夜の美しい訪問者

 あの日、Amazonで注文した2Lのペットボトルのお茶が入ったダンボール数箱が、予定の配達日になっても届かなかった。私は少し苛立ちながらも、再配達の依頼を出したが、それでも届かない。仕事で疲れ切った身体を引きずりながら、いつになったら来るのかと時計を見る。


 時計の針が夜の10時を指していた頃、インターホンが鳴った。不意に訪れた音に驚き、モニターを見ると、そこには汗だくの外国人女性が立っていた。金髪の彼女は息を切らし、肩で大きく呼吸をしている。


 ドアを開けると、彼女は拙い日本語で「オクレテ、スイマセン」と謝罪の言葉を口にした。彼女の目には疲れと申し訳なさが漂っていた。その瞬間、私は怒りが静まり、代わりに彼女に対する同情の念が湧いてきた。


 「It's okay, you had a tough time, didn't you?」と私は言葉を掛けた。彼女は感謝の笑みを浮かべながら、ダンボールを一つずつ運び始めた。汗で濡れたシャツが身体に張り付き、彼女の苦労がありありと伝わってくる。夜の遅い時間に、異国の地で、若い女性がこんなに大変な思いをしてている。そんな彼女の姿を見て、私は心から申し訳ない気持ちになった。


 ダンボールを玄関に置き終えると、彼女は再び「オクレテ、スイマセン」と日本語を繰り返し、深々と頭を下げた。私は「本当にありがとうございます」と返し、彼女に冷たい飲み物を差し出した。彼女は一瞬驚いた表情を見せたが、次の瞬間には感謝の意を込めて受け取った。


 「どうぞ、ゆっくりしてください」と私は言ったが、彼女は「ダイジョウブ、モットハイタツアル」と首を振った。彼女の言葉から、まだ他にも配達が残っていることが伺えた。私はその姿に頭が下がる思いだった。


 彼女が再び汗だくのままミニバンに乗り、夜の闇の中へと消えていく姿を見送りながら、私はふと、彼女の頑張りに応えられるような日常を送りたいと強く感じた。これからは、配達の遅延に苛立つのではなく、配達員の苦労を思いやる心を持とうと思った。


 夜の静けさの中で、彼女の姿が心に深く刻まれた。その夜、私は彼女の頑張りに感謝しながら、眠りについた。

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