男子の理想形に頼ることない、不器用で美しい鶴の恩返しを見せていただきました。『人のためにすることは、巡り巡って自分のために

まとめ
 
この大変感動的なアニメを観て、虎=自分の負の部分、なんだろうな~とは思うのですが、原作や実写映画と比べて性的部分を取り除く大幅な改変を行ってるらしいのです。アニメを観る限りでは、非常にプラトニックで精神的に強い絆を感じますが、これは原作も読まなければなりませんね。新たな宿題が…。

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